話し合えない

一樹は頑張った。

冷静さを取り戻した一樹は理詰めで必死の説得を試みるも、全て空振りに終わる。

話し合いで解決する問題ならば俺だって全力で説得した。それが無理だからこそ諦めて一樹を連れてくることにしたのだ。


最後の思い出。ではないけど。こうして会えば諦めてくれると思ったのだ。


二葉姉もそれを察したのか、のらりくらりとした話し方にシフトチェンジしている。情報があまり出ないようなことしか言っていない。


「なんで、なんでなんだ」

「わたくしはこれを選択したのです。それを咎める権利は、一樹くんにありませんよね?」

「くっ」


歯噛みしながら座り込んだ一樹にかける言葉はない。

こうなるよなとため息を零してから立ち上がる。


「二葉姉ありがとう」

「お礼を言われることはしてませんよ。では、出ていくのですね?」

「一樹も満足したろうしな。これ以上ここに居る意味は無い」


二葉姉は助けられない。今の俺たちでは心を動かすことは出来やしない。可能性があったのは一樹だけ。だけど、その切り札さえも意味をなさなかったのであればここから無事に帰してもらう方に思考を変えるべきだ。


俺たちは、ここで死ぬ気はない。


「もう二度と。わたくしの平穏を乱さないと誓えるなら、ここから出てください。出口へと案内しましょう」

「みんな。それでいいな?」


最後の確認。

一樹は絶対に譲らないであろうことはわかっている。わかっているけど、心が折れた今なら頷く可能性はあった。

少し待ってみるが反応が無い。


なんでだろうと手を伸ばしーー


「お兄ちゃん待って!!」


七機に止められた。


「そこ開けて! 今すぐ!」

「お姉ちゃんごめんね」


俺と彩乃を七機が抱えて後ろに跳ぶ。五機は荷物から取り出した土を投げ捨ててゴーレム作成。ここまで運んだのに半分以上使うことに対する謝罪だろう。

俺たちを捕らえていたはずの牢が簡単に弾け飛んだところを見ると二葉姉が何かしたのだろう。


くそっ!!


慌てて片眼鏡を付けて一樹を見つめる。

その先ではーー


「逃げて。五機!!」


俺たちの数倍は大きいはずのゴーレムが何かに貫かれていた。七機の叫びで五機が逃げ出すも、貫いた何かの速度は尋常ではなく五機を串刺しにした。


三秒後に起こる未来。


それは、今の俺や七機では回避しようのない現実。目を見開き、その時が来るのをコマ送りで見つめるしか無かった。


「五機!!」


叫ぶしかない。叫んだところで結果を変えられないと分かっていても……


「状況が、変わりましたね」

「動いてくれるの!!」


二葉姉が、ゴーレムから突き出た物体を握りしめた。それをにぎり潰すと五機を掴んでこちらへと避難してくる。

透けているのに持てるのが不思議だが、今はそんなことを考える余裕はない。


「逃げて体勢を整えます。こちらへ」

「彩乃。急ぐぞ!!」

「うっうん」


五機は二葉姉に任せて追いかける。

一樹のことは心配ではあるが、今は無理だろうことは容易に想像できる。だから、体勢を整えるまでは待っててくれ。

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