夜半の出立

食いすぎた。

吐き気がするほどに腹に飯を詰め込んでトイレに籠ること数十分。やってしまったことへの後悔が胸を埋めつくす。


「大丈夫?」

「ダメかもしれない」


扉に半分だけ貫通している七機が心配そうに声をかけてくるが、精神的に受け止められる状況ではないので外へと出ていてほしい。うっ。ちょっと、波が……


「にゃはは。ここで待ってる?」

「そういう選択肢もありだよな。その場合、一樹はどうする?」

「僕が責任を持って連れて行くよ。僕自身は帰って来るから。後はあの人次第かなぁほら、前にやったでしょ?」

「彩乃と五機の出会いか」


俺にとっては一瞬の出来事ではあったが、それは結界内に入り、時間のズレがあったからだろう。中で何があったのか聞いてはいない。少なくとも、二人が無事に戻ってこられたのだからそれでいいと思っている。


「でも、今回はどうなるかなぁ〜」

「どういうことだ?」

「座に居るコッペリアンで、契約出来る人形が居ればいいけど、すでに契約済みなら……」

「一人で立ち向かうってことか」

「そう」


一樹なら、それでも構わないと立ち向かうことだろう。あいつにとって、二葉姉はそれほどまでに大事な存在なのだ。だからこそ、自分の身を気にすることなく探している。家族に、周囲に反対されようとも気にすることなくーー


「よし。大丈夫だ」

「もういいの?」

「こっち向くな!?」


まだズボン上げてないんだからさ!!


「にゃはは。ごめんごめん。お兄ちゃんが大丈夫なら、それでいいや。準備しとくね〜」

「おう」


扉から消え、フーっと息を吐く。


俺も出るか。


諸々を済まし、外に出た。本調子ではないけれど何とかなるだろう。むしろ、何とかしないといけないので薬を飲んでおく。これでどうか何とかなってくださいと祈り。外に飛び出した。


「遅い!!」

「やる気満々だな」


一樹の装備はどこかに探検に行くのかと聞きたくなるほどの重装備。ヘッドライト付きの帽子に迷彩服。背中にはパンパンに膨れたバッグを背負い、銃の代わりなのだろう。金属バッドが握られている。


「二葉姉を助けるんだぞ。そんな軽装で大丈夫だと思っているのか!!」

「お前が重装備すぎるんだよ」

「にゃはは。お兄ちゃんはむしろ軽装でないと困るよ」

「私の荷物を持ってくれるなら嬉しいですけど……」

「了解」


ナチュラルに七機が会話に混ざっているのに、一樹はまるで気にする様子はない。前しか見えていない証拠なのだろう。気にしないなら別に説明しなくともいいか。興奮が醒めてからにしないとわーわーうるさいしな。


(それでいいの?)

(いいのいいの)


すぐに分かることだしな。


「それで、どこにいるんだ。どうやれば辿り着ける?」

「そうだなぁ」


彩乃から受け取った荷物を持ち直して考える。ちょっと重いから気をつけないと落としそう。五機なんて俺の倍くらいの鉄製バッグ背負ってるからな。渡す訳にはいかない。


さて、空を飛べばすぐの距離。彩乃が運ぶ分に気にしないだろうけど、問題は一樹が暴れないかどうかである。狼狽えて暴れそうだからなぁ。


よし。


「目隠ししよう」

「なんでだよ」

「いいからいいから。早く会いたいだろ?」

「仕方ないな」


一樹からタオルを受け取り後ろから前が見えないようにしっかりと結ぶ。見えてないことを確認し、


「んじゃ行こうか」

「はい」


彩乃の手を握り、握らせ空へと行く。


「おっおい。何が起こってる。ボクに、何が起こっているんだ!?」

「気にしない気にしない」


すでに賽は投げられた。後は、一樹次第である。


無事に、帰れたらいいなぁ。



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