観測者
「ここはどこで、どうしてこうなったのか。あれはなんだったのか。全部説明してくれるんだな?」
「分かってるよ。僕が話せることは、全部話すって」
話せることはって話せないこともあるってことなのか。
不思議や疑問は多いけれども、今は呑み込んでおこう。下手に時間を使いすぎれば先程の犬に襲われる。
「まず、ここは神様が用意した箱庭。
「いや、意味が分からないんだが」
「まぁまぁ。今だけ呑み込んでよ。表面だけ理解してくれればいいからさ」
「そっそうか」
その表面すら理解出来ないような気もするんだけど……
いや、頑張って付いていけるように頭の回転はフルスロットルしとかないとな。
「○
「数字に意味はあるのか?」
「あるよ。でも、今は長くなるから生き残れたらね」
「そうか……」
話せることはってそういう意味か。
納得した。
「この場所について分かってくれたなら、次はあの犬の倒しかたかな?」
「頼む」
「あの犬を倒すには、存在の源である核を破壊しないといけないんだ。でも、それの難易度が高すぎて僕単体では不可能なんだ」
「どっかで聞くようなネタだな」
どこぞのパンツじゃないから恥ずかしくないってやつか?
まあ、あれは魔法とか重火器で戦ってるけどさ。
「にゃはは。まぁ似たようなものが多いのは仕方ないよ。ネタなんてどこでも転がってるわけじゃないからね。それに、今は現実で、ネタじゃないんだよ」
「まぁ、そうだな。笑ってられる状況じゃないわな」
「そうそう。それで、核を破壊する方法なんだけどね」
「ああ。どうやって壊すんだ」
「壊すのは簡単。だけど、それを捉えるのが難しいんだ。核が露出しても次の瞬間には移動するからね」
「うわぁ。ダルいな」
一太刀で露出しても二太刀振るう前に移動されたらそりゃ破壊出来んわな。
連擊中に運良く現れでもしないと破壊は難しいんじゃないのか?
「だから、未来を知る必要があるんだ」
「突拍子もない話が来たな!?」
「それが出来るから言ってるんだよ。そして、使うのはお兄ちゃん」
「俺が見たって意味ないだろ」
例え一秒先の未来が見えたところでズブの素人である俺では壊すどころかまともに振るうことすら出来ないだろう。戦力になんてなりはしないのだ。
「でも、僕が情報を共有出来るとしたら?」
「なるほど」
七機が未来を見ることが出来るなら話が変わってくる。
俺が見て、それを受けて七機が破壊する。そういう話なのだろう。
「討伐方法は理解した。それで、どうすれば未来を見ることが出来る?」
「右目に手を置いて左目を閉じて」
「こうか?」
指示通りの行動をする。
左目を閉じて真っ暗。右目には手がドアップであり隙間から光が入る。ただ、普段やらないことなので変な感覚がある。両方閉じてしまいそうだ。
「右目に何か出てこない?」
「何かって……あれ?」
確かに、何かの感触がある。それに、数字が見える。一って書いてあるのか?
「両目を開けていいよ」
「ああ。それで、これはなんだ」
片眼鏡らしきものが右目にくっついている。
感触はあるのに、取ろうとすれば透けてしまう。不思議な片眼鏡。この世界もそうだが、神様頑張りすぎじゃない?
「それは未来を見るための道具。神の力を宿した神具ってところかな」
「どうやって使うんだ」
「左目を閉じれば使えるよ」
「よく分からん」
やってはみるが、未来と言うのがよく分からない。齟齬があるわけでもないし、見ているのが未来なのか違うのか不明だ。
「大丈夫。大丈夫。ちゃんと信じてよ」
「まぁ、信じるしかないから信じるけどさ」
それ以外に道はない。
そして、これが上手くいかないと俺たちの命もない。
託すしか選択肢はないのだ。
「観測者ってこういう意味か?」
「うーん。与えられた力はそれぞれの座で違うから一概には言えないよ。でも、僕たちが存在するために観測者が必要。それだけは確かだね」
「よく分からん」
分からないことだらけだ。
生きて帰ることが出来たら資料にまとめないと忘れそうだな。
「空を見て」
「雲が、消えた?」
「また来るんだよ。今度は迎え撃とうね」
「頑張ってくれ」
「にゃはは」
笑みを浮かべると、近くに落ちていた木の棒を掴む。
大剣に姿を変えると、地面に寝かせて柄を握りしめる。
片眼鏡に映る景色では、黒い犬がすでに目前まで迫っている。
これが未来ではなく現実であったのであれば、俺の命はここまでだろう。
「頑張れ。七機!!」
「任せて。お兄ちゃん」
第二ラウンドの火蓋が、切って落とされた。
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