セカの街の新人冒険者1

「ふぁ。まだねむいな」


ベットから体を起こすと外は既に日が高かった。

春の終わりに差し掛かり段々と暖かくなっていく季節で掛布団が少し暑い。


昨日は皆で飲んだ後二階に併設している宿屋に泊まったのが、結構良い宿だったらしく久し振りにぐっすり休めた。


下に降りていくと店員さんに声をかけられた。


「ゴートさんですか?朝お客さんが来てましたよ。まだお休み中と伝えるとお昼にまた来ると言って戻られましたが」


確かに伝えましたよと言いながら店員は業務に戻っていく。


いったい誰が来たのだろうか。まあもうすぐお昼だしのんびり昼食を取りながら待つとしよう。

ちなみに今日の昼食は肉野菜炒めだった。中々に美味しかった。


昼食を食べ終え少し休んでいると件の来訪者が現れた。

「ゴート殿でしょうか?私はトール様の従者の・・・」


従者の要件は三つ有るらしく、一つ目は今後アイン領に住むのかどうかの確認、二つ目は兵士を続けるのかの確認、三つ目は恩賞金の受け渡しだった。


「今後はアイン領で冒険者として生きていきたいと思います。トール様にも宜しお伝えください。」


俺は昨日から考えていたことを伝える。


兵士のままであれば生活は安定したかもしれない、知り合いもできたし充実した暮らしが待っているかもしれないが自由はどうしても制限されてしまう。


そもそもデミ村を出たのも自由な生き方に憧れたためである。


であればせっかくだから冒険者として自由にすごしたい。



「承知いたしました。それでは今後とも宜しくお願いします」


従者さんを見送りつつ自分も宿を出るため手続きを行う。


この宿が良い宿なのは確実だが相応にお金がかかるのだ。


今の手持ちは10万エルと少し。今日明日無くなる金額ではないが無駄遣い出来るほどの余裕はない。


それに俺はまだこの街についても周辺の土地勘もない。


それらを確認するためにも今日は改めて街中を歩いてみよう。


一日中街をブラブラしていると色々な発見があった。


まずこの街の名前だがセカというらしい。


北には急峻な山、南には平原と森が、西には農耕地と国境側への道、東には王都への道が存在している。


東西南北に門があり基本的に北部エリアは富裕層、南部エリアが貧民層、西部エリアが農民、東部エリアが商人が多いようだ。まあ南部エリアの貧民層もそこまで悲惨な暮らしをしている訳ではなく他のエリアと比べての話だけど。


また北部エリアと東部エリアを中心に田舎では見たことがない魔道具の数々が存在する。俺が知っているのは街頭の魔道具くらいかな。


役場や各種組合は街中央に集中していてこれからお世話になるであろう冒険者組合もそこにある。


他にも武器防具屋、鍛冶屋や雑貨屋、服屋等を確認して最低限の服や日用品を買ったりしていたらすっかり日が暮れてしまった。



「一段落したら腹減ってきたな」


今日は屋台で済ませようと店を見て回り、肉や野菜をパンで挟んであるバーガーという物を選んだ。

値段も500エル程度で結構ボリュームもありこれからも買ってしまうだろう美味しさだった。


買い物ついでに店主のおっちゃんから情報収集。


「最近冒険者としてこの街に住むことになったんだけどおすすめの宿とかありますかね?」


うーんと悩みながらおっちゃんは親身に考えてくれる。少しうれしい。

「長期間街から出るような仕事が多い上級の冒険者なら組合推薦の宿屋が良いんだろうがなー。中級までは街の共同住居で良いんじゃねえか?」

おっちゃん曰く、共同住居は独り者の商人や労働者、冒険者が生活している所で宿屋との違いは曖昧な部分も有るものの主にサービスがほとんど無いことがあげられる。

飯も出ないし部屋掃除も自分でやる。トイレは共用。風呂場は勿論ない。あと部屋が狭いらしい。


おっちゃんに感謝を伝えた後、南東部で街を見ながら共同住居を探す。

恐らく値段だけで考えれば南に行けば行くほど安くなるがあまりに安いのも何か怖いので南部と東部の間を選んだ。



少し歩いていると一件の共同住居を見つけた。


『駆け出し荘』


ネーミングセンスはともかく狙う対象は分かりやすい共同住居である。


トイレ共用、風呂無し、飯無し、水だけは飲み放題。部屋にあるのはベットと言うにはおこがましい、少しだけ厚みのある板の上に布がかかったもの。

設備としては最低限という所。

だが月一万エルというのは魅力的だ。ある程度余裕が出来るまではここで暮らすとしよう。


早速受付に向かうとおばあさんがうつらうつらしていた。


「すみません。一ヶ月お願いしたいんですが」


おばあさんはゆっくり目を開けると


「あらあら寝ちゃってたのね。ごめんなさい。一万エルになります」


と柔らかい表現で対応してくれた。


こっちも少し優しい気持ちになりながらお金を支払い二階の四番の部屋の鍵を貰う。


出かけるときは受付に備え付けてある箱に入れて行くシステムらしい。


おばあさんにこれからお世話になりますと改めて挨拶をした後、部屋に入る。


表の説明通りの質素な部屋だが掃除は行き届いているようだ。


荷物を整理し、濡らした布で体を拭いてからベットに寝転がる。


「明日は取り敢えず冒険者として登録しないとな」


今日一日の散策でこの街の大まかな所は把握できた。

生活のためにも冒険者として働いていかないと。


明日に備えて早めに寝ようとベットにはいるが掛布団が薄すぎて少し寒く思わず笑ってしまった。


「まずはそれなりのマントからかなぁ」


俺は明日から始まるであろう冒険者生活に胸を弾ませつつ眠った。

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