夏休み小話編

『恋人とスクール水着とチョコミント-前編-』

『恋人とスクール水着とチョコミント』




 7月末。

 今日も朝からよく晴れている。もうすぐ8月になるだけあってとても暑い。まさに夏本番と言える暑さだ。

 今日はバイトのシフトが入っていないので、お昼過ぎから自宅で結衣とお家デートをしている。

 今は俺の部屋で結衣と一緒に、男子高校生キャラがたくさん出てくる水泳アニメを観ている。結衣がとても好きな作品だ。俺も知っている作品なので、一緒に観ようということになったのだ。

 俺は女性キャラがメインだったり、たくさん登場したりする作品を観ることが多いけど、こういう男性キャラばかりのアニメもいいな。それに、スポーツものなのもあって物語に集中できるし。

 それにしても、涼しい部屋の中で大好きな恋人と一緒にアニメを観られて幸せだ。一人で観るのも楽しいけど、結衣と体を寄り添わせ、キャラやストーリーなどについて語りながら観るのも楽しいし。俺にとって至福とも言えるひとときだ。


「面白かった!」


 キリのいいところまで見終わり、結衣は満足そうな笑顔でそう言った。


「面白かったな。大会のレースシーンは手に汗握ったよ」

「白熱したシーンだったね! 面白いからエンディングまであっという間だったな」

「そうだな」


 個人的に、面白いアニメを観ていると、気付けばエンディングになっていることが多い。今観た水泳アニメもそういった作品の一つだ。

 アイスコーヒーを一口飲むと、とても美味しく感じられる。渇いた喉が潤され、冷たさが全身に広がっていく感覚が心地いい。


「ねえ、悠真君」

「うん?」

「アニメを観ていたら、悠真君にしてほしいことができたんだけど……いいかな?」

「いいぞ。俺にできることなら」

「ありがとう!」


 嬉しそうにお礼を言う結衣。

 水泳アニメを観る中で、俺にしてほしいと思うようになったことって何なんだろう? 全然想像がつかない。


「いえいえ。それで、俺にしてほしいことって何なんだ?」

「もし、スクール水着が家にあるなら、悠真君のスクール水着姿を見てみたいです!」

「……スクール水着姿か」


 なるほど、そういうことか。アニメでは、練習のシーンや大会のシーンで主人公達がスクール水着や競泳水着を着ている。きっと、そういったシーンを見て、結衣は彼氏である俺のスクール水着姿を見てみたいと思ったのだろう。

 ちなみに、結衣のスクール水着姿は夏休み前の半日期間のときに見たことがある。よく似合っていて綺麗だったな。もしかしたら、自分は見せた経験があるのも、俺のスクール水着を見たい理由の一因かもしれない。


「スクール水着や競泳水着姿のキャラ達を見ていたら、悠真君のスクール水着姿を見てみたくなってね。金井高校には水泳の授業はないし」

「そうだな。結衣と出会ったのも高校生になってからだから、スクール水着を見せる機会はなかったもんな」

「うん。ちなみに、スクール水着って今も持ってる?」

「持ってるぞ。進学先によっては水泳の授業もあるだろうと思って、去年の中3の授業で穿いていた水着があるよ」


 実際、滑り止めで合格した私立高校には立派な屋内プールがあり、水泳の授業があるみたいだし。

 スクール水着があると分かったからか、結衣の目がキラキラと輝いて。俺のスクール水着姿を相当見たいのだと窺える。


「そうなんだ! じゃあ、スクール水着姿を見られるんだね!」

「ああ。去年から体型はあまり変わっていないから穿けると思う。……ちょっと待っていてくれ」


 俺は部屋のロッカーから、中学時代の水泳の授業で使っていた青いプールバッグを取り出す。そのバッグの中を見ると……黒いスクール水着が入っていた。


「このスクール水着だ。去年まで水泳の授業で穿いていたのに、高校では授業がないからやけに懐かしく感じるな。このバッグも含めて」

「分かる。私も前にスクール水着姿を披露するときに思ったよ」

「そっか。じゃあ、さっそく着るか。結衣はこの部屋にいるか? それとも、着替え終わるまで外で待っているか?」

「ここにいるよ。むしろ、着替えるところを見たいくらい」

「ははっ。何だか結衣らしいな。じゃあ、着替えるよ。アニメのキャラみたいにスクール水着だけになった方がいいか?」

「それでお願いします!」

「了解」


 それから、俺は結衣に見られる中でスクール水着に着替えていく。スクール水着一丁になるのでメガネを外して。

 これまで何度も一緒にお風呂に入ったり、肌を重ねたりしているので、結衣に裸を見られることに恥ずかしさはあまり感じない。結衣も嬉々とした様子で見ているのもあるかな。

 およそ1年ぶりにスクール水着を穿いてみる。……うん、特に問題ないな。ちょうどいい。結衣が希望しているから、ちゃんと穿けたことに安心する。


「結衣、着替え終わったよ。どうかな」

「凄くいいよっ! 似合ってる!」


 とても興奮した様子でそう言い、結衣は右手でサムズアップしてくる。


「結衣にそう言ってもらえて嬉しいよ。良かった」


 最高の褒め言葉だ。お気に召したようで何より。

 まさか、高校生になって恋人にスクール水着姿を見せる日が来るとは。去年、水泳の授業を受けていたときには想像もしなかったな。


「スクール水着姿になっても悠真君はかっこいいなぁ。この姿を中学時代に見られた胡桃ちゃんが羨ましいよ」

「同じクラスだった年もあったからな。男女別だけど、胡桃のいる場所で水泳の授業を受けたよ」


 そのときは、スクール水着姿の胡桃のことを何度も見ていたっけ。……って、結衣っていう恋人がいるから、あまり思い出しちゃいけないな。


「そっか。……似合っているし、いつでもその姿を見たいから、スマホで写真を撮ってもいい?」

「ああ、いいぞ」

「ありがとう!」


 嬉しそうにお礼を言うと、結衣はローテーブルに置いてある自分のスマホを手に取り、レンズをこちらに向けてくる。

 ――カシャカシャカシャ……。

 と、シャッター音が何度も聞こえてくるぞ。いったい、結衣は何枚撮っているのだろうか。あと、こういう状況は初めてだからちょっとドキドキするな。


「いい写真が撮れたよ」

「それは良かった」

「ありがとう。ねえ、悠真君、メガネをかけてみてくれないかな。メガネをかけている方がより悠真君らしいから」

「いつもメガネをかけているもんな。分かった」


 結衣カメラマンの言う通り、俺はローテーブルに置いてあるメガネをかける。かけた瞬間、結衣は「おおっ!」と甲高い声を上げる。


「いいね、悠真君! やっぱりメガネをかけている悠真君最高だよ!」


 結衣はニッコリとした笑顔で、さっきと同じようにサムズアップしてくれる。


「そういえば、スクール水着一丁のときにメガネをかけたのは初めてかも」

「そうなんだ! じゃあ、今の悠真君の姿を見るのは私が初めてなんだね」

「そうなるな」

「……嬉しい」


 結衣はそう言うと、言葉通りの嬉しそうな笑顔を見せてくれる。こういうことでも、彼氏の初めてになれたり、自分しか知らない彼氏の姿があったりするのが嬉しいのだろう。

 結衣は再びスマホのレンズを俺に向けて、メガネをかけたスクール水着姿の俺の姿を撮影していった。カシャカシャカシャと何枚も。


「ふふっ、いい写真が何枚も撮れた。ありがとう、悠真君。大切にするね」

「そうしてもらえると嬉しいよ」

「ありがとね。……視覚的には満足したけど、スクール水着姿の悠真君を見たら抱きしめたくなっちゃった。いいかな?」

「いいよ。おいで」


 と、俺は両手を広げて、結衣を受け入れる体勢に。

 ありがとう、と可愛い笑顔で言うと、結衣は俺の腕の中に入ってくる。その流れで俺をそっと抱きしめてきた。スクール水着しか着ていないから、いつもよりも結衣の温もりや柔らかさをはっきりと感じられて。


「着ているのがスクール水着だけだから、私服姿の悠真君よりも温もりとか匂いとか筋肉の固さとかをはっきり感じるよ」

「俺も同じようなことを思ったよ」

「ふふっ、そっか。素敵な姿を見せてくれてありがとう。お礼だよ」


 結衣は可愛らしい笑顔でそう言うと、俺にキスしてきた。スクール水着を着ただけだから、そのお礼としては十分すぎるもので。

 結衣とキスしながら、俺は結衣のことをそっと抱きしめる。俺は上半身裸で、結衣は私服姿だから抱きしめる感触が新鮮で。結構いいなと思えるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る