第16話『この夏最後の夜にご奉仕を』
お風呂から出た後は結衣の部屋に戻って、髪をドライヤーで乾かしたり、結衣の習慣になっているストレッチを一緒にやってみたりする。初めて結衣と一緒にストレッチをやったときはキツいと思う部分があったけど、何度か経験する中で何とかこなせるようになった。
ストレッチを終えた頃には午後10時を過ぎていた。ただ、今日は土曜日なので、
「もうすぐ『
結衣はテンションが上がっている。結衣は『鬼刈剣』という漫画が大好きで、毎週土曜日の午後10時半に放送されるTVアニメの最新話を楽しみにしているのだ。
お手洗いに行ったり、結衣が2人分のアイスティーを用意したりすると、あっという間に『鬼刈剣』の放送時間がやってきた。隣同士でクッションに座って一緒に見る。
今日放送のエピソードは戦闘シーンが一切ないものの緊張感のある内容。それもあって、結衣は真剣な表情でテレビをじっと見ており、俺に話しかけてくることはあまりなかった。
「原作の漫画で内容が分かっていたけど、緊張感のある内容だったね」
「ああ。バトルはなくても、あっという間の30分だったな」
「そうだね! 面白かった!」
満足そうに言う結衣。今日は大半の時間を集中して見ていたからなぁ。
「さてと、これから何しようか。結衣も俺も観ているアニメで土曜に放送されるのは『鬼刈剣』だけだし」
今は午後11時過ぎだから、お泊まりの夜恒例の肌を重ねる流れになるだろうか。
「私、悠真君にしたいことがあるの」
「どんなことだ?」
「それは……準備してからのお楽しみで。準備するために、悠真君は部屋の外で待っていてくれるかな?」
「ああ、分かった」
「終わったら呼ぶね」
「ああ」
俺は一人で廊下に出る。
俺にしたいことって何なんだろう? 俺のいないところで準備するほどだし……凄いことなんじゃないかと期待してしまう。それに、今はお泊まり中の夜だし。どんなことなのか楽しみだ。
今まで冷房の効いている部屋の中にいたから、廊下が少し暑く感じるけど……夏本番の時期ほどではない。あと1時間ほどで季節が夏から秋に変わるのも納得だ。
今年の夏のことを思い出すと、
「いい夏だったなぁ」
自然とそんな言葉が漏れていた。結衣の笑顔を中心に頭が思い浮かぶ。今年の夏がこんなにも色鮮やかな季節になったのは結衣達のおかげだ。明日から始まる秋も、振り返ったときに「いい秋だった」と思えるような季節にしたい。
「悠真君。準備終わったよ。入ってきていいよ」
部屋の中から、結衣のそんな声が聞こえてきた。準備が終わったのか。いよいよ、結衣のしたいことが何なのか分かるんだな。ワクワクする。
分かった、と返事して、俺は結衣の部屋の扉をゆっくりと開けた。
「お帰りなさいませ、ご主人様!」
メイド服姿になった結衣が、可愛らしい笑顔でそう言ってくれた。メイド服は黒を基調とした王道のデザイン。半袖でスカートの丈は膝よりも少し短い。胸元はやや大きめに開いており、胸の谷間もしっかりと見えている。頭に白いカチューシャをつけていて。そんなメイド服を着た結衣は、
「可愛いな」
物凄く似合っていて可愛らしい。可愛すぎて夢じゃないかと思うほどだ。
「ありがとうございます、ご主人様!」
俺に褒められたのが嬉しかったのか、結衣はとても嬉しそうな笑顔でそう言った。そんな結衣を見ていると、お盆の時期に助っ人としてメイド喫茶でバイトしていた結衣を思い出す。あのときの結衣のメイド服姿も可愛かったな。
「でも、どうしてメイド服を着ているんだ?」
「……悠真君は覚えているかな。メイドの助っ人バイトで悠真君に接客したとき、悠真君に夜のご奉仕をしたいって言ったこと」
「……言ってたな。確か、ケチャップで文字を書いてくれたときだよな」
「そうだよっ! だから、いつかは本当に夜のご奉仕をしたいと思って。ちなみに、夜のご奉仕っていうのは……私がメイド服姿になってえっちすることです」
えへへっ……と、結衣は顔を赤くして照れくさそうに笑う。その姿も凄く可愛い。まあ、メイド喫茶で「夜のご奉仕をしたい」って言われたときに予想できていたけどね。
「その夜のご奉仕が、さっき言っていた俺にしたかったこと?」
「うん、そうだよ」
「結衣らしいな」
「……今日のお泊まりが決まって、ディスカウントショップでこのメイド服を買ったの。露出度が多めのこのメイド服を」
「そうだったんだな」
今日をより楽しいものにするために、結衣も準備してくれていたんだ。それがとても嬉しい。
俺はメイド服姿の結衣をそっと抱きしめて、結衣の頭を優しく撫でる。
「ありがとう、結衣。まさか、また結衣のメイド服姿が見られるとは思わなかったよ。しかも、夏休み中に。凄く嬉しい」
至近距離で結衣のことを見つめながら、感謝の言葉を伝える。
結衣は依然として赤い顔に可愛らしい笑みを浮かべ、
「とても嬉しいお言葉です。ご主人様」
メイドらしい口調で俺にそう言ってくれた。そんな結衣がとても可愛くて、結衣に吸い込まれるような感覚でキスをした。結衣の口からアイスティーの香りと甘味が伝わってきて。甘味はアイスティーを飲んだときよりもずっと強く感じた。
俺から唇を離すと、目の前には結衣のとろけた笑顔があった。
「ご主人様から素敵なご褒美をいただいちゃいました。ありがとうございます」
「いえいえ。……そのメイド服姿が可愛いから、スマホで写真を撮ってもいいかな」
「もちろんです!」
それから、俺のスマホでメイド服姿の結衣の写真をたくさん撮った。ピースサイン、胸元でハートマーク、マグカップを手渡す、ベッドで仰向け、両手でスカートを少したくし上げるなどといったワンショットはもちろんのこと、結衣とのツーショット写真も撮った。
「うん、いい写真がたくさん撮れたよ」
「良かったです、ご主人様」
「ありがとう。ツーショット写真はLIMEで送っておくけど、結衣だけの写真はどうする?」「それも送ってくれますか? 写真を見たら、今日のことをより思い出せそうですから」
「分かった」
俺はLIMEを開いて、今撮った結衣のメイド服姿の写真を全て結衣に送った。これで大丈夫かな。
「送ったよ、結衣」
「ありがとうございますっ」
「……自然と敬語が出てるね。すっかりメイドさん気分だね」
「一日だけですけどバイトをしましたからね」
「ははっ。さすがは結衣だ」
これだけ自然に敬語が使えるならメイド喫茶でバイトするといいんじゃないか……と一瞬思ったけど、こんなに可愛いメイド服姿は俺にだけ見せてくれればいい。メイド喫茶のバイトを勧めるのは止めよう。接客業なら他にもたくさんあるし。
「ご主人様」
メイドさんらしく呼ぶと、結衣は俺のことをそっと抱きしめてくる。
「ご主人様に色々な写真を撮っていただいたら……ベッドの中で夜のご奉仕をしたい気持ちが膨らんできました。いい……ですか?」
静かな口調でそう言うと、結衣は上目遣いで俺のことを見てくる。抱きしめられているし、メイド服姿でもあるから本当に可愛い。魅力に溢れるメイドさんだよ。そんな結衣の背中に両手を回す。
「もちろんだよ、結衣。可愛いメイド姿になってくれて、可愛い写真をたくさん撮らせてくれたんだから、主としてご褒美をあげないと。それは結衣の言う夜のご奉仕と重なるけど……いいかな?」
結衣のことを見つめながら、主っぽく言ってみる。
どんな反応をされるか心配だったけど、結衣はニッコリ笑い、しっかりと頷いてくれる。
「……はい。ご主人様からのご褒美が楽しみです。たっぷりと味わいたいです」
「ありがとう、結衣」
俺は結衣にキスをして、そのままベッドに押し倒した。
それからは主にベッドの中で結衣とたくさん肌を重ねた。今は結衣がメイド服姿だから、結衣からはご奉仕を受け、俺からはご褒美をあげると言うのが正しいかな。
メイド服姿の結衣はとても可愛くて、これまでよりもたくさん結衣に「好き」とか「可愛い」と言って、唇や頬を中心にキスをした。ただ、結衣の体も見たいから、肌を重ねる中で少しずつメイド服を脱がしていった。
結衣もメイド服を着て気持ちが高ぶっているのか、結衣がリードしたり、体を積極的に動かしたりすることもあって。
高校1年最後の夜は結衣のおかげでとても気持ちのいい夜になった。
「……今夜もたくさんしましたね、ご主人様」
「そうだね、結衣」
結衣とたくさん肌を重ねた後、俺達は一糸纏わぬ状態で寄り添う。仰向けになる俺の胸に結衣が頭を乗せている。全身に結衣の強い温もりを感じて、定期的に結衣の温かな吐息がかかって気持ちいい。
また、夜のご奉仕という体だったので、結衣は肌を重ねる中でメイド服は全て脱いだけど、カチューシャだけは今でも頭に付けている。
「私からの夜のご奉仕……いかがでしたか?」
「凄く気持ち良かったよ。メイド服姿の結衣の姿も可愛かったし、最高だった」
「そう思ってもらえて嬉しいです」
「結衣はどうだった? 俺からのご褒美は」
「とても気持ち良かったです。こんなに素敵な夜をご主人様と過ごせて。ご主人様から最高のご褒美をもらいました」
「そう思ってもらえて良かった」
俺は結衣にキスする。肌を重ねる幾度となくキスをしたけど、結衣とのキスは本当に気持ちがいい。
俺から唇を離すと、結衣は「えへへっ」と可愛らしく笑い、俺の胸元に頭をスリスリしてきた。本当に可愛いな。
「ねえ、結衣。もうそろそろ元の口調に戻ってもいいんじゃないかな。メイドさん口調も可愛いけど、普段の口調も可愛いからさ」
「……分かったよ、悠真君」
普段の口調でそう言うと、結衣はカチューシャを外して枕の横に置いた。カチューシャがメイドさんになるスイッチだったのかな。
「今日はメイド服姿だったからか、悠真君……いつもよりも激しいときがあったね」
「結衣がとても可愛かったし、メイド服姿が新鮮だったから。そんな結衣も俺の上で激しく体を動かすときがあったよな」
「……メイド服を着ていていつもとはちょっと違う気分だったからね。悠真君が激しくするのが気持ち良かったのもある」
「俺も結衣の激しさも気持ち良かったさ」
「……そっか」
ふふっ、と結衣は嬉しそうに笑う。そんな結衣の姿はとても可愛らしくて、俺は結衣の頭を優しく撫でる。肌を重ねた後だから、結衣の頭からも強い温もりが伝わってきた。
「結衣のおかげで、今年の夏の最後の夜はとてもいい時間になったよ。ありがとう」
「いえいえ。こちらこそありがとう。悠真君を誘って、メイド服も買って正解だったな。これからもたまにはメイド服を着てしよっか」
「そうだな」
凄く似合っていて可愛いからいい刺激になるし。メイド服以外にも、ナース服とかバニーガールとかスクール水着とかも良さそうだ。
「ふああっ……」
と、可愛い声を漏らしながら結衣はあくびする。
「花火大会にも行ったし、悠真君とたくさん肌を重ねたから眠くなってきちゃった」
はにかみながらそう言う結衣。
「ははっ、そっか。俺もいい感じに眠気が来ているよ」
「じゃあ、今日はもう寝ようか」
「ああ。俺がベッドライトを消すよ。おやすみ、結衣」
「うん、おやすみ」
結衣は自分からおやすみのキスをして、そっと目を閉じる。
さっそく強い眠気が襲ってきたのだろうか。目を瞑ってから数秒もしないうちに、結衣は可愛らしい寝息を立て始めた。結衣の寝顔も凄く可愛らしい。
「おやすみ、結衣」
結衣の額に軽くキスして、ベッドライトを消す。
目を瞑ると……結衣の温もりと柔らかさ、甘い匂いを感じるから、程なくして眠りに落ちる。
高校1年生の夏は結衣のベッドで、結衣と一緒に寝るという最高の形で幕を下ろしたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます