第14話『花火大会-後編-』

 芹花姉さんと月読さんと別れて、俺と結衣は再び2人きりで屋台を廻っていく。その中でたこ焼きやチョコバナナといった、お祭りの屋台で定番の食べ物を食べる。

 会場内はこんなに人が多いのに、意外と知り合いには会うもので、柚月ちゃんと中野先輩と遭遇した。2人とも、それぞれの友人達と屋台を廻って楽しんでいるらしい。また、2人も俺の甚平姿は初めてであり、結衣も髪型をお団子ヘアーにしたからか、


「悠真、甚平似合っているじゃない。高嶺ちゃんのお団子ヘアーもいいね」


「お姉ちゃん、お団子の髪型も可愛いね! 悠真さんの甚平姿素敵ですよ!」


 どちらも好意的な感想を言ってくれた。関わりの深い人達から、この甚平姿を褒めてもらえると結構嬉しいものだ。

 芹花姉さんと月読さんも俺の甚平姿の感想を言ってくれたし……もしかしたら、この後も友人や知り合いに会ったら、この服装について必ずコメントされるかも。


「意外と友達に会えるもんだね、悠真君」

「そうだな。広い会場の中で、こんなに人が行き交っているのに。まあ、まだ花火の打ち上げが始まっていないし、屋台エリアにいるからかもしれないけど」

「そうだね。こうなったら、姫奈ちゃんと胡桃ちゃんと杏樹先生とも会いたいね」

「そうだな」


 3人とも会えれば、この花火大会に行くことを知っている人達とは全員会ったことになる。是非、コンプリートしたいものだ。


「あっ、結衣と低田君なのです」

「本当だ、姫奈ちゃん」

「てい……低田君の服装や結衣ちゃんの髪型が違うから、一瞬分からなかったわ」


 噂をすれば何とやら。前方には胡桃と伊集院さん、福王寺先生の姿が。あと、先生は俺のことを低変人様と言いかけたな。

 胡桃と伊集院さんは七夕祭りのときと同じで、それぞれ赤い牡丹が刺繍された白い浴衣、桃色の桜の花が刺繍された赤い浴衣を着ている。福王寺先生はジーンズパンツにノースリーブの黒い縦ニットを着ている。

 3人ともとても可愛くて、綺麗な見た目の持ち主だから、男女問わず3人を見ている人が多い。


「3人とも会えたね、悠真君!」

「そうだな」

「やったね! おーい!」


 結衣が元気良く呼びかけて手を振ると、胡桃達は笑顔で手を振りながらこちらにやってきた。


「結衣と低田君と会場で会えるなんて! 嬉しいのです」

「そうだね、胡桃ちゃん!」

「花火がまだ始まっていないから、屋台のエリアにいるとは思っていたけど……2人と会えると嬉しいね」

「私も3人と会えて嬉しいです!」

「芹花姉さんや中野先輩達とは既に会ったので、胡桃達とも会えて嬉しいです」


 もし、3人とだけ会場で会えなかったら、ちょっと寂しい気持ちになっていただろう。花火大会に行くと分かっている人達全員と会えて良かった。


「メッセンジャーで甚平を着るって話していたけど、ゆう君の甚平姿かっこいいね! 結衣ちゃんのお団子ヘアーは初めて見たけど、可愛くて似合ってるよ!」

「結衣のお団子ヘアーを見ると夏を感じるのです。低田君の甚平姿も素敵なのです」

「2人とも素敵よね。結衣ちゃんってお団子ヘアーも似合うんだね。あと、低田君の甚平姿……ありだわ。爽やかだし、それに隙間から見える胸元や鎖骨がたまらないわ! 筋肉のついた腕と脚も見えるし!」


 興奮した様子で甚平姿の感想を述べる福王寺先生。あんた俺の担任教師でしょう。胸元と鎖骨のチラリズムや俺の筋肉に何を興奮しているんですか。しかも、隣には俺の恋人がいるのに。まあ、先生らしさは感じるけどさ。


「……あっ、ごめんね。結衣ちゃんっていう恋人がいるのに興奮しちゃって」

「いいんですよ、杏樹先生なら! それに、先生が今言ったこと凄く分かりますし! 胸元と鎖骨がチラッと見えたり、腕や脚の筋肉が付いているのが分かったりしてドキッとしますよね!」

「だよねー! 胸元にもちょっと筋肉がついているのがまたいいよね!」

「それも分かりますー!」


 結衣は恋人として嫌悪感を抱くどころか、むしろ興奮して福王寺先生と一緒に盛り上がっている。やっぱり、この2人は思考回路や波長が似ているな。2人とも恍惚とした様子で俺のことを見ているし。何にせよ、結衣が不快な想いをすることがなくて良かった。

 また、胡桃と伊集院さんは結衣と福王寺先生を見ながら笑っている。


「ふふっ、2人らしいのです」

「そうだね、姫奈ちゃん」

「……まあ、結衣が嫌じゃないから俺が言うことはないさ。胡桃も伊集院さんもその浴衣似合ってるな。可愛いよ。福王寺先生も綺麗ですね」

「悠真君の言う通りですね。みんな似合ってますっ!」

「ありがとう、ゆう君、結衣ちゃん」

「ありがとうございます」

「私まで褒めてくれるなんて嬉しいな」


 3人とも可愛らしい笑顔でそう言う。笑顔になったことで、3人の姿がより魅力的になる。


「ねえ、ゆう君、結衣ちゃん。写真……撮ってもいいかな? ゆう君は甚平姿だし、結衣ちゃんは普段と違ってお団子ヘアーだから」

「もちろんいいよ! ね、悠真君」

「ああ」

「ありがとう!」


 それから少しの間、胡桃のスマホによって写真撮影会となった。結衣と俺のツーショット、結衣と胡桃と伊集院さんの浴衣3人娘のスリーショット、そこに福王寺先生を加えた女性4人のフォーショットなど色々な写真を撮った。

 撮影した写真はLIMEで送ってくれた。みんな楽しそうに写っているな。スマホのアルバムにいい写真がいっぱい増えて嬉しい。


「写真撮らせてくれてありがとう!」

「いえいえ! 思い出が増えて嬉しいよ!」

「そうだな。3人とも会場で会えて良かったです」

「あたしもなのです。2人はデート中ですし、あたし達はここで別れましょうか」

「そうね。低田君、結衣ちゃん、じゃあね」

「次は学校かもね。2人ともまたね」

「またなのです」

「うん! またね!」

「また2学期で」


 胡桃と伊集院さんと福王寺先生とはここでお別れ。

 明後日から2学期が始まるんだよな。結衣との花火大会デートを楽しんでいるので、なかなか現実味がない。

 ただ、学校に行けば結衣と伊集院さん、胡桃、福王寺先生と会うことができる。学校内で会うことはあまりないけど、中野先輩が学校にいることも心強い。だから、2学期がすぐそこに迫っていることに憂鬱さや億劫さは感じなかった。


「花火の打ち上げまであと10分くらいだね。そろそろ花火の見学会場の方に行こうか」

「そうだな。みんなと会えて楽しい気分になっているけど、メインはこれからなんだよな」

「あははっ、そうだね! さあ、行こう!」

「ああ!」


 俺と結衣は花火の見学会場に向かって歩き出す。

 花火の打ち上げまであと10分くらいなので、見学会場に向かって歩く人が結構多い。人の波に飲まれて結衣とはぐれてしまわないように、彼女の手を今一度しっかり握った。

 見学の会場に辿り着くと、既に多くの人が集まっていた。花火の打ち上げ開始時刻まであと少しなのもあってか、楽しそうにしている人が多い。

 周りを見るけど……知り合いの姿は全然見当たらないな。でも、きっと思い思いの場所でもうすぐ始まる打上花火を楽しむのだろう。


「あと少しで打ち上げか。こういう花火大会で打上花火を生で見るのは初めてだから楽しみだ」

「そうなんだ。悠真君の初めてを一緒に過ごせて嬉しいよ。私も……恋人と一緒に生で見る打上花火は今日が初めてだね。よし、私も悠真君に初めてをあげられた!」

「ははっ。その理由なら、俺も結衣に初めてをあげられるな」

「……嬉しい」


 結衣はとても可愛い笑みを浮かべると、腕を絡ませて軽く寄り掛かってくる。そのことで感じる結衣の温もりと重みが何だか愛おしい。


「川を挟んだ向こう側から、打上花火が上がるんだよ。花火はもちろんだけど、花火に照らされた川も綺麗なんだ」

「へえ、そうなんだ」


 今も川沿いの街灯の灯りで川の水面を照らしている部分がある。流れもあるため、その部分が揺らめいていて幻想的だ。花火の光だとどうなるのか楽しみだ。

 花火絡みのことで結衣と話していると、時刻は午後7時近く。まもなく、1万発の花火の打ち上げが始まる。


「そろそろだね!」

「ああ!」


 俺達は川の対岸を見続けながらそんなことを話していたときだった。

 ――ピュー。

 という音と共に、一つの光が夜空に向かって上がっていき、

 ――パァン!

 そんな大きな破裂音と共に、丸くて大きなオレンジ色の花火が打ち上がった! その瞬間に『おおっ!』という声と、花火の打ち上げが始まったからかパチパチと拍手の音も聞こえてきた。


「うわあっ、綺麗!」

「綺麗だな! 大きさも音も迫力が凄いな!」

「そうだねっ!」


 最初にドデカい花火が打ち上げられたからか、結衣はさっそくテンション高めだ。そんな結衣を見ていると俺もテンションが上がってくる。

 それからも花火がどんどん打ち上がり、夜空に花を開かせていく。色も大きさも形もバラエティに富んでいるので飽きが来ない。

 花火はもちろんだけど、結衣が言ったように花火によって照らされた水面も綺麗で。でも、


「今の花火は凄く綺麗だったね!」

「……そうだな」


 一番綺麗なのは、花火の光に照らされた結衣の笑顔。だから、たまに花火じゃなくて、結衣の横顔にじっと見てしまうこともあって。


「どうしたの、悠真君。私のことをじっと見て」

「……結衣が花火よりも綺麗だと思っただけさ」

「ありがとう。嬉しいです」


 そう言うと、結衣は俺にキスしてきた。唇を離した際に見せてくれる嬉しそうな笑顔は一段と綺麗で。どこまで綺麗になれるんだ、俺の恋人は。

 それからも結衣と話したり、笑ったり、「たまやー!」と叫んだりして、一万発の打上花火を堪能するのであった。

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