第9話『ゆったり流れて』
結衣と一緒にウォータースライダーを滑る度に楽しい気持ちが膨らんでいって。最終的には2人用の浮き輪で結衣と4回。その後に1人用の浮き輪でも一度滑った。
「たくさん滑ったな」
「5回も滑ったもんね。悠真君がハマってくれて嬉しかったよ!」
「結衣のおかげだよ。気付けば5回滑ってたな。結衣って、5回も続けて滑ったことはある?」
「うん、あるよ。5、6人で遊びに行ったときに、みんなと1回ずつは一緒に滑ったし」
「そうなんだ。……速く滑るのも気持ち良かったけど、落ちた後のプールの冷たさも気持ち良かったな」
「それ分かる。あと、私達が不仲になったんじゃないかって、女性のスタッフさんが勘違いしたのも面白かったな」
そのときのことを思い出しているのだろうか。結衣は「ふふっ」と笑う。
5回も滑ると、ウォータースライダー担当のスタッフさんからも認知されるように。ただし、さっき1人用の浮き輪に乗って滑る直前には、
『えっ、1人用でいいんですか? 喧嘩しちゃいましたか?』
と、スタート地点にいた女性のスタッフさんに心配されてしまったのだ。そのとき、結衣は大笑いしていた。結衣がスタートする直前までずっと楽しく喋っていたんだから、喧嘩したようには見えないだろう。
「ねえ、悠真君。次はどのプールに行きたい?」
「そうだな……これまで結衣は何度も来たことがあるし、結衣のオススメのプールに行ってみたいな。あとはこういう遊び方や過ごし方がいいとか」
「なるほどね。そうだなぁ……」
結衣は腕を組みながら「う~ん……」と考えている。水着姿だからこういう姿も新鮮に見えていいな。あと、組んだ腕の上に胸が乗っているから、普段よりも結衣の胸が大きく見える。
「流れるプールなんてどうかな?」
「流れるプール?」
「うん。貸し出しコーナーでレンタルした浮き輪に座ったり、その浮き輪に掴まって流れに身を任せたりしてね。ゆったり流れるから結構気持ちいいの」
「そうなんだ。何度もウォータースライダーで勢い良く滑ったから、ゆっくり流れるプールはいいかもしれないな」
毎回、階段で待つ時間があったとはいえ、5回もウォータースライダーを滑ったから、ちょっと疲れを感じてきている。流れるプールに身を任せればリラックスできるかもしれない。
「じゃあ、次は流れるプールにしようか、悠真君」
「うん、そうしよう」
流れるプールなんて何年ぶりだろう。中学生以降では入った記憶はないから、少なくとも3年以上は経っているか。久しぶりの流れるプールが楽しみだ。
結衣は浮き輪に乗って流れるプールを楽しみたいとのことで、俺達は入口近くにある遊具のレンタルコーナーに行き、大人用の浮き輪を一つ借りる。
また、このレンタルコーナーでは浮き輪だけでなく、ビーチボールやビート板、水鉄砲などプールでの王道の遊具が貸し出されている。こういうサービスがあるのも、結衣が今までに何度も遊びに来たり、このプール施設が人気だったりする理由の一つなのだろう。
浮き輪を持って、流れるプールに行くと……大きなプールなだけあって、遊んでいる人はそれなりにいる。その中には、俺達が借りてきたものと同じくらいの大きさの浮き輪に座っている人もちらほらと。みんな楽しそうにしているなぁ。
「悠真君。浮き輪に乗るから持っていてくれるかな。流れちゃわないように」
「分かった」
流れている状態だと浮き輪に乗るのは難しいのだろう。
周りにあまり人がいないのを確認して、俺は流れるプールの上に浮き輪を置く。常に水の流れがあるけど、しっかり掴んでいれば浮き輪が動いてしまうことはない。
「結衣、どうぞ」
「うん」
結衣は浮き輪の上に乗る。穴が空いているところに腰を落とし、両腕と両脚を浮き輪に乗せた。経験者だからかとても鮮やかな身のこなし。
浮き輪に座っている人は何人もいるけど、結衣が一番綺麗で様になっている。浮き輪に乗せた両腕と両脚がとても綺麗で。また、座ったことで、結衣はショーツの部分からお腹の辺りまでがプールの水に浸かっている状態に。
「無事に座れたよ。悠真君、ありがとう」
「いえいえ。じゃあ、俺もプールに入ろうかな」
結衣の浮き輪を掴んだまま、俺は流れるプールに入る。その瞬間から水の流れを感じ始める。この感覚、懐かしいな。
ただ、余裕で足が着く深さなので、このままでは流れに身を任せることはできない。なので、両手で浮き輪を軽く掴み、両足を上げて体を水面に浮かせる形に。そのことで結衣の乗る浮き輪と俺の流れる速度が増した。
「あっ、ちょっと速くなった」
「体を浮かしたからな。何もしないで前に進むのが気持ちいいな。こうして浮き輪を掴んでいれば、普通に顔を上げていられるし」
「ふふっ。私も気持ちいいよ。お尻とか腰で水の流れも感じるし」
「そうか。結衣、体の姿勢は大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ。悠真君は上手だね。姫奈ちゃんと同じくらいに上手」
「そうなんだ」
伊集院さんはこの水面浮遊の経験者か。あと、彼女は浮き輪に乗ることも上手そうだな。
「中学時代に友達と遊んだときは浮き輪をガッツリ掴まれたから、バランスを崩してプールに落ちちゃったことがあるの」
「そうだったんだ」
結衣は笑いながら話してくれるけど、結衣が落ちてしまわないように気をつけないと。
「あと、無防備になった腰やお尻を触られたり、揉まれたり、くすぐられたりしてね。それにビックリして落ちたこともあったよ」
「……結構、友達由来で落ちることがあったんだ」
「そうだね。でも、それを含めて楽しかったよ」
ふふっ、と結衣は楽しげな笑みを浮かべる。落ちた思い出話も楽しく話せるほどだし、浮き輪に乗って流れるプールを楽しむことが大好きなんだな。
「あと、悠真君だったら、いつでもお尻を揉んだり、腰をくすぐったりしていいからね!」
ちょっと興奮気味に言う結衣。落とされたエピソードを話した直後に言うとは。結衣らしいというか。結衣の性格からして、揉んだりくすぐったりほしいって考えていそうだ。
いつでも触っていいと言ったけど、ふとしたときに触ったら驚いて落ちてしまうかもしれない。そうしたら、結衣がどうなるか分からないし、周りの人にも迷惑がかかるかもしれない。それなら――。
「ひゃあっ」
右手を伸ばして、結衣のお尻と思われる部分を触って軽く揉む。右手に感じるこの柔らかないい感触……間違いない。お尻だ。
いきなり触ったからか、結衣は体をピクリと震わせ、可愛らしい声を漏らした。賑わっているので、今の声でこちらに振り向いてくる人はいない。
結衣は頬をほんのり赤くして俺のことを見てくる。
「もう、さっそく揉んでくるなんて。悠真君、えっちぃね」
そう言うと、結衣はニヤリと口角を上げてきた。……良かった、結衣の機嫌を損ねてしまわなくて。
「ふとしたときに触るよりも、今触った方が結衣のビックリ具合が小さいと思って」
「ふふっ、なるほどね。……流れるプールに入った直後だから、お尻から悠真君の優しい温もりを感じるよ。プールの水は冷たいから、何だか不思議な感じだけど気持ちいい。新しい性癖に目覚めそう……」
甘い声色でそう言うと、結衣はうっとりした様子で俺を見つめてくる。興奮しているのか結衣のお尻から伝わる熱が段々強くなってきて。新しい性癖に目覚めそうなのもさすがは結衣である。そんな結衣の方が俺よりもよほどえっちぃと思うのだ。
俺も段々と体が熱くなってきたな。これ以上触っていたらどうなるか分からない。俺は結衣のお尻から右手を離し、数秒ほど顔をプールにつけてクールダウンした。
「あぁ、冷たくて気持ちいい」
「ふふっ。ねえ、悠真君。顔中心に体が熱いから、水をかけてくれない?」
「分かったよ。じゃあ、軽く水を掛け合おうか」
「うんっ」
「……それっ」
結衣の顔に水がかかるように、右手でプールを掻く。水しぶきが結衣の顔にクリーンヒットする。
「冷たくて気持ちいいね!」
爽やかな笑顔で結衣はそう言う。水面近くから見上げる結衣のその姿はとても美しくて。そんな結衣を見続けていると、再び顔が熱くなり始める。
「それっ!」
結衣は左手でプールの水を掻き、その水が俺の顔にクリーンヒット。そのおかげで顔の熱さが和らいでいく。
「冷たくて気持ちいいな」
「ふふっ。気持ちいいならもっとかけちゃうよ!」
「俺だって」
その後、何回も結衣と俺は互いの顔に水をかけ合う。そのおかげで、顔中心にあった熱はどんどん引いていって。あと、片手でやっているから、水のかかる量もそこまで多くなく、穏やかな水かけとなっている。
「こうして水をかけ合うと、旅行中の海水浴を思い出すね」
「そうだな。水をかけ合っていたら、柚月ちゃんと中野先輩に水鉄砲でかけられて」
「あったあった。悠真君と示し合わせて、2人に思いっきり水をかけたよね」
「そうだったな。プールも楽しいけど、海も楽しかったな」
「そうだね!」
そう返事する結衣はとても可愛い笑みを浮かべていて。胡桃や伊集院さん達とみんなで行った海水浴が本当に楽しかったのだと窺える。それがとても嬉しい。
プールの流れに癒やされながら、俺達は海水浴を中心とした旅行のことや、結衣がこれまでにここに来たことの思い出話に花を咲かせるのであった。
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