第2話『お泊まり女子会-③-』

 胡桃ちゃんと一緒にお風呂から出て、私の部屋で待っている柚月と姫奈ちゃん、千佳先輩にお風呂が空いたことを伝えた。

 千佳先輩はうちのお風呂に入るのが初めてだからか、


「おっ、いよいよ高嶺家のお風呂に入れるんだね。楽しみだな」


 と楽しそうにしていて。3人は一緒にお風呂に入りに行った。3人で楽しい入浴の時間になるといいな。

 3人がお風呂に入っている間は胡桃ちゃんと一緒にスキンケアをしたり、ドライヤーで互いの髪を乾かしたり、私の習慣であるストレッチをしたりした。

 ただ、胡桃ちゃんが私のストレッチをするのは初めてだから、


「……ごめん。あたしにはちょっとキツい」


 途中でリタイアしていた。ただ、体に効きそうだと思ってくれたそうで、自分なりのペースで今後やってみるとのこと。体力や筋力に合わせて、ストレッチの量を増やすのがいいと思う。

 30分ほどで、柚月と姫奈ちゃん、千佳先輩が部屋に戻ってきた。3人で髪を洗い合ったり、一緒に湯船に浸かったりしてとても楽しかったみたい。 3人一緒でも湯船が狭く感じることはなかったという。

 3人が戻ってきてからは、お菓子を食べながら5人全員が好きな『みやび様は告られたい。』というラブコメアニメのBlu-ray観ることに。第1話から観ていき、このキャラクター可愛いよねとか、ここのシーンいいよねって語りながら。

 ――プルルッ。

 第3話まで見終わったとき、ローテーブルに置いてある私のスマホが鳴る。さっそくスマホを確認すると……あっ、悠真君からLIMEでメッセージが来たって通知が来てる。通知をタップして、悠真君とのトーク画面を開くと、


『みんなとお泊まり女子会を楽しんでるか?』


 というメッセージが表示された。今日はうちでお泊まり女子会をすると話しているから、どんな感じなのか気になったんだと思う。

 目の前に悠真君の姿はないし、声を聞いたわけじゃないのに、このメッセージを見るだけで嬉しい気持ちになる。


『楽しんでるよ! お風呂に入って、今はお菓子を食べながらみんなでみやび様のアニメを観ているところ! 第3話まで観たよ! 盛り上がってる!』


 と、悠真君に返信を送る。

 悠真君もトーク画面を開いているのか、私の返信は送った直後に相手が読んだことを示す『既読』のマークが付いた。


『おっ、それは楽しそうだ。みやび様も面白いから盛り上がるのも分かるなぁ』


 10秒ほどで悠真君から返信が届いた。それを見て、口角がさらに上がったのが分かった。

 悠真君もみやび様の漫画もアニメも好きだから、悠真君もこの場にいたらもっと楽しい時間になっていたかもしれないな。


「どうしたの、結衣ちゃん。スマホを見ながら笑顔になって」

「悠真君から、お泊まり女子会を楽しんでるかってメッセージが来たから嬉しくなって」

「そうなんだ」

「可愛いのです」

「悠真とは夜にメッセージをよくするの?」

「することが多いですね。学校のこととか、アニメのこととか。たまに、課題について訊いてくることもありますね」

「へえ~」

「悠真さんと電話することもあるよね。お風呂とかお手洗いに行くときに廊下に出ると、お姉ちゃんの部屋から楽しそうな話し声が聞こえることがあるし」

「そうだね。夏休みになると学校もなくて会わない日もあるから、電話する頻度も増えたかな」


 悠真君の声が聞きたいから。たまに、顔を見たくてテレビ電話のときもある。

 私から電話をすることが多いけど、悠真君から電話をしてくれるときもあって。そんなときはより嬉しい気持ちで悠真君と話している。


「じゃあ、今夜も悠真さんに電話してみようよ! テレビ電話で、みんなの寝間着姿を見たら悠真さん驚くんじゃない?」

「ど、どうかな? みんなさえ良ければやってもいいけど」

「面白そうなこと考えたね、柚月ちゃん。あたしは賛成だよ」

「今は女子会中ですが、低田君ならOKなのです」

「あたしも賛成だよ。それに、今の時間なら寝間着姿になっているだろうから、その姿も見てみたいかな……」

「この姿だと寝間着姿になっていることが多いね。じゃあ、悠真君とテレビ電話してみましょうか」


 悠真君にテレビ電話をしてもいいかと訊いてみると、すぐに『いいよ』と返信が届いた。

 みんなが少しでも映りやすいように、スマホをスタンドにセットして、ローテーブルに置く。その間にみんなが私の後ろに集まる。

 スマホをタップして、悠真君のスマホにビデオ通話の形で呼び出す。


 ――プルルッ、プルルッ。

『こんばん……おっ!』


 画面に青い寝間着姿の悠真君が映り、悠真君が私に挨拶し終わる前に驚く。まさか、柚月の言う通りに驚くなんて。みんなの前でテレビ電話するとは言っていなかったからかもしれない。柚月は満足そうな表情に。


「悠真君、こんばんは。みんながいるから、みんなが後ろにいるんだよ」


 私がそう説明すると、胡桃ちゃん達が「こんばんは~」と挨拶して、小さく手を振る。そんな私達に向かって悠真君も手を振ってくる。


『みんなこんばんは。結衣だけじゃなくて胡桃達も映っているから驚いたよ』

「ふふっ」

『今日も寝間着姿が可愛いね。柚月ちゃんも。2人以外の寝間着姿は初めて見ますね。みんな似合っていますよ』


 先日行った旅行では、悠真君のいる場では私服姿や水着姿、浴衣姿だったもんね。

 あと、悠真君と胡桃ちゃんは同じ中学出身だけど、修学旅行や校外学習でも寝間着姿を見ることはなかったんだね。男子と女子とでは部屋が遠い場合もあるだろうし。


「ありがとう。ゆう君。ゆう君も寝間着姿似合ってるよ」

「どうもなのです」

「ありがとう。悠真の寝間着姿もいい感じだよ」

『ありがとうございます』


 千佳先輩もいるからか、悠真君は敬語でお礼を言って軽く頭を下げた。


『ただいま……って、今は電話中だった? ごめん、ユウちゃん』


 あっ、芹花お姉様の声が聞こえてくる。ただいま、ってことは今はお姉様と一緒の時間を過ごしているのかな。


『気にしないで。結衣達とテレビ電話してるし、姉さんも来なよ』

『うんっ!』


 お姉様の嬉しそうな返事の声が聞こえると、ものの数秒も経たずに悠真君の隣に桃色の寝間着姿のお姉様が映りだした。


『みんなこんばんは! 結衣ちゃん達の寝間着姿可愛いね!』


 ニッコリと笑みを浮かべてそう言うと、芹花お姉様は私達に手を振ってくる。お風呂に入ったからか、それとも悠真君と一緒だからか、夜までバイトがあったのに疲れを感じさせない笑顔だ。もしかしたら、いつでもこんな素敵な笑顔を見せられることも、お姉様がバイト先のファミレスのお客さんから『黄金色の天使』と言われる理由の一つなのかもしれない。

 私達は芹花お姉様に「こんばんは」と挨拶したり、「ありがとうございます」とお礼を言ったりする。そのことで、お姉様の笑顔がより魅力的に。


『みんな、お風呂に入って、お菓子を食べながらみやび様を観たんだってね!』

「はい! みんな好きなアニメなので楽しいですよ!」

「観るアニメは違いますけど、お菓子食べながら楽しく話したので、旅行の日の夜にあたしの持ってきたBlu-rayを観たときのことを思い出しました」


 胡桃ちゃんが笑顔でそう言うと、柚月と姫奈ちゃんと千佳先輩は微笑みながら頷いた。

 旅行の日の夜、胡桃ちゃん達の泊まっていた部屋はこういう雰囲気だったんだ。胡桃ちゃん達もスマホに映っている芹花お姉様も笑顔を見せているから、あの日の夜はみんな楽しく過ごしたんだって分かる。


『ふふっ、そっか。あのときも楽しかったよね。みんな楽しそうな女子会になっていて何よりだよ』

『そうだな。画面越しでも楽しいのが伝わってくる』


 悠真君と芹花お姉様は優しい笑顔で私達のことを見ている。こうした笑顔は似ているなぁ。さすがは姉弟。


『ちなみに、そっちは女子会だから、こっちは姉弟会をやっているんだよ!』

『何だよ姉弟会って』


 悠真君も知らなかったみたいで、彼は苦笑いをしながら芹花お姉様にツッコミを入れる。そのことに私達5人は声に出して笑う。


『今はユウちゃんの部屋で一緒にアニメを観ているんだ! あと、今夜はユウちゃんのベッドで一緒に寝るの!』


 芹花お姉様はとっても楽しそうな様子でそう言ってくる。映像越しでもお姉様のブラコンぶりがよく分かるよ。お姉様だから、悠真君と一緒にお風呂に入っても、一緒に寝ても微笑ましく思える。お姉様が悠真君の姉で良かった、本当に。


「そうなんですね。ただ、寝ている間に悠真君の首にキスマークを付けないように気をつけてくださいね。悠真君はバイトもしているんですから」

『わ、分かってるよぉ』


 頬をほんのりと赤くしながら苦笑いする芹花お姉様。


「そういえば、旅行直後のバイトのとき、悠真の首筋に絆創膏が貼ってあった気がする」

「ま、待ってください。芹花さん……ゆう君にキスマークを付けるほどにキスするんですか?」

「旅行中の海水浴で低田君に頬にキスするところは見たことがあったのですが、まさかそこまで好きだとは……」

「す、凄いブラコンですねっ!」


 胡桃ちゃん、姫奈ちゃん、柚月は頬を中心に顔を赤くしながらそう言ってくる。3人とも、何か勘違いしていそう。さっき、私が注意したときの言葉選びが悪かったかな。


「えっと……悠真君が寝ている間に芹花お姉様が故意にキスマークを付けるわけじゃなくて、お姉様が寝ている間に寝ぼけてキスマークを付けちゃうの。そういったことが昔から何度かあったみたい」

「な、なるほどね。そういうこと」

「芹花さんの寝ている間のことなのですか」

「それなら納得だよ、お姉ちゃん」


 やっぱり、3人は勘違いしていたみたい。そんな3人を見ながら千佳先輩はクスクスと笑っている。


『ね、寝ている間のことだけど善処するよ』


 うんうん、と芹花お姉様は何度も頷いている。就寝中の無意識の中での行為だから、もしキスマークを付けてしまっても怒らないようにしよう。

 それから少しの間、今日のお泊まり女子会のことを中心に話ながら、悠真君と芹花お姉様とのテレビ電話を楽しんだのであった。

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