第1話『お泊まり女子会-②-』

 胡桃ちゃんが髪と体を洗い終わったので、今度は私がバスチェアに座る形に。

 友達の中には、私の背後に立つと指で背中を撫でたり、脇腹をツンツンしたりするなどいたずらする子もいる。小さい頃の柚月もたまにやってきた。くすぐったいし、突然されるとビックリして変な声が出ちゃうんだよね。それがちょっと恥ずかしくて。胡桃ちゃんはそんなことをしなさそうなので安心だ。


「今度は結衣ちゃんの番だね。私と同じで、まずは髪から洗う?」

「うん。髪からお願いします。そのオレンジ色のボトルがリンスインシャンプーだよ」

「分かった。じゃあ、洗い始めるね」


 胡桃ちゃんがそう言うと、鏡越しで目が合う。その瞬間に胡桃ちゃんは持ち前の優しい笑顔を見せる。

 胡桃ちゃんはシャワーのお湯で私の髪を濡らし、私がいつも使っているリンスインシャンプーで髪を洗い始める。今は夏だけど、お湯の温かさと胡桃ちゃんの優しい手つきが気持ちいい。


「結衣ちゃん、どうかな?」

「凄く気持ちいいよ」

「良かった。じゃあ、こんな感じで洗っていくね」


 優しい笑顔のままでそう言う胡桃ちゃん。髪を洗う手つきも優しいから、胡桃ちゃんが同級生じゃなくて1学年か2学年上の先輩に見えてきた。それに、今は私は15歳で胡桃ちゃんは16歳だし。


「結衣ちゃんの髪から香ってくる匂いがしてくる。このシャンプーいい匂いだよね」

「そう言ってくれて嬉しいな」

「私もさっきは嬉しかったよ」


 ふふっ、と胡桃ちゃんの可愛い声が浴室に響く。それと同時に私の髪を洗う手つきがより優しくなった。

 うちの浴室でいつも使っているシャンプーの匂いが香る。でも、胡桃ちゃんが洗ってくれているので、うちでお泊まり会をしているんだなって実感する。

 あと、たまに背中に柔らかいものが当たって。きっと、胡桃ちゃんの大きな胸だろう。他のお友達が髪を洗ってくれたときはそういったことは全然なかった。さすがは胡桃ちゃん!


「あぁ……本当に気持ちいい。胡桃ちゃんも髪を洗うのが上手だね。杏さんと一緒にお風呂に入って洗いっこするからかな」

「そうかもね。お姉ちゃんで経験積んでいるから。お姉ちゃんも気持ちいいって言ってくれるよ」

「杏さんがそう言うのも納得だね」

「ふふっ。あと、お姉ちゃんはたくさん課題をやった後や試験勉強の日だと、髪を洗ってあげていると寝ちゃうことがあるの」

「あのしっかりしている杏さんが? ちょっと意外。でも、気持ちいいもんね。私も疲れているときだと、湯船の中でウトウトしちゃうことがあるよ」

「あたしも」


 ふふっ、と胡桃ちゃんと私の笑い声が浴室に響いた。

 その後、胡桃ちゃんにシャワーで髪についたシャンプーの泡を落としてもらい、タオルで拭いてもらった。


「はい、これでいいかな」

「うん、ありがとう」

「髪を洗う前も結衣ちゃんの髪は綺麗だったけど、髪を洗ったらより綺麗になったね。艶やかさもあるし」

「ありがとう」


 これから体を洗ったり、湯船に浸かったりするので、ラックにあるヘアグリップを使って髪を纏める。


「旅行のときにも思ったけど、髪を纏めた結衣ちゃんも可愛いね」

「ありがとう。お風呂に入るときはこうして纏めるんだ」

「そうなんだ。あたしはあまりやらないな」

「胡桃ちゃんの髪の長さだとそのままでも大丈夫そうだもんね」

「うん。……じゃあ、次は背中だね」

「そうだね。ちょっと待ってて」


 タオル掛けから、私が使っている水色のボディータオルを取る。

 ボディータオルを濡らして、ピーチの香りがするボディーソープを泡立てていく。さっき、胡桃ちゃん持参の柔らかなボディータオルで彼女の背中を流したから、このボディータオルが普段よりちょっと固く感じる。


「胡桃ちゃん、背中をよろしくお願いします」

「はーい。あと、洗いやすい体勢になるために、背中を触ることがあるかもしれない」

「うん、分かった」


 胡桃ちゃんにボディータオルを渡す。あと、触ることがあるかもって事前に言ってくれると、こちらも構えやすくなる。これも胡桃ちゃんなりの気遣いなのだろう。

 胡桃ちゃんに背中を洗ってもらい始める。髪を洗ったときと同じく優しい力で。


「結衣ちゃん、どうかな?」

「凄く気持ちいいよ。今の感じでお願い」

「分かった」


 胡桃ちゃん、私のボディータオルを使っているのに、背中の流し方も上手だなぁ。これも杏さんにたくさん背中を流してきたからだろう。


「結衣ちゃんの背中……とても綺麗だね。肌も白くて、程良く筋肉もついていて。くびれもしっかりあって。さすがは結衣ちゃん」

「ありがとう。胡桃ちゃんの背中も綺麗だよ」

「結衣ちゃんに言われると嬉しいな」


 えへへっ、と胡桃ちゃんは可愛らしく笑う。

 私の背中……綺麗か。きっと、綺麗でいられるのはストレッチをやっているのもあるけど、悠真君のおかげでもある。悠真君……しているときに私のことをぎゅっと抱きしめたり、背中に何度もキスしたりする。それでも、白くて綺麗だと言われるような状態にしてくれるなんて。……えへへっ、嬉しいな。


「結衣ちゃん、口元が緩んでいるよ」

「へっ?」


 鏡を見てみると、確かに口元が緩んでいる。頬もちょっと赤くなっている。悠真君のことを考えていたから顔に出ちゃったんだろう。


「せ、背中が綺麗だって言われたのがとても嬉しくて」

「ふふっ、そうなんだ。可愛い」


 胡桃ちゃんはそう言い私の背中を洗い続けてくれる。……良かった、深く訊かれなくて。私と悠真君が肌を重ねる関係なのは知っているけど、している最中のことを言うのはちょっと恥ずかしいから。


「結衣ちゃん、背中と腰を流し終わったよ」

「ありがとう、胡桃ちゃん。先に湯船に浸かっていていいよ」

「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな。この湯船に一人で浸かったらどんな感じなのか興味があったから」

「そっか。ゆっくり浸かって」

「うんっ」


 私は胡桃ちゃんからボディータオルを受け取る。

 胡桃ちゃんは水道で両手を洗い、湯船の中に入る。私の前面が見える方にゆっくりと腰を下ろして、両脚を伸ばす。


「あぁ……温かくて気持ちいい。あと、目一杯に伸ばしても足が浴槽に当たらないなんて。うちのお風呂よりも広いね」

「ふふっ、そうなんだ」

「これならゆったりできそうだよ」


 あぁっ……と可愛い声を漏らし、胡桃ちゃんはまったりとした表情に。うちのお風呂で少しでも癒しをもたらせたら嬉しい。

 その後、胡桃ちゃんと他愛のない話をしながら、体と顔を洗っていった。


「……よしっ。全部洗い終わったから、私も湯船に入るね」

「うん。いらっしゃい……って、ここは結衣ちゃんの家の湯船だったね」

「でも、いらっしゃいで間違いないんじゃないかな。だって、胡桃ちゃんの入っている湯船に入るんだもん」

「……そうかもしれないね。いらっしゃい」

「お邪魔しますっ」


 私は湯船の中に入り、胡桃ちゃんと向かい合う形で湯船に浸かる。胸のあたりまで温かいお湯に浸かって気持ちがいい。


「あぁ、気持ちいい」

「気持ちいいよね。あと、結衣ちゃんが入ってきても変わらずゆったりしてるね」

「うん、私の予想通りだった。悠真君と一緒に入ってもゆったりしているし」

「なるほどね」


 ふふっ、と胡桃ちゃんは上品に笑う。そんな胡桃ちゃんも胸のあたりまで浸かっている。いや、あの胸の感じだと浮いている可能性もありそう。

 旅行中に大浴場に一緒に入ったときにも思ったけど、胡桃ちゃんって普段は背がやや小さめで可愛らしい印象だけど、入浴しているときの姿は大人っぽい雰囲気を感じる。体つきのメリハリがあるし、常に笑顔を見せているからだろうか。


「どうしたの? あたしのことを見つめて」

「……入浴する胡桃ちゃんが大人っぽくて素敵だなと思って。旅行のときも思った」

「そうかな。あたしも結衣ちゃんの入浴する姿が素敵だって思うよ。絵になるというか。あたしがちょっとドキッとするから、ゆう君はきっとドキドキするんだろうな」

「湯船の中で抱きしめると、悠真君の体からしっかりと鼓動が伝わってくるよ」

「やっぱりドキドキするんだ。それを体から知るのが結衣ちゃんらしい」

「ふふっ。大好きな恋人だし、しかも裸同士だから触れていたくて。私も悠真君を見てドキドキしてる」


 付き合ってから3ヶ月近く経つけど、悠真君の裸を見たり、肌と肌で直接触れ合ったりするとドキドキする。でも、そのドキドキは結構心地のいいもので。いつまでもその感覚は持っていたいなって思う。


「それも結衣ちゃんらしいな。今の話を聞いたら、ドキドキが強くなってきた」

「ふふっ。じゃあ、どのくらいドキドキしてるのか、抱きしめる形で確かめさせてくれるかな?」


 私がそう言うと、胡桃ちゃんの目が一瞬開いた。その直後に頬がほんのりと赤くなる。


「結衣ちゃんなら……いいよ」


 はにかみながらそう言ってくれる胡桃ちゃん。そんな胡桃ちゃんがとても可愛くて、ちょっとキュンとなった。


「ありがとう。じゃあ、さっそく」

「……うんっ」


 胡桃ちゃんは両腕を開いて、私のことを迎え入れる体勢になってくれる。そんな胡桃ちゃんに吸い込まれるようにして私は胡桃ちゃんのところに行き、胡桃ちゃんのことを抱きしめた。

 大きな胸の持ち主なだけあって、悠真君と抱きしめ合うときとは全然感触が違う。胸中心に柔らかくて、シャンプーとボディーソープの甘い匂いがしっかり香ってきて。


「どうかな、結衣ちゃん。ドキドキ……伝わってる?」

「……伝わってるよ」


 胡桃ちゃんのとっても大きな胸を通じて、しっかりと。


「あたしも……結衣ちゃんのドキドキが伝わってきてるよ」

「お湯が温かいし、胡桃ちゃんと抱きしめ合っているからね。それに、羨ましいと思っている大きな胸が直接当たっているし。柔らかくていい感触だね」

「……ありがとう」


 顔を結構赤くしながらも、愛実ちゃんは可愛い笑顔でそう言ってくれる。その直後に両手を私の背中に回してきて。抱きしめ合う形になったから、さらにドキドキしてくる。友達と抱きしめ合ってこういう感覚になるのは初めてかも。


「結衣ちゃんの抱き心地……とてもいいね。背の高さとかスタイルの良さがお姉ちゃんに似ているからかな。実は湯船でたまにお姉ちゃんが抱きしめてくることがあって」

「そうなんだ。……確かに、杏さんは背丈が私とあまり変わらないし体格も似ているかも。胡桃ちゃんの抱き心地もいいよ。とても柔らかくて癒やされる。友達の中では一番かもしれない」

「……嬉しいお言葉です」


 今の言葉が本当だと示すかのように、胡桃ちゃんは嬉しそうな笑顔を見せてくれた。そんな胡桃ちゃんの笑顔を見て、より抱き心地が良くなった気がする。

 それからも、胡桃ちゃんの胸に顔を埋めてみたり、後ろから抱きしめてみたり、悠真君の話で盛り上がったり。うちでの胡桃ちゃんとの初めての入浴はとても楽しい時間になったのであった。

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