前編2
スイカを運ぶのを手伝うために、俺は結衣と一緒に1階のキッチンへ。昼食から2時間以上経っているから、ちょっと暑いな。
結衣は冷蔵庫の野菜室からスイカを取り出す。見た感じ……かなりの大きさだ。今が旬なだけのことはある。
大玉なので、2分の1玉を食べることに。
結衣は包丁で半分に切り分ける。赤い実が詰まっていて美味しそう。ここから5等分するのか。難しそうだ。
結衣はスイカを見ながら「う~ん」と少し考えた後、スイカに何度か包丁を入れていく。その結果、どれも同じくらいの大きさで5つに切り分けた。
「おおっ、凄い」
自然とそんな言葉を口にし、結衣に向かって拍手を送る。すると、結衣は自慢げな様子で大きな胸を張った。
結衣と俺は切り分けたスイカを持って結衣の部屋へ戻る。部屋の中は涼しいなぁ。
俺は3人の目の前にスイカを置いていく。立派なスイカだからか、みんな「大きい……」と感嘆の声を漏らす。
お盆を勉強机に置き、俺はさっきまでと同じように結衣と隣同士でクッションに座った。
「じゃあ、スイカいただきます!」
『いただきまーす』
結衣の号令で俺達はスイカを食べ始める。
先がギザギザになっているスプーンを使って、スイカを一口食べる。
「うん、甘くて美味しい」
「美味しいね、悠真君」
お腹が空いているのか、結衣はスイカをパクパクと食べていく。
個人的には冷えたスイカを食べると夏だなって感じる。低田家では、夏になるとよくスイカを食べるからかな。夏休みには1日か2日おきに食べる。
「2人の言う通り、甘くて美味しいね」
「そうですね、胡桃。よく冷えているのがまたいいですね」
「このくらい冷えてると、屋外で食べても涼しくなりそうだね、伊集院ちゃん」
涼しい中で食べるのもいいけど、屋外の暑い場所で食べるのも良さそうだ。自販機やコンビニで買った冷たいものを外で飲むと凄く美味しいし。
テーブルに置いてある塩をちょっとかけて一口食べる。さっきよりも甘味が増して美味しい。
「あっ」
胡桃はそんな声を漏らすと、はっとした表情に。
「どうした、胡桃」
「スイカの種飲んじゃった。喉の通った感覚だと、たぶん1粒だけ」
「そっか。うっかり種を飲んじゃうことってあるよな」
「……でも、種を飲むとお尻からスイカが出てくることがあるんだよね」
結衣は真面目な様子でそう言う。声色も普段よりも低いし……信じていそうだ。だけど、種を飲んだらお尻からスイカが出てくるなんて話、聞いたことないけどなぁ。
胡桃と中野先輩は目をまん丸くしている。伊集院さんはクスクスと笑っているけど。
「それ、久しぶりに聞いたのです」
どうやら、結衣が尻スイカのことを言ったのは今回が初めてではないようだ。
伊集院さんの言葉もあってか、結衣は真剣な表情から柔らかな笑みに変わる。
「冗談だよ、胡桃ちゃん。小さい頃にテレビでやってたコントバラエティが強烈だったから。スイカの種を飲んだ男の人がお腹を痛めてね。トイレに行ったら、スイカが勢いよくポンポン出てきてさ。その影響で私、一時期は信じていたんだよね」
あははっ、結衣は快活に笑う。テレビ番組の影響だったのか。小さい頃だと、テレビの内容を信じちゃうことってあるよなぁ。俺もアニメの影響で集中すれば体が浮いて、慣れれば空を自由自在に飛べると思っていた時期があった。
今の結衣の話を聞いてか、胡桃と中野先輩はほっと胸を撫で下ろす。
「良かったぁ。バラエティの話か」
「高嶺ちゃんが真剣に言うからゾッとしちゃったよ。……実はあたしもスイカの種を飲んじゃったから」
「俺も結衣がそのことを信じて話していると思いましたよ」
表情といい声色といい、見事に騙された。役者を目指せば大成するんじゃないかと思う。
そういえば、今みたいな話、昔あったような――。
「……思い出した」
「どうしたの? 悠真君」
「スイカのことだよ。俺が小学1、2年生の頃に
当時の芹花姉さんのやる気に満ちていた顔が鮮明に思い浮かぶ。
「ふふっ、お姉様らしい。それで、実際に芽が出てスイカはできたの? 美味しかった?」
俺を見つめながら、興味津々そうな様子で訊いてくる結衣。そんな結衣のことを胡桃、伊集院さん、中野先輩は苦笑いをしながら見ている。
まさか、結衣がここまで食いつくとは思わなかった。へそから芽が出ると信じているのか? あと、もしかしたら、コントバラエティでスイカのシーンを見たときもこんな感じだったのかもしれない。
「実ができることはおろか、芽すら出なかったよ。芹花姉さんはスイカの種を丸飲みしまくって、俺の予想が当たってお腹を凄く痛めてたな」
「そうだったんだ。ちなみに、お腹が痛くなったとき、お尻からスイカは出た?」
「ぶっ」
結衣が尻スイカの質問をすると思わなかったのか、伊集院さんは吹き出す。笑いは止まらず、徐々に顔が赤くなっていく。どうやら、笑いのツボに入ったみたいだ。そんな伊集院さんを見て結衣達は楽しそうに笑っている。
「お尻からスイカは出なかったよ」
「やっぱり出ないか。お姉様は何度かチャレンジしたの?」
「お腹を痛めたのが辛かったのか、芹花姉さんが挑戦したのは一度きりだった。たぶん、姉さんの友達が考えた嘘か、結衣のようにバラエティで見た影響だったんじゃないかな」
「そうだったんだ……」
結衣はがっかりとしている。もしかして、自分から生えたスイカを俺に食べさせたかったのかな。結衣ならあり得そう。
結衣はスプーンで自分のスイカを一口分掬い、俺の口元まで持ってくる。
「私は自分の体でスイカを作れないけど、スイカを食べさせることはできるよ」
「作れる人がいたら会ってみたいもんだ」
「私も。はい、悠真君。あ~ん」
「あーん」
俺は結衣にスイカを食べさせてもらう。
結衣のが甘いのか。それとも、結衣のスプーンで食べさせてもらっているからなのか。理由は定かじゃないけど、俺のスイカよりもかなり甘く感じたのであった。
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