第44話『お祝いは夜も続く』

 みんながケーキとコーヒーをプレゼントしてくれたり、華頂さんが膝枕をしてくれたりしたから、勉強会のときはもちろんのこと、夜になっても試験勉強に集中できている。

 ――プルルッ。

 スマホが鳴っている。確認すると、LIMEで福王寺先生から、


『低変人様! 1ヶ月遅れだけど、お誕生日おめでとうございます! 私がいつも使っている猫のスタンプをプレゼントするねっ!』


 というメッセージと、先生御用達の猫のイラストスタンプをプレゼントされた。猫は大好きだし、このスタンプは持っていなかったから嬉しいな。


『ありがとうございます。猫派なので嬉しいです』


 そんな返信と、『ありがとう』という文字付きのニッコリと笑う猫のスタンプを送る。

 以前、福王寺先生は俺に「課金したい」とか「投げ銭したい」と言っていた。だから、誕生日プレゼントという名目で、高価なものをプレゼントするのかなと思ったけど。そういったものをもらうと恐縮してしまうので、200円のスタンプをプレゼントしてくれて安心している。それに、スタンプなら色々な場面で使いやすいし。

 画面を見ていると、『やったー!』という文字付きで、バンザイをしている猫のスタンプが福王寺先生から送られてくる。そして、


『喜んでくれて嬉しいよ! しかも、さっそくスタンプを使ってくれるなんて! プレゼントして良かった! 明日からまた学校が始まるから気が重かったけど、低変人様のおかげで吹っ飛んだよ! 早く月曜日来て!』


 という返信が。福王寺先生のテンションの高さが存分に伝わってくる。あと、教師でも週の始まりは気が重くなるものなのか。教師としてそれはいいのかどうかは分からないけど、親近感は湧く。


『また明日です。ところで、俺の誕生日のことは誰から? 高嶺さんとかから話されたんですか?』


 このタイミングで誕生日を祝われたんだ。高嶺さんか華頂さん、伊集院さんの誰かから話された可能性が高いだろう。そんなことを考えていると、すぐに先生から返信が。


『15分くらい前に、結衣ちゃんから低変人様の誕生日を祝ったっていうメッセージが来て。私も、以前に家庭調査票を見て、低変人様の誕生日が4月6日だと分かっていたんだけど、もう半月以上過ぎていたからお祝いはしなかったの。でも、結衣ちゃんのメッセージを見たら、あたしもお祝いしたくなってスタンプをプレゼントしたの。ギターをプレゼントしようと思ったけど、高価で引かれると思って止めたわ』


 相変わらずの長文。打ち間違いもないし、本当に凄いな。

 家庭調査票で俺の誕生日を知ったのか。おそらく、俺が低変人だと分かったから家庭調査票を見たんだろうけど、それって問題がありそうな。ただ、高嶺さんのメッセージでお祝いしようと決めたのは先生らしい。あと、やっぱり高価なものをプレゼントしようとしていたのか。


『猫のスタンプは、素の先生らしくていいと思いましたよ。ありがとうございます』


 という返信を送る。


『スタンプにして良かったよ! じゃあ、また明日ね。試験直前だし体調には気を付けて。おやすみなさい』


 福王寺先生からそんな返信と、ふとんで眠る猫のスタンプが送られてきた。

 先生からプレゼントされた猫のスタンプを見ていくと、結構色々な場面で使えそうなスタンプが揃っている。高嶺さん達にはもちろんのこと、猫が大好きだと知っている家族にも使えそうだ。

 ――プルルッ。

 スマホが鳴ったと同時に、華頂さんからLIMEを通じてメッセージが届いたと通知が届く。何かあったのかな。


『ゆう君。明日は一緒に学校へ行きませんか?』


 将野さん関連かと思って不安な気持ちになったけど一安心。ただ、一緒に学校に行こうと誘ってくるなんて。ドキドキするな。予想外のことだけど、華頂さんの誘いの返事はもちろん、


『もちろんいいよ。明日は一緒に学校へ行こうか』


 一緒に行くに決まっているだろう。

 すると、一瞬にして『既読』マークがつき、


『ありがとう! じゃあ、ゆう君の家の近くにある公園で待ち合わせするのはどうかな?』


 俺の自宅の近所には少し大きめの公園がある。俺はその公園の横を通って、学校やバイト先に行く。


『公園でいいよ。そこからなら、歩いて5分もあれば学校に行けるから、8時10分に待ち合わせするのはどうだろう?』


 俺がそんな返信を送ると、華頂さんは『了解!』という文字が入った『鬼刈剣』のキャラクタースタンプを送ってきた。


『OKだよ。じゃあ、明日の8時10分頃に公園で待ち合わせだね。早いけれど、おやすみなさい』


 華頂さんからおやすみのメッセージをもらったので、さっそく福王寺先生からもらった猫スタンプの中から、さっき先生も使ったふとんに入る猫スタンプを送った。


『悠真君もその猫スタンプ使うんだね。猫が好きだからあたしも使ってるよ。可愛いよね。おやすみ』


 華頂さんは俺と同じスタンプを送ってきた。福王寺先生からもらったスタンプって、猫好きの間では人気が高いのだろうか。

 福王寺先生と華頂さんと話したおかげでいい気分転換ができて、俺は再び試験勉強を始めるのであった。



 それから1時間後。

 キリのいいところで試験勉強を終わらせ、パソコンの電源を入れる。

 すると、すぐに桐花さんからメッセンジャーを通じてメッセージが届いたという通知が。


『低変人さん、こんばんは! 試験勉強お疲れ様!』

『こんばんは。桐花さんもお疲れ様です』


 たった一度、言葉を交わすだけで、今日の勉強の疲れが取れていく気がした。あと、桐花さんのテンションが高めのような。


『低変人さん。勉強の調子はどう? 低変人さんなら大丈夫そうな感じはするけど』

『今日も勉強会をしましたし、順調です。桐花さんの方はどうですか?』

『私も友達と一緒に勉強したから順調だよ。分からないところも、頭のいい友達に訊いて解決できたから』

『それは良かったですね』


 桐花さんの言うことが分かるな。俺も分からないところがあって、高嶺さんや華頂さん、中野先輩に訊いたらすぐに解決できたから。


『あと、今日は一緒に勉強した友達や先輩が、誕生日プレゼントにチョコレートケーキやブレンドコーヒーを買ってくれました』

『良かったね! じゃあ、例の子が『とりあえず』って言ったのは本当だったんだね』

『ええ。誕生日から1ヶ月以上経っていますし、リアルでは家族以外に祝われたことがなかったのでとても嬉しくて。思わず涙を流してしまいました』

『そうだったんだ。……何だか想像できちゃうな』


 俺、涙腺の緩いイメージを持たれているのだろうか。ただ、これまでに作品の感想を言うとき、たまに『凄く感動した』とか『グッときた』などと言うことがあるから、それで涙を流しやすいと思われているのかも。


『高校でいい友達や先輩と出会えたんだね』

『そうですね。友人のうちの1人は、例の2年前のことで謝ってくれた子ですから、中学に出会いましたけど。彼女を含めて、素敵な人達に囲まれていると思えました。もちろん、桐花さんも素敵な友人だと思っていますよ。桐花さんが誕生日プレゼントでくれたミニアルバム、凄く気に入っていますし』

『……低変人さんにとって癒しの時間になるんじゃないかと思いましてね。あと、素敵とか言われると凄く照れてしまいますな……』


 普段と違って敬語でメッセージを送るあたり、桐花さんは本当に照れているのだと窺える。そのためか、少しの間、桐花さんからメッセージが来なかった。

 桐花さんや高嶺さん達が素敵なのは本当だ。桐花さんとはネット上で、文字のみで会話しているから素敵だと言えるけど、実際に高嶺さん達の目の前では照れくさくて言えないだろうな。そんなことを考えていたら俺まで照れてきた。


『お友達が誕生日を祝ってくれたから、中間試験に向けて元気をチャージできたんじゃない? 私も今の話を聞いてちょっとチャージできた』

『ははっ、そうですか。俺もチャージできました。あとは体調を崩さないように気を付けます』

『体調を崩したら元も子もないもんね。お互いに試験頑張ろうね』

『頑張りましょう』


 それからすぐに、桐花さんが『試験勉強をたくさんして眠い』とメッセージを送ってきたので、今日のチャットはこれで終わりにするのであった。

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