第24話『エプロン女子かわいい』
「悠真君。私達が悠真君の白玉ぜんざいを作るからね!」
「ありがとう」
「ふふっ、気合い入ってるね、結衣ちゃん」
「低田君の力は凄いのです。見学しに来てくれているのですから、頑張って美味しい白玉ぜんざいを作りましょう」
「そうだね! ……ただ、その前に。悠真君、私達のエプロン姿はどうかな?」
ニッコリと笑いながら高嶺さんがそう言うと、3人はこちらを見る。高嶺さんは明るい笑み、伊集院さんは落ち着いた笑み、華頂さんはちょっと恥ずかしそうに。また、高嶺さんはその場でクルッとターン。
高嶺さんはベージュ、伊集院さんは桃色、華頂さんは赤色のエプロンをそれぞれ身につけている。
「みんなよく似合っているよ。可愛いな」
正直に感想を言うと、高嶺さんはぱあっと明るく、伊集院さんは普段通り可愛らしく、華頂さんははにかんだ笑顔に。
「ありがとう、悠真君!」
「低田君に可愛いって言われると照れてしまうのです。胡桃はどうですか?」
「中学で調理実習があったからね。同じ班だったときもあったから、そのときにエプロン姿は見られているの。だから……逆に照れちゃうな」
華頂さんは俺をチラチラと見てくる。当時と比べて、エプロン姿も大人っぽくなったな。
高嶺さん、伊集院さん、華頂さんは白玉ぜんざいを作り始める。まずは彼女達の作る様子を見学しよう。
伊集院さんの料理の腕が未知数だけど、高嶺さんは料理ができるし、華頂さんも中学の調理実習ではテキパキと料理をしていた記憶がある。この2人が一緒なら、とりあえずは大丈夫かな。
「白玉粉に混ぜる水の量を間違えないようにね」
福王寺先生の声が聞こえたので、そちらを向いてみると、先生は別のテーブルの様子を見ていた。先生は襟付きブラウスの上に青いエプロンを身につけている。普段の先生からだと、料理をするイメージが全然湧かなかったけど、エプロン姿を見ると急に家庭的な人に思えてくる。
俺の視線に気付いたのか、福王寺先生はこっちを見て、高嶺さん達のテーブルに向かってくる。
「どうかしら、低田君」
「似合っていますね、そのエプロン。可愛いですよ」
「……ほえっ?」
福王寺先生は間の抜けた声を出すと、顔をほんのりと赤くして視線をちらつかせる。
「わ、私のエプロン姿についてではなくて、スイーツ部の雰囲気や3人のぜんざい作りにどんな感想を抱いたのかを訊いたのだけど」
「ああ、そっちの方ですか。和やかな雰囲気で進んでいくんですね。ムーンバックスでバイトをしているからか、ここがまったりと感じられます。あと、3人はテキパキやっていると思います」
「……そう。……あ、あと、エプロン姿が似合っていると言ってくれて嬉しかったわ。どうもありがとう」
「いえいえ。思ったことを素直に言っただけですよ」
みんながいる前だから、福王寺先生は頬を赤くして微笑む程度だけど、俺と2人きりだったら大喜びして、抱きしめてきそうな気がする。今頃、心の中では興奮しまくっていそうだ。
「杏樹先生、凄く可愛い」
「あたしも思ったよ、結衣ちゃん」
「LIMEで猫のスタンプを使うというのも納得なのです」
「……ね、猫派なので猫のスタンプくらい持っているわ。あなた達も水の量には気を付けなさいね」
福王寺先生は高嶺さん達から逃げるようにして俺達のテーブルから去り、他のテーブルの様子を見に行く。そんな先生の姿を見て、3人は「可愛いね」と笑い合っていた。こういう反応をされるんだから、少しずつでも素の可愛らしさを出していけばいいのにと思うんだけどな。
――プルルッ。
スマホが鳴ったので確認すると、福王寺先生からLIMEでメッセージが届いていた。
『あの猫ちゃんスタンプを使ったのを、高嶺さん達に見られちゃったの? ちょっと恥ずかしい……』
どうやら、トークの相手が素を知っている俺だから、福王寺先生はあの可愛らしいスタンプを使ったようだ。
『ごめんなさい。昼食中だったこともあって、高嶺さんに覗かれてしまいました。そのときも、彼女達は先生には可愛らしいところがあると言っていました。あと、見られたのはスタンプだけで、先生との会話の内容は見られてないと思います。きっと、俺の正体にも気付いていないかと』
という返信を送った。これで少しは恥ずかしい気持ちを抑えられればいいけど。
――プルルッ。
すぐに福王寺先生から返信が届く。
『低変人様は何も悪くないよ! 了解です。可愛い女の子達に可愛いと言われるのも悪くないわ。照れくさいけど。ただ、低変人様からエプロン姿が可愛いって言われたから、もう気分が有頂天だよ! ヤバいよ! これだけで今週のお仕事を乗り越えられそう!』
相変わらず、この短時間で長文を打つのは凄いな。
やっぱり、エプロン姿が可愛いという俺の感想に大喜びしていたか。俺だけじゃなく、高嶺さん達に可愛いと言われるのが悪くないなら、これからは教室でも可愛い姿を見られるかもしれないな。
「悠真君。スマホを見るのもいいけど、もう少しこっちを見てくれると嬉しいな」
「ああ、すまない。……俺にも手伝えることはないか? 団子系のスイーツは家で作ったことがあるし。見学という体でここにいるけど、何もしないのは申し訳ないというか」
「じゃあ、白玉粉をこねたから、一口サイズのお団子にするのを手伝ってくれるかな。エプロンは持ってきてあるから」
こういう展開になるかもしれないと思って、俺の分のエプロンを持参してきたのか。凄いと思うと同時に、高嶺さんらしいとも思う。
俺は高嶺さんが持参した黒いエプロンを身につける。手をしっかりと洗い、華頂さんの横に立つ。高嶺さんとはテーブルを挟んで向かい合う形となる。
「ボウルにこねた団子があるから、一口サイズに丸くしてね」
「了解」
「低田君もいますから、あたしは団子を茹でるためのお湯とあんこを準備するのですよ」
「よろしくー、姫奈ちゃん」
俺はさっそくボウルからこねた団子を手に取って、丸い形にしていく。
「よし、こんな感じかな」
「低田君、上手だね。作ったことあるって言っただけあって慣れた手つきだし」
「ああ。……華頂さんも上手だな」
「……あ、ありがとう。こうしていると、中学のときの調理実習を思い出すね。一緒の班で作ったこともあったし」
「……あったな。あのときは確かカレーだったか」
「……うん」
俺の方を見ずに話したけど、頬をほんのりと赤くしながら微笑む華頂さん。そういった顔を見ると、同じクラスだった中2の頃を思い出すよ。こんな形で、こんなに近くで微笑む華頂さんの横顔を見られる日が来るとは思わなかった。
「いいなぁ、羨ましい。1年間だけでも同じクラスになると、そういった思い出ができて。私も笑えるような悠真君との思い出を作ろうっと!」
言葉通りの羨ましそうな様子でそう言う高嶺さんは、一口サイズの綺麗な丸い団子を量産していく。さすがは高嶺さんだ。
俺に告白してから数日くらいだけど、もう既に高嶺さんは色々な意味で俺との思い出をたくさん作っているんじゃないかな。そう思いながら、俺は団子を丸めていくのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます