第23話『スイーツ部へようこそ』
放課後。
俺がスイーツ部に見学するのもあり、終礼が終わるとすぐに高嶺さんと伊集院さんが俺のところへやってきた。
「悠真君。さっそく部活に行こうか」
「うん。ちなみに、スイーツ部の活動場所ってどこなんだ?」
「特別棟の3階にある家庭科室なのです」
そりゃそうか。スイーツを作るんだから。まだ家庭科の授業は教室でしかやったことがないけど、いつかは家庭科室で調理実習をするのだろう。
「隣のクラスの胡桃ちゃんも一緒に行くからね。胡桃ちゃんには昼休みが終わる直前に伝えたんだ」
「……そうか。分かった」
俺達は1年2組の教室を後にする。その直前に教卓の近くにいた福王寺先生の方を見ると、先生は口角を少し上げて頷いた。心の中ではウキウキしていそうだ。
華頂さんのいる1年3組のクラスの教室から、スクールバッグを持った生徒が何人か出てきている。きっと、3組の方も終礼が終わったのだろう。
高嶺さんと伊集院さんが教室の中を覗き、俺は少し離れたところで待つ。するとすぐに、
「みんな、お待たせ」
スクールバッグを持った華頂さんが教室から出てきた。これからスイーツ部の活動があるからか、華頂さんはとても楽しそうな笑顔になっていて。また、俺と目が合うと、微笑みながら小さく手を振った。
「きょ、今日は低田君も一緒なんだよね。スイーツ部に興味があるのかな?」
「昼休みに高嶺さんと伊集院さんに誘われてさ。見学してみてもいいかなって思ったんだ」
「そうなんだ。それに、低田君は甘い物が好き……そうだよね」
「あ、ああ。甘いものは好きな方だよ」
「や、やっぱり」
華頂さんは頬をほんのりと赤くしながら、どこかぎこちない笑みを浮かべた。俺がスイーツ好きなのが意外に思ったのだろうか。
俺達は4人で特別教室棟にある家庭科室へ向かう。場所が分からないので、俺は3人についていく形に。
「そういえば、スイーツ部は毎週月曜日に活動するのか? OGの姉貴が、文化部は週1か週2の部活が多いから、入部を考えていたのを思い出して」
「普段は毎週火曜日に活動するの。ただ、明日から試験1週間前になって、試験が終わるまで部活動が原則禁止になるから、今週の活動は月曜日の今日になったんだよ」
今日やらなければ、今週と来週の部活動が無しになるのか。ただ、そんな時期にも日にちをずらして活動できるのは、週に1度だけ活動する部活のいいところかもしれない。
第2教室棟から特別教室棟に入る。放課後になったばかりだからか、教室棟に比べると生徒が少ないな。
スイーツ部の活動場所である家庭科室に。中学の家庭科室に比べると結構立派だと思う。
あと、高嶺さんから聞いてはいたけど、家庭科室の中には本当に女子生徒しかいない。男子の姿がないと、学校じゃない場所に来ている感覚になるな。
男子が来たからか、女子生徒達も物珍しい様子でこちらを見てくる。
「ほとんどの部員が低田君を見ていますね」
「悠真君は初めて来るからね。女子だけの部活だから尚更。でも、私達と一緒にいれば大丈夫だと思うよ」
「ああ。端で見学するか、高嶺さん達と一緒にスイーツ作りをするよ」
スイーツ部のみなさんに迷惑をかけないように気を付けなければ。
その後、部長である3年生の女子生徒が俺に挨拶しに来た。福王寺先生から俺が見学すると聞いたとのこと。活動の様子を見たり、実際にスイーツを作ったりして楽しそうだと思ったら入部してほしいと笑顔で言われた。
それからも家庭科室に続々と生徒が入ってくるけれど、見事に女子ばかり。本当にスイーツ部って女子しかいないんだな。
そして、俺達が家庭科室に来てからおよそ15分後。
「みなさん、お待たせ」
トートバッグを持ったスイーツ部顧問・福王寺先生が家庭科室に入ってくる。その瞬間、一部の部員から「きゃあっ」と黄色い声が上がる。先生、女子生徒からも人気があると小耳に挟んだことがあるけど、それは本当だったみたいだな。
顧問の福王寺先生が来たからか、15人ほどのスイーツ部の部員達は先生の近くに集まる。俺達も先生の側まで向かう。
部員達にたくさん囲まれる中、福王寺先生は俺をチラチラと見てくる。教室にいるときよりもソワソワしているな。
「……月曜日に変更になったにも関わらず、全員参加ね。よろしい。みなさん、こんにちは。今日の授業、お疲れ様です。先週の部活で話した通り、今日は白玉ぜんざいを作ります。完成したら、今年の新茶と一緒にいただきましょう。茶葉は私が土曜日に買ってきましたので」
そう言って、福王寺先生はトートバッグから新茶の茶葉の袋を取り出す。すると、部員達が「おおっ」と声を出している。土曜日に買ったってことは、ムーンバックスに来る前に買ったのかな。
「あと、今日は普段と違って男子生徒が1人いるけど、彼は私の受け持っているクラスの生徒のてい……低田悠真君よ。高嶺さんや伊集院さんの誘いで、今日は彼が見学することになりました。低田君、みんなが作っている様子を見学してもいいし、作ってみたいのであれば遠慮なく言いなさいね」
「分かりました。1年2組の低田悠真といいます。今日はよろしくお願いします」
俺が挨拶すると、多くの部員が「お願いしまーす」と返事してくれた。普通に返事してくれるだけでも感激してしまう。
あと、さっき……俺のことを低変人って言いかけたよな。福王寺先生、俺がここにいることにかなり興奮しているようだ。うっかり、俺を低変人と呼んでしまわないかどうか心配だ。
「では、みなさん。さっそく白玉ぜんざいを作り始めましょう」
『はーい!』
スイーツ部の部員達はいくつかの班に分かれて、白玉ぜんざい作りを始める。ちなみに、高嶺さんと伊集院さん、華頂さんは1年生同士で一緒の班だ。前列の窓側のテーブルにいる。とりあえず、彼女達の様子を見学するか。ただ、その前に、
『興奮しているかもしれませんが、俺が低変人だと言ってしまわないように気を付けてくださいね』
福王寺先生のスマホに注意のメッセージを送った。
すると、教卓の近くにいた福王寺先生はスマホを手に取る。俺が送ったメッセージを見てくれているかな。
――プルルッ。
スマホが鳴ったので確認すると、福王寺先生から返信が。
『安心してください! 興奮しすぎて鼻血出ちゃうかもしれないけど』
福王寺先生の方を見ると、先生はクールな表情のまま俺に向かって右手でサムズアップ。先生の言葉を一応信じるけど、気にかけておくか。
あと、福王寺先生が鼻血を出してしまって、白玉団子が赤玉団子や桃玉団子になってしまう班が出ないことを祈る。
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