第8話 いよいよ部展の用意です

「うぅ……眠い……」


 GWの朝早くに起きた。大体休みの日には9時近くまで寝ている俺にとって、朝の7時は夢の中の世界なのに。

 それでも自転車を出して家を出る。眠気と戦いながら30分かけて会場まで向かうのだ。途中で事故を起こさないことを祈る。

 眠気を討伐して進むこと30分。事故を起こさないという願いは砕け散りました……。

 会場の駐輪場に自転車を停めると、後ろから激突してきた奴がいたのさ。犯人は分かったかな? 桜です。


「あー、ごめんごめん。眠かった」

「眠かった……じゃないからな? 俺も眠いのに事故らなかったんだぞ!」


 プラザの三階が展示する場所だ。そこに至るまで二人でいろいろ言い合う。

 三階に到着すると、すでにたまちゃんと舞ちゃんが来ていた。たまちゃんは分かるが、舞ちゃんも早いな。


「おはよう」

「あっ! おはよう松下君」

「先輩おはようございます!」


 しばらく待っていると、続々と集まってくる部員たち。美術部も一緒にやって来ていた。

 この合同部展の顧問は、美術部の蓮先生だ。全員が集まったことを確認して朝の挨拶をしている。


「もうね、この日が来たね。さて、どんどん展示していこか。明日から公開やからはよ終わればはよ帰れるよ」


 そういうことならとっとと終わらさせてもらおう。ファイト!


「でも、事故には気を付けてねー。ほぼ何年か前に脚立から落ちた子がいたから」


 はいそこたまちゃん! 怖いこと言わないで!

 若干不安は残るがとりあえず作業を始めよう。まずは準備室から脚立を持ってくる。

 天井まで楽々届くサイズだった。作業はしやすいけど落ちたら痛いでは済まないかも……。

 脚立に登って天井にワイヤーを掛けていく。


「遥、桜、ちゃんと押さえといてよ?」

「え? 何それフラグ?」

「おやおや? 急にガタガタと……」

「やめい! 殺す気か!?」


 遥からフックを受け取り、ワイヤーを通してから滑車を滑らせていく。マジに暇な単純作業。

 作業の片手間に美術部の様子を見てみる。

 美術部は大きな絵画作品を展示するようだ。他の部活の活動風景を描いたものやアニメチックなものまでたくさんある。

 そして何より目を惹くのは彫刻だ。一メートルはあろうかという彫刻が、美術部の目玉作品なのだろう。


「あれを彫るのはすごいよな……」

「確かに。でも、こっちも負けてないし!」


 遥が対抗心剥き出しに、書道部の目玉を見る。

 縦1メートル、横10メートルの巨大用紙に書いた作品。去年に一年生全員、つまりは現二年生皆で書いたのだが、正直最初は冗談だと思った。

 縦はまだ分かる。でも、横が10メートルだからね!? センチじゃないよ、メートル。

 書いた内容は「阿波よしこの」。徳島県の阿波おどりで、躍りと一緒に口ずさまれる民謡だ。

 元が阿波おどりだから全員がふざけにふざけて書いていた。「ヨイヨイヨイヨイ」のフレーズなんて、文字が躍り狂ってるもん。

 その巨大作品も今回持ってきていた。今回の部展最大級の大きさだ。

 下で有紗と憂愛が興奮している。


「あんなもの書いてみたいね!」

「夏休みとか時間とれるかも!」


 向上心を持つことはいいね。でも、気を付けたほうがいい。あのような巨大作品は必ずといっていいほど揉める。

 さて、休憩も終わって続きのワイヤー掛けていきますか。遥に部品を貰って作業続行。


「有紗ちゃーん、ちょっと手伝ってー」

「はーい!」


 たまちゃんに呼ばれた有紗が向かっていく。……待った、フック付きワイヤー持って走ると危な……

 フックが脚立に引っ掛かり、クロス引きみたいに脚立をひっくり返す。当然、脚立に乗っていた俺は落ちるわけで……頭に強い衝撃が加わった。


「えっ!? 先輩!?」

「ちょっと…下!? 大…夫!?」

「せ……ー! 松…がー!」


 段々と意識が薄れてい……っ……て……




………………………………




 目が覚めると、お腹が空いていた。


「……俺って何時間寝てたんだ?」

「あっ! 寺下先生、先輩が気づきました!」


 側では有紗が心配げに座っている。他にも書道部の面々が揃っていた。すぐにたまちゃんがやって来る。


「平気!? すごい音立てて落ちてたけど?」

「怖いこと言うの止めてくださいよ……」


 まあ、一度気を失っていただけで他に異常は無さそうだ。気を失った地点で異常だらけだが……。


「そうだ! 展示は?」

「もう終わったよ? そろそろ帰るところ」


 珍しい表情の遥が教えてくれる。なんか一人サボったみたいだな。いや、気絶だからノーカン!

 俺が目を覚ましたことで皆が荷物を背負っていく。目覚めまで待っていてくれたことが嬉しい。

 時計を見ると、もうすぐ11時になるところだった。俺も帰ろう。帰り道怖いな

 立ち上がって荷物を持つと、服の袖を掴まれた。見ると、有紗が涙目で立っている。


「本当にごめんなさい……。先輩をあんな目に……」

「次からは気を付けてな。脚立から落ちるのマジで怖いから」


 怒っても仕方ない。ミスを繰り返さないようにやさしめに。

 頭を撫でてあげようとも思ったが、何がセーフで何がアウトか分からないから止めておく。

 ……それに、あの落下の瞬間に見えたから、あながち不幸でもないかもしれない。例の半紙の送り主が分かったかも。

 そのために、今日は帰ったら一枚作品を書こう。搬出の日に確認してやる。

 俺の薔薇色の青春まであと少し! ……だと信じておこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る