第四十八歩 【狩猟の先兵】
俺たちはランズさんの話を聞き、事態の深刻さに蒼褪めていた。
「つ、つまり……王国もランズさんも完成できていない技術って訳か」
ランズさんが話してくれた話を要約するとこうだ。
そして、土塊に魔力を込めれば生成できるため費用対効果が高く、一度生成することが出来れば理論上はいくらでも増やすことが出来るらしい。
デメリットがあるとすれば、その技術はかなり高度であり今でもこれほど完成されたものは見たことが無いのだと……
「つまり……今、龍の里を襲っている奴らの本陣は生半可な連中じゃないってことだな」
『ワシが知る限り、ホムンクルスをこれほどまでに完成に近づけられる者は一人しかおらん。ワシが人間としての身を捨てた時に会ったきりじゃがのぉ。ワシの身体はそいつに作って貰ったんじゃ』
そう言えば、ランズさんって長命すぎると思っていたがやっぱり生身ではなかったのか……
「それで? その人って?」
『ゲルマフィ・レイ。パペットマスターと呼ばれる男よ。じゃが、ワシも奴の思考には付いていけなくてな……それほど長くは付き合わんかったのだ』
「思考?」
『うむ、奴は最強の人形を探しておったのだ。そのために使っていたのがこのホムンクルスという先兵。
しかし、これほどの戦闘力は無かったはず……』
ランズさんはしばらく黙ると、呟くように続ける。
『風の噂で奴は今、〝グラトニル〟に属していると聞いたことがある……』
「〝グラトニル〟‼」
それを聞いた瞬間、リンは大きく身を乗り出す。
決して慎ましくない双丘が俺の頭に乗り上げるが、今はそれどころではないので平常心、平常心。
「グぅ、グラトニルってぇな、なんなんだい?」
平常心だって言ってんだろうが俺ぃ!
事情を知らない俺にランズさんは完全に裏返った声には触れず、説明してくれる。
『〝グラトニル〟は魔獣や魔物を狩ってその素材を売り捌くことを生業としている組織じゃ』
なるほど……敵だな!
俺が短絡的な考えを導き出している間に話は進む。
「じゃあ、あの殺された龍人族の人が角や翼を失っていたのって……」
「えぇ、素材として回収されたって事で間違いないわね」
「――そうか」
俺はそれを改めて認識すると拳を握り締める。
『ルイよ。お前がこれからしようとする事は大体、察しが付く。止めても無駄だと思うから先払いでこいつを送っておいてやろう!』
ランズは腕輪を通して、何個かの魔道具を転送してくれた。
バインド系のストック・ボトルが二つ、パラライズ系のストック・ボトルが二つだ。
『今回の報酬はこれから戦うであろうホムンクルスの残骸で構わん。ワシもそれらの技術を調べてみたいでな!』
「あぁ、分かったよ。多分、たくさんの残骸を送れると思うから期待していてくれ!」
俺はランズとの通信を一旦切り、ふぅっと息を吐く。
「ルイさん?」
「嫌なもんだな。元居た世界でもそうだったけど、動物が狩られてるって聞くのはさ……」
俺は握りしめた手を深呼吸しながらほどくとコタロウを抱き上げる。
「今回の奴らの目的はミディじゃない。奴らは龍人族や龍族の素材を求めている!」
「そうね。このホムンクルスたちはその先兵……という事はどこかに本陣があるはずよ!」
俺とリンは顔を見合わせて頷くと、村へ戻るべく走り出した。
※
俺とバーンさんはメガロが寝ている水槽の前で呆けていた。
「暇っすねぇ。みんなどっか行ちゃったし……俺ができることなんてないしなぁ」
俺はメガロを守るという大義名分を掲げながら何もできない自分が何とも情けなくて、さっきからバーンさんに愚痴りまくっている。
「だぁぁぁぁあ! うるさいってぇの! いつまでどうしようもないことを愚痴ってんだい、モブボーイ!」
「だから、モブボーイはやめてくださいって!」
俺がそう言うとバーンさんはフフっと笑い、大きく羽を広げる。
「あぁ~ここにいてもつまんねぇなぁ! 俺っち退屈、大嫌いなんだよねぇ~……って事で俺っちちょっくら行ってくるわ!」
そう言うとバーンさんは部屋の外へ向かって歩き出す。
「え? ちょっと?」
「んじゃ! 後はよろしくぅ!」
ポカンとする俺を置き去りにバーンさんは勢い良く羽ばたき、飛び立つ。
「あぁ、行っちゃった……ま、まぁもうすぐルイさん達も戻ってくると思うし、大丈夫でしょう!」
そんなことを口にした俺だったが、内心はビビりまくり!
だって、得体の知れない敵が侵入しているかもって場所で戦えない人間と手負いのサメだけ残しますかね?
俺は飛び去って行ったバーンさんを恨めしく思いつつ、メガロの水槽の前へと戻った。
ガタンッ!
俺は大きな物音で目を覚ます。
いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
「良かった! 誰か戻って来てくれたんすね! 俺、もう心細くて心細くて……え?」
部屋の窓から外を覗き込んだ俺の目に映ったのは見知らぬ顔が沢山。
明らかにお友達って面はしていない……というか、生き物って顔してないぃ!
村の中に集団で入って来ていたのは変な木偶人形のような人型の集団。
もう、見ただけで敵だって判る!
「どどど、どうしよう! まだ、誰も帰って来てないみたいだし……」
小屋の中で俺はメガロの水槽に寄り添い、ガタガタと震えるしかなかった。
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