けものの脇道 ~王の剣たち~

 荘厳華麗な玉座に一人の男が堂々と座している。

 その前に跪くのは一人一人が違う種類の鎧と紋章を身に着けた騎士が三人。

 更にその後ろにはそれぞれ二人の騎士たちが控えている。


「王権騎士団長 ゼノス・ブラン。以下二名」


「王政直属治安部隊〝グラブ〟総長 ギリアム・カース。以下二名」


「王域防衛退魔軍〝ミリアノス〟指揮官 ミレイ・アーガニア。以下二名」


「「「王命により参上いたしました!」」」


 玉座に座りながら三人の騎士を見下ろしていた男が手をかざすと三人は顔を上げる。


「我が剣たちよ、ご苦労であった。今回招集をかけたのは他でもない……王権騎士団の報告にあった異界人についてだ」


 その言葉を聞き、ゼノスの後ろに控えていた騎士の一人が反応する。


「王権騎士副団長 コルテア・ハイト。貴公が件の異界人に直接かかわったのだったな。詳しい内容を皆に話すのだ」


 王に促され立ち上がったハイトは奥歯を噛みしめる。


「あ、あの異界人は大小二体の魔獣を使役していました。小さい方はどうという事は無いですが、大きい方の魔獣の力は凄まじく……」


 そこまで聞くとミリアノス総帥であるミレイが手を挙げた。

 ミリアノスは魔物や魔獣を相手とする防衛のプロ集団であり、その総帥を任されたミレイは王国一といわれる美貌と知略を持つ女傑である。


「発言をお許し頂けますか?」


 王が頷くとミレイは立ち上がり、ハイトに視線を向ける。


「ハイト副騎士団長、貴殿は魔獣の調査が目的でオレストに赴いたのでしたね。なぜ執拗にかの異界人を追い詰めるような真似をしたのですか? 異界人より魔獣の方が脅威としての優先度は高いはず……調査結果を基に動く手はずとなっていた我々としては不服ですわ」


「全くだぜ‼」


 ミレイの棘のある言葉に同調する様に一人の男が立ち上がる。


「お前が勝手な事をしてくれたおかげで異界人を取り逃がしたどころか、俺様の部隊に被害まで出す始末だ! どういうつもりか俺も聞いてみたかったところだぜ!」


 孤児からの成り上がりであったギリアムは治安部隊の中で頭角を現し、治安部隊を王の直属であるグラブまで押し上げた実力者であったが、貴族からは疎まれる存在であった。

 故に自軍に被害が出たことよりも貴族派閥が推しているハイトの失敗が可笑しくて仕方が無かったのである。


「期待の副騎士団長様が大失敗したって市民の間でも噂になってるぜぇ。グラブとミリアノスにとってはいい迷惑だしよぉ。なぁ、ミレイ指揮官殿?」


 口元に下卑た笑みを浮かべながらミレイの肩に手を置くギリアムだったが、ミレイはその手を振り払う。


「ギリアム殿、我々が魔獣を駆逐しなければ市民が危険にさらされる。そのような事があれば王の威光にも影響するやもしれません。あなたの様に小さき事を論じているのではない。そもそも王の前で許しも得ずに発言するとは不敬ですよ」



 ミレイの凍るような視線とギリアムの殺気立った眼光がぶつかり合う。


「あ、あのーー」


「此度の失態は全て私の責任。かの異界人の件は我ら王権騎士団が始末をつけましょう」


 ハイトが口を出そうとした瞬間、沈黙を保っていたゼノスが口を開いた。

 ゼノスも加わり、三つの組織は一触即発の空気が漂う。


「静まれ。此度は貴公らの責任を問うつもりも貴公らを競わせるつもりもない。もし、かの異界人が魔獣や魔物を使役できるとするならば、何としても我が国が押さえねばならぬという事だ」


 王の言葉に一同の目の色が変わった。


「バルミエ王 クリーグ・フォン・バルミエの名において命ずる。かの異界人を生きて捕らえよ‼ そして魔物共を使役する力を我が手に‼」


「「「この命に代えましても‼」」」

 

 王下の三大勢力が動き出す。

 その王命は瞬く間に各組織の末端まで駆け巡り、王宮内は今までに無いほどの緊張に包まれる。

 恨むべきはこの出来事がルイ達が王宮へと入り込む数時間前であった事である。

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