第二十六歩 【不死鳥と裏口】

 リンたちと別れた俺たちはフェニックスの導きで王都の外壁に沿ってかなり歩いていた。

 もちろん堂々と歩くわけにはいかないので、草むらに隠れながらだが。


「一体どこまで行くってぇんだよ?」


「そう焦りなさんなって、もう少し行けば見えてくるはずだからさ!」


「一体、何が見えてくるんすか?」


「何って……地獄の入り口に決まってんじゃないかい」


 フェニックスはケタケタと笑いながら飛ぶスピードを少し上げる。

 そしてある程度、先へ進んだところで地面に降り立った。


「お~い、バーン様が帰ったぞ‼ さっさとここを開けたまえよぉ!」


 フェニックスが壁に向かってそう叫ぶ。


「お、おい。もし番兵にバレたら大変なんじゃ?」


「ここまで来れば大丈夫だって。ここいら辺は君たちを呼んだ奴のエリアだからさ。番兵もそいつの私兵しかいないんだ」


「何だと⁉ おい、お前の飼い主は一体、何者なのだ? 王都の外壁の一角を支配する権利など、並の者に与えられるものではないぞ‼」


「だ・か・ら、前からそう言ってるじゃんよ! 奴はそれだけの重要人物って事! ってか、誰が俺の飼い主だって⁉ ふざけんなよ! 俺様みたいな高貴な不死鳥様が誰かに飼われる訳ないじゃねぇか‼ 不死鳥舐めんなよ‼」


 フェルの質問に答えながら、激怒するフェニックスに今度はコタロウが質問をする。


「でも、バーンって名前はその人から貰ったんじゃないんですか?」


「んぁ? 俺っちくらい長生きだと暇つぶしに人間たちと交わるのも珍しくないんだよぉ! バーンって名前も今まで適当につけられてきた名前のほんの一部でしかない。ただ、一番名乗りやすいから使ってるだけなんだ。だから今、つるんでる奴も俺っちの暇つぶし相手ってだけなのさ!」


 そんな話をしている間に壁の一部がドアの様に開いていく。

 現れたのは黒服の凛々しい男性。

 白髪や相貌から年配の様だが、身体は全く年を感じさせないほど逞しい。

 絵に描いたような執事という感じだが、薄暗い通路にランタンを持って直立している姿は少し不気味さも感じる。


「ただいま、チェルク!」


「お帰りなさいませ、バーン様。イゼア様も首を長くしてお待ちですよ」


「あぁ、おつかいは大成功さ。イゼアも喜んでくれると思うぜ。後の案内は任せてもいいかな?」


 チェルクと呼ばれた男は頷くと、俺たちの前へ進み出る。


「ようこそおいでくださいました。私の主であるイゼア様があなた達にお礼をしたいと仰せになっております」


「お礼?」


 リンにはミディの事でお礼を言われたが、それ以外には身に覚えなどない。

 むしろ騎士団から逃げたり、湖を吹っ飛ばしたりと我ながらろくな事をしていないと思うのだがーー


「お礼ですか?」


「えぇ、詳しいことは主から伝えるとのことでしたので、ご案内させていただきたいところなのですが……」


 チェルクはそう言うと懐に手を入れた。


「‼」


 フェルとメガロは身体を強張らせ、飛び退こうとしたようだが時すでに遅し。

 チェルクが辺りに振りまいた黄色い粉が俺たちに襲い掛かる。


「な、何を⁉」


 朦朧とする意識と霞む視界には直立したまま頭を下げるチェルクと口元を緩めるフェニックス


「これも主の命ですのでお許しを」


「悪く思うなよ! 約束は守ってやるからさ!」


 散布された粉は俺やシュウスケだけではなくコタロウやフェル、水球の中にいるメガロまで動きが鈍っている。


「やはり罠だったか……ルイ、貴様のせ……いだぞ」


 俺の耳に届いたフェルの声。

 それを最後に、俺たちは地面に倒れてしまった。

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