第二十七歩 【協会と不死鳥 前編】
朦朧とする意識の中でわずかに声が聞こえてくる。
「――さん。――て――さい。ル――さん! ルイさん‼ 起きてください‼」
徐々にはっきりしてきた声に促され、目を開けるとそこにはシュウスケの顔があった。
「ルイさん、大丈夫っすか?」
「あ、あぁ大丈夫。それより……」
俺が辺りを見渡すとそこは石造りの殺風景な部屋だった。
まるで牢屋みたいにも見えるが、鉄格子や拘束の類は見当たらない。
「俺もさっき目が覚めたところなんっすけどね。俺たち捕まったんすかね?」
「どうだろうか? そうじゃないような気がするけど」
「何でっすか?」
「いや、だってさ……」
俺とシュウスケが横を見ると、そこには未だぐっすり眠っているコタロウとフェルの姿があった。
「もし捕まえられたなら、俺たちとこいつらを一緒においとくかな?」
「まぁ、そりゃそうっすね……ところでメガロは?」
俺たちは立ち上がり、姿が見えないメガロを探す。
部屋は思ったより広く、ちょっとしたフロアみたいだ。
「ところで、いつからメガロを呼び捨てにしてたっけ? お前、最初はさん付けしてたよね?」
「えぇ、今更っすか? 少し前にメガロにまどろっこしいからってフランクに話すように言われたんすよ。フェルさんには未だに怖くて敬語使ってますけど……」
そう言えば、シュウスケはこの前の村で初めてフェルの巨狼の姿を見たんだっけ。
まぁ、ちっちゃい姿でも殺気は本物だから一緒に旅していればなんとなくわかるけど。
「あんなちっちゃくてかわいいフェルさんに凄みを感じていた理由がようやくわかりましたよぅ‼」
その間の抜けた声と共にシュウスケは俺の目の前から忽然と消え、その場に水飛沫が上がる。
「な、何だこれ? 生け簀?」
シュウスケが落ちた水は石で作られた大きな生け簀の様な所に溜められていた。
そしてそこには腹を上に向けて浮かんでいるメガロの姿。
口から気泡が出ているから生きていることが確認できた。
「メガロも無事だったのは良いんすけど、こいつら全然起きないっすね」
「それは効果を魔獣寄りに調合したからさ!」
聞き覚えがあるひょうきんな声と共に部屋のドアが開いた。
部屋に入ってきたのはバーンとチェルク。
二人の姿を見てシュウスケが身構える。
「ここはどこっすか? 俺たちを罠にかけて何するつもりなんすか?」
「まぁまぁ、落ち着けって! 急に眠らせちまったのは悪いと思うが、こっちも色々とばらすわけにはいかないんでね。秘密の通路を通り抜けるまでは眠ってもらったのさ」
「それならそうと言ってくれればいいじゃないか。これでは罠だと誤解してしまうよ!」
俺の返しにシュウスケが怪訝な顔をしているのが見えた。
「ちょっとルイさん! 誤解ってあのやり口は完全に罠だったじゃないっすか!」
そのやり取りを聞いていたバーンは口元を緩め、笑い出した。
「クハハハ! 本当にお人好し何だなぁ、君って! じゃあ正直に言うけどさ、こんな手段を取ったのはこっちの身の安全を確保するためだったんだよね!」
「バーン様、それは……」
「大丈夫さ。薬の効果は証明されたし、こいつらに敵意はないってのは分かっていただろ? それにイゼアの野郎もこのままじゃ話難いだろうからさ!」
チェルクは少し不安げな表情を見せたが、バーンの言葉に頷き、バーンに小瓶を一本渡す。
「今度は何の薬っすか?」
警戒するシュウスケをバーンが軽くあしらいながらフェルたちへ近づいていく。
「ただの気付け薬だって! 心配しなさんな」
バーンは炎の翼を指のように変化させ、器用に瓶の栓を開ける。
その様子を見守る俺たちにチェルクが深々と頭を下げる。
「皆様、ご無礼を働き申し訳ございませんでした。ですが、皆様を招いた御方はそれほど高貴なお方なのです。何卒、ご理解いただきたい」
「そろそろ教えてくれてもいいんじゃないっすか? 俺たちを呼んでるのが誰なのかを」
「それは……」
バシャーン‼
俺たちの会話は大きな音で遮られた。
それと同時に水飛沫が辺り一面に飛び散る。
「ゲボゥ‼ ゲホッゲホッ‼ 何だってんだよぉ!」
メガロが生け簀の中から水の球を作り飛び出してきた。
周りを見るとフェルとコタロウも目を覚まし身体を起こしているが、メガロのようにはなっていない。
「何しやがる! この鳥公‼」
「あぁ、悪い悪い。残しちゃもったいないと思って残り全部ぶち込んじゃった。まぁ、そのおかげでばっちり目が覚めただろ?」
「ふざけやがって‼ しかもこの味……まさかテメェら」
メガロは何かに気付いたように殺気を振りまく。
起きたフェルとコタロウも無言のまま警戒態勢に入った。
あの気付け薬に一体何が?
俺たちが困惑していたその時だった。
「やっぱり魔獣君たちは気付いてしまったようですね。だから、ここまで来れば隠す必要は無いと言ったのに」
部屋に入ってきたのは俺と同い年ぐらいの少女。
長く伸びた黄金の髪と涼やかな眼差しが美しい紛れもない美少女だ。
その姿を捉えた瞬間にチェルクは道を開け跪く。
「招待を受けてくれてありがとう。私はイゼア・ピーミリア。世界の薬品を管理する創薬協会の会長をしております。お見知り置きを」
俺たちの驚愕をよそに少女は可憐な笑みで笑った。
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