けものみち3本目 目覚めの道 ~序章~

第二十五歩 【門前と不死鳥 前編】

 村を出発して二週間後……

 俺たちはやっとの思いで王都を囲む外壁まで辿り着いていた。

 しかし、それは目的地の到着というだけの意味ではなかった。


「じゃあ、私たちはここから龍の里へ向かうとするわ」


 龍の里は王都の更に先にあるらしいが、龍人族や龍が王都を通るのはリスクが大きすぎる。

 それでもリンとミディは俺たちを案じ、予定よりもかなり王都の近くまで同行してくれた。

 それ以上を望むなどわがまま過ぎるというものだ。


「キュ~ン」


 ミディは俺の手に頭を押し当てながら寂し気な声を挙げている。

 この一ヵ月、ともに旅をしてきた仲間と別れるのはどうしても辛い所がある。

 リンもミディも同じ気持ちなら嬉しい。

 だけどーー


「リン、ミディ。今まで本当にありがとう。君たちがいなくちゃここまで来られなかったよ。後はお互いに自分たちのやるべきことをやろう!」


 王都に入れば俺たちがどうなるかはわからないし、俺のわがままなんだからこれ以上は巻き込めない。

 リンたちとはここで別れることが正解なんだ。


「でも、どうやって王都に入るつもり? 正規のルートは使えないんだし……」


「此奴の事だ。そこまで考えてはいまい。まぁ、しばらくは様子見が妥当だろう」


 フェルのやれやれといった感じはいつもの事だが、最近はそこにもうワンクッション。


「んなもん、正面突破しかねぇんじゃねぇのか? 考えるだけ無駄ってもんだぜ‼」


 一緒に旅をしてきてわかったことだが、メガロは非常に直線的な性格だ。

 回りくどいことが嫌いで、少々荒っぽい作戦を考える。

 いや、単に考えていないだけかもしれないがーー


「ここまで来て焦りは禁物ですよ! 静かに王都に入らないと僕たちなんてすぐ捕まってしまいます!」


「コタロウの言う通りよ。私たちがいなくなった後でもあなたたちは無茶をしそうだから……」


「そう言う事なら、いい話がありますよ! お嬢さん‼」


 辺りにひょうきんな声が響いたかと思うと俺たちの上に影が現れる。

 俺たちが上を見上げると同時に弾丸の様なものが足元に落下してきた。


「な、何だってんだ⁉ いきなり強襲するたぁ、いい度胸してんじゃねぇかよ!」


 メガロ、フェル、リンは戦闘態勢を取り、巻き上げられた砂埃を睨みつける。

 しかし、その緊張感は一瞬のうちに消えることになるのである。


「え?」「は?」「な?」


 三人の拍子抜けした声に促され、目を凝らすと見えてきたのは焚火の様な炎……なのだが


「なにこれ……キモッ!」


 シュウスケの意見には同意できる。

 その炎はまるで生き物であるかのようにウネウネと動いている。


「なぁ、水かけてもいいか?」


 メガロが皮袋に入っている水を操り宙に浮かした時、炎の中から声が響く。


「チョッ! いや、待ってってば。とりあえず出して、説明するから! いやマジで‼」


 俺は殺気立つメガロたちを宥めると炎に近づく。

 ある程度近づいたところで揺れていた炎が集まり、手の形になり伸びてくる。


「さぁ、そこの異界人のおしゃべりボーイ! さっさと俺っちを引き抜いてくれたまえ!」


 さっきからノリが何とも軽いこの火の玉。

 というかこれに触れても大丈夫なのだろうか?


「大丈夫、大丈夫。俺っちの意思があれば俺っちの身体は熱くないって!」


 俺はその言葉を信じ、炎で形作られた手を掴む。

 確かに熱くはないがフヨフヨしていてなんか変な感じだ。

 俺は力一杯手を引っ張ると地面に埋まっていた炎の部分が大根の様に抜けた。

 その姿を見た俺たちの目はくぎ付けになる。

 そう、それはまさしく……


「よっと! ってなわけでさ、登場はミスっちまったが伝説の不死鳥ことフェニックスちゃんだよ‼ よろしくぅ!」


 テンションを上げ、自己紹介をするフェニックスに対して俺たち一同はただただ絶句していた。

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