第六歩 【町とスキル】
《森見(もりみ)の町 オレスト》
町は活気にあふれ、賑わっている
フェルに聞いた話では森が近く、果実や素材が手に入ることで流通が盛んな場所らしい。
「人がいっぱいですねぇ! こんなに人が多い所は始めてです」
コタロウが周りを見回しながら目を輝かせる。
確かに俺たちが住んでいた町はあまり大きくはなかったから、こんな活気がある場所は無かったな。
「我も少し前に来ただけだからな。町の様子も変わってしまっているようだ」
「前ってどれくらいなんだ?」
「確か、150年前くらいだろうか……」
それを聞いた瞬間、俺とコタロウは思わず噴き出した。
魔獣と人間では時間の概念が違うということなのだと思うが、150年って!
フェルの知ってる店は果たして残っているのだろうか?
俺たちはそんな不安を抱えつつ、フェルの後に続く。
「んむぅ……」
しばらくしてフェルが呻く。
「やっぱりないのか?」
「目印にしていたものが見当たらないのだ。その店がある通りの入り口には大きな木があったはずなのだが」
やっぱりというかなんというか――これだけ発展している町なのだから木の一本や二本、無くなっても不思議ではない。
しかし、弱ったな。
改めて、誰かに聞くか?
一応、町を行く人たちの言葉は日本語で聞こえている。
異世界語と日本語って共用なのか?
まぁ、実際は〈
そんなことを考えながら俺は町の声に耳を傾ける。
〝複数の言語の翻訳を確認 経験値により〈言語理解〉がLv.1からLv.2へ成長〟
「ん?」
頭の中に不意に浮かんだそんな一文。
なんだこれ?
「ルイさん、これを見てください!」
俺が不思議がっているとコタロウが何かを見つけたらしく、俺たちを急かす。
「これって、この町の地図じゃないですか?」
コタロウが見つけたのは、まさしくこの町の案内板。
交易が盛んな町はこういうところで親切だな。
「でも、見たことがない文字で書かれていますよ?」
案内板に目をやると、確かに記号に近いような文字が並んでいる。
「フェル、読めるか?」
「いや、人間の文字までは分からんな。そもそも魔獣に文字の概念はない」
それもそうかと思いつつ、俺は案内板とにらめっこを続ける。
すると――
〝〈言語理解Lv.2権能〉言語理解範囲を文字まで拡大 ON / OFF〟
「エッ⁉」
さっきと同じようにまた頭の中で文字が浮かんだ。
しかも今度は選択肢付き!
スキルのことについて何にも知らないわけだが、スキルってこういうものなのか?
「ルイ、どうしたのだ?」
きょとんとしている俺のフェルが声をかける。
「い、いや、スキルのレベルがどうのこうのって――頭の中で!」
「ほぅ、スキルが成長したか」
成長? スキルって成長すんの?
「スキルは使い続けたり、とある条件を満たしたときに成長するものだ。それによって効果範囲が拡大したり、権能が増えたりする。お前のスキルもレベルが上がったならば、何か変化があるはずだ」
「なんか権能云々っていう話だけど」
「頭の中でお前のスキルを呼び出してみろ! 権能やできることが見えるはずだ」
「呼び出すって――どうやって?」
「ただスキルの名前を思い浮かべればいいだけだ」
俺はフェルに言われたように頭の中で〈言語理解〉思い浮かべる。
するとスキル名の下にリストみたいなものが出てきた。
〈言語理解〉Lv.2
基本権能:発話翻訳(Lv.1) 発話理解(Lv.1) 文字理解(Lv.2)
追加権能:なし
なんかゲームのステータスみたいで見るのは楽しいが・・・マジで名前通りの権能しかないやんか。
俺はため息をつきつつ、文字翻訳の権能をONにした。
すると、今まで暗号みたいだった文字がどんどん日本語に変換されていく。
まるでメールの早打ちを見ている気分だ。
「字面は地味だけど、なかなか便利じゃないか!」
俺は少し興奮しながら案内板を見回す。
「ここに素材屋って書いてあるぞ! 店の名前はフェアリアか」
「む! そうだ、そこだ! 確かにフェアリアという名前であった!」
フェルが思い出したように吠える。
150年前にもあったという店か……フェルの記憶が確かなら老舗中の老舗だな。
「とりあえず、行ってみようか!」
俺たちが再び歩き出そうとしたその時だった。
「あそこです! 妙な服を着た男が一人でずっと話しているんです!」
非常に嫌な叫び声が聞こえた方を見ると、明らかにこちらを指さしている町人が数人の番兵らしき連中を引き連れてきている。
「不味いな、治安部隊だ。異世界人だと分かれば捕縛されてしまうぞ!」
フェルの説明を聞く限り、やることは一つだな。
「コタロウ、フェル! 逃げよう‼」
俺たちはまた走り出すこととなってしまった
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