第15話

そうして昼食を終えた2人は、再び頂上へと歩き始めた。気を抜くと滑り落ちてしまいそうな下り坂、手を突かなければ進めない程急な上り坂。昨日の雪が深く積もり、気を抜くと足を取られそうな、凹凸の激しい道。少女の息は上がる。その顔に倦怠の色は見えないが、頂上が近付くにつれ、口数は減っていき、足取りも重くなる。


「疲れたか」

「ううん、大丈夫」

「そうか」



遠く見えていた山頂は、やがて、2人の目前となり、はっきりとその輪郭を表す。2人の前には、そこへと至る細い道。一歩踏み外したら容易に転落するであろうその道を、昨日の雪はすっかり覆い隠していた。


「さあもう一踏ん張りだ。落ちそうになったら支えてやる」

そう言って先に行くように促す男に、少女は、雪目にならないようにと男に渡されたサングラス越しに、顔を強張らせる。


「いやこれ、普通に死ぬじゃん」

「だからそう言っただろう」


事も無げに言う男だが、少女の顔を見て言い直す。

「いや、確かに俺も自分がゾンビじゃなかったらこんなところに絶対来なかったな。真面なヒトが立ち寄れない所に平気で来られるのが、この身体の良いところだ」


「おじさんは」

少女は口をついて出そうになった言葉を飲み込んだ。そのまま沈黙した少女に、男は言う。


「どうする、やめるか」

男の問いに少女は今度は即答する。

「ううん、やめる訳ないでしょ、私は」


強張りの取れた笑顔で続ける。

「おじさんが支えてくれるんでしょ?」



かくして2人は進み始めた。雪の下の地面は砂礫であることが、踏み締めた靴底の感覚で少女には分かる。滑りそうに、転びそうになる少女を後ろの男が支え、2人は時間をかけて前に進んだ。道の半分程行ったところだろうか。男は思い出したように言った。

「俺が今豹変してお前を襲ったら、2人とも真っ逆さまだな」

「そういうこと今言わないでよ、と言うか忘れてたよそんな話……その時は2人とも死んじゃうね?」

呆れ顔を男に向ける少女に、男はにやりとして言う。

「いや俺はゾンビだから生き残るぞ」

「頭が取れたら死ぬんじゃなかったっけ」

「よく覚えてるな、大丈夫だ、俺は受け身を取る」


2人は笑い合ったが、2人が2人ともそれが冗談なのかそうでないのか判別はついていなかった。ただ心地良い笑いではあったと、少女はそれを覚えている。

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