アンデッド・クライマー

もくたん

第1話

 戦争があった。長い、永い戦争だった。兵は朽ち、野は焼け、民は燃えた。これはそんな長い戦いに負けた、とある国の物語。




 鬱蒼と茂る深い森。人が生きるにはあまりにも原始的なその場所は、皮肉にも未開であるが故に戦火から免れていた。そんな辺地のバス亭に、降りる者がいた。1人は少女。つば広帽子を被り、背にはリュックサック。ダウンジャケットに質素なズボン、スニーカーという出で立ちの彼女は、迷いなく獣道に踏み入り、森の中に進んでいく。そして、もう1人。深く被ったフードと丸渕のサングラス、マスクにネックウォーマーまで付けて顔を隠したその人物は、肩幅だけで男性と見て取れた。ヤッケを着込み大きなバックパックを背負い込んだ彼もまた、彼女の進んだ獣道に足を踏み入れる。足場の悪い一本道である。大柄な彼の登山靴は、すぐに先に入った少女の背中に近づいた。彼が少女に、今にも追いつきそうなその時、少女は彼に向き直る。虚をつかれ、一瞬固まる男に、少女は弾む声で言う。



「おじさん、ゾンビでしょ?」



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