第2話
「神田さん、調子はどうですか?」
主治医が俺の病室に回診に来ている。
「はい…良くは無いです。徐々に悪くなっているのが自分でも分かります。」
「…食事が全然取れて無いですね…。」
「…食べたくなくて。」
「何か好きなものでも看護師に買って来させましょうか?」
「いえ…これといって食べたいと思わないので。」
「そうですか…何か有ったら遠慮なく看護師に言ってくださいね。」
「はい…。それよりも痛みが…少しずつ強くなっている気がします。」
俺は腹をさすってみせた。
「…では…少しだけ痛みを和らげる点滴の回数を増やすようにします。
そのかわり眠くなる時間が増えますけど、宜しいでしょうか。」
「はい…構いません。起きていても辛いだけなので…。」
「分かりました。」
胃ガンだと診断されて4年。
2ヶ月前にこの病院に入院することになった。
ガンが見つかった当初は手術も受けた。
でもガンが俺の身体から無くなることは無かった。
今は全身に転移しちまっている。
余命1ヶ月。
このまま俺はこの病院で死んでいくことになるだろう。
神田司、38歳。
早すぎる死だと周りの人は言うかもしれない。
でも俺には悲しんでくれる家族が居ない。
たった1人、この病院で死んでいく。
ー深夜ー
いつもなら睡眠薬をもらって飲んでいるから寝てしまえば朝まで起きないのだが、このところ痛みで目が覚めることが増えている。
2:30
今晩も痛みで起きてしまった…。
昨晩はしばらく我慢していると収まって眠りにつくことができた。
「少し冷たい水を飲めば落ち着くかもしれない…。」
そう思って起き上がり、ベットサイドのミネラルウォーターを取り口に含んだ。
グフォッ。
急に吐き気が襲って来て、思わず吐き出す。
「あ…。」
吐き出した水は透明ではなく、真っ赤な血に染まっていた。
その血を見ると急に目の前がグワリと揺れた。
「うぅ…、めまいが…。」
目を抑えながら横のティッシュにもう片方の手を伸ばしたが、身体が思うように動かずバタリと床に転げ落ちてしまった。
「痛え…。」
痛みとめまいが強く起き上がる事は到底出来ない。
薄目に見える病室の天井がグルグルと回っている。
廊下を走る音がこちらに近づいて来るのがわかる。
俺の視界は徐々にかすれていた。
ガラッ
「神田さん、神田さん!!」
夜勤の看護師が物音を聞いて駆けつけてくれたのか…。
懸命に俺の名前を呼ぶが、俺の意識は少しずつ遠退いて…
ついに真っ暗闇に飲まれて行った。
黒い闇の中でもグルグルと回っているのがなぜかわかる。
うぅ…気持ちが悪い…。
こんな暗闇でも吐きそうになる気持ちを抑えていた。
しばらく耐えていると、闇の真ん中に一筋の小さな光が見えた。
すると何故か気持ち悪さが一気に薄れ、そしてその光に猛スピードで吸い込まれていく。
俺はなされるがまま、光の中に入って行った。
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