第六話。一瞬の暗転。時間の跳躍。

 西の空にひときわ輝く星が見える。金星かな。

 黄昏時はあやかしが悪戯に出歩く時間。ミケコが幽霊ならそろそろ現れるかも知れない。


 綺麗な黄昏を眺めながらそんな事を考える。


 僕があいつと出会ったのも、こんな時間だったな。

 そうも思い。


 だんだんと薄暗くなる。あんまり暗くなりすぎると暗視カメラで見るしかなくなるけど、幽霊はカメラに映らないしな、とかもおもう。




 しばらくして。


 前方にぼんやり、三毛猫が見えた。


 ああ、あれがミケコか、と、納得して。


 うん。間違いない。あれは残留思念だ。


 あそこにずっと居るけれど、見えるのはこの時間だけ、と、いうことなのだろう。


 最近池の周りの草を刈ったとも聞いたから、それで見えるようになったということかな。




 あっさりと解決だ。


 あとはあそこを掘ってみれば何か猫を埋めた痕跡でも出てくるかも知れないけどそれは望み薄かも。

 もう二年も経ってるのだ。とっくに分解されてる可能性大だしプロでもなきゃ痕跡調べるの難しい。

 どうしようかとおもいつつそれはまあそういうものだと納得してもらうとして。


 ちょっと拍子抜けだ。もっと難しい案件かとも思ったけれどそうでも無かった。


 あ、でもちょっとまって。

 あれ、僕だから見えているっていう話もあるよね。

 こんなにはっきり見えるのにわざわざ依頼があるっていうのも変?


 ああ、それによく考えたら猫埋めた人は誰?


 その人は……。ミケコが死んでいることを知っている? っていうことだよね?




「やっぱりあそこ、掘ってみるかな」

 何か別の、ほんと何かがわかるかも知れないし。




 とりあえず今日できることはもう終わり。

 明日また出直そうとテントをたたみ荷物を纏め、屋内に挨拶をと思ったその時。


 背後から何かに覆いかぶされ口元を塞がれたかと思ったら。

 僕はそのまま意識を失った……らしい。


 ☆


 気がついたら何処かのソファーみたいのに転がされていた。

 目隠し、と、両手はうしろ手に縛られた状態。


 ああ、いやだ。

 初めてっていうわけじゃ無いけど、こういう意識を失う感覚というのは怖い。

 時間が一瞬で切り替わる。その間の自分が存在しないっていうのが不気味で嫌。

 寝て起きた時とは違うのだ。

 一瞬の暗転。時間の跳躍。

 麻酔で眠らされた時に感じるこれ、は、ほんと何度経験しても慣れないし本能的に怖いのだ。


 しかし。


 一体これはどういう状況なのだろう?

 このお屋敷にあの二人以外の人間がいたのか?


 こうして捕まったことに対してはけっこう冷静でいられた。

 あいつが暴れ出さなければ、いいな。

 と。

 そちらの方を心配するくらいで。




 しばらくして。

 人の気配がした。扉が開いた音がして、引きずるような足音がする。


「余計なことを考えずあれを成仏させてくれるだけでよかったものを……」

 嗄れた声が囁く。


 嘘。……みどりさん?

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