第7話

【変わらない】


ある日の晩、いつになく切ない面持ちですずさんは語り掛けてきた。


「…ねーえ。」

「ん?どうしたすずさん。」


変な間があった。


「あたし、やっぱり変わらないといけないのかなぁと思って。」

「会社で何かあったのか?」


時として、すずさんの正義感は、

他人に曲解される原因を生み出してしまう。


「…うん、ちょっとね。向こうに悪気はなかったんだろうけどさ、

 色々と言われて…。まあ、仲の良い同僚なんだけど。」


間髪入れずに俺は言った。


「そのままでいい。」

「えっ?」


すずさんは、鳩が豆鉄砲を食らったような、そんな顔をした。


「ああ、俺はそのままでいいと思う。」

「…あ、あの、理由も聞かず、い、いきなりですか…?」

「ああ、そうだ。自分に嘘ついて、無理して変わったって、

 疲れるだけじゃん。」

「…で、でもさ、みんなにそれで迷惑かけちゃうこともあるんだよ?」

「構わない。」

「え!?」

「俺が」

「…ん?」

「俺が許す。」

「…あ、あのぉ。」

「何があたって、何言われたって、俺にとっちゃあ

 すずさんはすずさんだ。そのままがいい。」

「…」

「まあさ、こまけぇこたぁ気にすんなよ!

 猫に芸教えたって犬にはなれねぇだろ?」

「…ぷっ、ははは!何かあなたが言うと妙に説得力があるね。」

「なんだ急に!笑いすぎだ!」

「…ねぇ。」

「ん?」

「ありがと。」

「おう、気にすんな!」


人は変われない。でも、成長することは出来る。

無理して変わろうとして、自分自身に嘘をついて、

結句、自己嫌悪に苛まれて、横道にそれてしまう。


だから、ありのままでいいんだ。


まずは、自分で自分自身を受け入れることこそが大事なんだ。


そして成長し、そのありのままで、

例え小さな一歩であったとしても、

前へ、前へと進めばいいんだ。


ゆっくり、ゆっくりでいいんだよ。

すずさん、あなたはあなたのままで、

そのままで構わないんだ。


無理せず、いや、無理したっていい。

俺が…

…そう、俺が、いつでも支えてやっからよ!


しかし、すずさんは可愛いなぁ。

強く見られてるけれど、そういう人って、

案外誰よりも、我慢しているだけだったりするからな。


俺の前だけでは、しっかり本音をぶつけてくれる、

そんな彼女が愛おしい。


互いに最低限の気遣い、要するに尊重は忘れず、

それでいて無駄な気遣いはしない。

それが仲良くやってゆく秘訣だ。


お、すずさん、洗濯物でもしてるのかな?


「ああぁ!」

「ん?」

「もぉう!ズボンとパンツ一緒に脱がないでー!

 洗濯するとき面倒でしょ!」

「ご、ごめんなさーい!」


ははは…。

俺は、こういうとこ成長しねぇとな…。


「ニャー!!」


すずさん、いつまでも、そのままのあなたでいて下さい。


「まったくぅ、あなた甘えすぎー!」

「…ははは、ごめんね。」

「あはは!…いいよ。」


彼女は莞爾と、笑った。

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