第3話
【すずさん】
すずさんは良く泣く。地元の高校が甲子園で活躍して、
ドラマを観て、映画を観て、漫画を読んで。
その都度、俺がそっと涙を拭う。
可愛い。
普段職場で気丈に振る舞い、
何かと戦っている、
そんな彼女の私生活だ。
無論、俺は彼女の仕事に興味はなく、
何か頑張りすぎてんだな~、
くらいにしか感じていない。
だからこそ、私生活で彼女が見せる、
女の子のような純真な一面が何よりも愛おしい。
また、猫たちに一所懸命尽くしてみても、
何故かほったらかしの俺のほうにばかりじゃれついてきて、
それを恨めしそうに見つめている彼女もまた健気で可愛い。
「お前しつけぇから寄ってこねぇんだよ~」
そう本音を言いたいのだが、
それを言うと本気で落ち込みそうなので
敢えて言わず、
「すずさんはお母さんで、
俺のことは兄弟くれぇにしか
思ってねぇからじゃれてくるんじゃね?」
と言って、すずさんをフォローする。
そしてすずさんは良く喋る。
まぁ、良く喋る。
とにかく、喋る。
それを俺はただただ軽い相槌を打ちながら
「うんうん」と聴く。
これもまた良い。
「俺だって疲れてんだよ!俺の話聴けよ!」
などとは一切思わない。
俺はどこか達観しているところがあって、
気持ちの悪い言い方をすれば、
俺の意識は宇宙と一体化してしまっていて、
あまり愚痴や不満といったものを感じない。
もし感じたとしても
その場ですぐ自己解決し、
次に進んでしまう。
男はさぽっとしているのが一番だ。
図太く、どっしり構えて、
適当に、要領よく生きることがいい。
何事も深く考えすぎないことが何よりだ。
そう、自身の大いなる道が定まっていれば、
何もぶれることなどない。
俺にとっての道とは、
俺の作品で世界中を熱狂させることと、
すずさんを世界で一番幸せな女にすることだけだ。
だから俺は問題ない。
とはいえ、一年に一度くらい、
精神に肉体がついて来られずにぶっ壊れる。
数日高熱にうなされ、
その後、もう数日風邪の諸症状と不眠に襲われる。
二人が一緒に暮らす前は、
俺の家までわざわざ看病をしに、
すずさんは通ってくれたものだ。
有り難い。
そんなすずさんは俺に言う。
「いつもありがとう」
「そういってくれるのあなただけだよ」
「いつも助かってます」
などと。
すずさんは素直に感謝の気持ちを口に出してくれるのだ。
これもまた有難い。
俺はただ彼女が元気に笑い、
光輝いていてくれるだけで元気になれる。
以前にも綴ったことだが、
俺は決して彼女に岡惚れや懸想している訳ではない。
俺が見るも無残な40前のブ男で、
彼女が絶世の美女で、
だから俺は彼女だけは…とそういう訳ではないのだ。
…そんな子供じみた言い訳は置いておこう。
結局のところ彼女でなくては駄目なのだ
そう、彼女にしか興味がないのだ。
全人類の女性が俺の遺伝子を欲しようとどうでもいい。
誰かが言った、異性は35億人いると。
否!35億分の1の彼女なのだ。
次がいるから、他にいるから、
否、否、否!
ああ、俺はブ男でも何でも構わない。
誰にどう思われても構わない。
彼女がいいのだ。
彼女でなくてはいけないのだ
それは何故か?
…わからん。
ただ、俺の魂がそう叫ぶだけだ。
依存ではない、共存なのだ。
すずさんとの共存。
それが、俺が世界で一番幸せでいられる形。
「ただいまー。」
「あ、おかえりー!」
「ニャー!!」
「ああー!ずるいぃ!あたし帰ってきたとき
出迎えてくれないのにぃ!」
「…ははは。」
「ニャー!ニャー!」
「(おい、察しろ、察してくれ!)」
「…はぁ。もう、…辛い。」
「た、たまたまだよ、すずさん!
ね、ほら、美味しいご飯作るから!」
「…はぁ~あ、あたしは依存体質ね。
この子たちに依存しちゃってる。」
「…」
「…でもいいの、片想いでも。うん、あたしはいいの…。」
「…(あ、あれ?)」
「…うん、うんうん。」
「あ、あのぉ。」
「お腹空いた。」
「…はい、ただいま用意いたします。」
「ねぇ」
「ん?」
「あたしって、めんどくさい?」
「はは、バーカ。ちょうどいいよ。」
「へへへ。いつもありがとね。」
すずさん、俺のほうこそありがとう。
これからもいつまでも、一緒に生きましょう。
「ニャー!!」
あ、あとお前たちもな。
「うぅっ、やっぱしあなたにばっか…」
「は…ははは!(こら!気ぃつかえ!)」
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