それでも私は紅い口紅を塗る

狐火

プロローグ

「ねえ、どうして神様は私の全てを愛してくれるの?」

 真冬の寒い夜、私は一緒にこたつに入っていた父さんに聞いた。両親ともにキリスト教を信仰していた我が家では、寝る前に皆で聖書を読むのが決まりだった。


 どんなに父さんの帰りが遅くても、リビングに集まるこの時間は私にとっては唯一の楽しみであった。神も仏も洗脳というものの怖さも知らなかった私はただ純粋に聖書を読んでいて、愛というものをよくわからないまま父にそんな問いを私はしたのだった。


 私の純粋な問いに答えるべく、父さんはこたつから抜け出してある石を手に持ってきた。


「見てごらん」


 そう言って父さんはこたつに入りながら私にその石を渡した。


「この石に愛着を持てるかい?」


 私はその変哲もない石に何も感じなかった。そして私は首を横に振った。


 そんな私の様子を見て父さんはどこからかトンカチを取り出して、自分の手のひらの上でその石を割った。するとその石の中から綺麗な薄い青色の結晶が現れる。


 私はその石をすごく綺麗だと思った。


「神様はね、この石の全てを知っているんだ」


 父さんは石を見ながら言った。


「この石がどれだけの年月をかけてこの綺麗な結晶を作ったのか、わかっている。だから何の変哲もなく、灰色で綺麗ではない石の部分も全て愛しているんだ」


 正直私は父さんの言っていることが良くわからなかった。だって私はどうしても綺麗ではない灰色の石の部分が気にいらなかったから。


「綺麗なものはね、あまり綺麗とは言えないものが土台になってできているんだよ」


 そう言って父さんは私の頭を撫でた。


 父さんの言葉を母は何も言わずに聞いている。私の頭の上にある父さんの手を凝視しながら。


 なぜ母がそんな顔をしているのか、その時はわからなかった。今なら少しだけ、本当に少しだけわかってしまう。血の繋がりは心の繋がりに決して劣らないと言うだけのことだ。



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