第22話


 扉の正面にはケージェイ。


 右側にはオーダーのメンバーがいて、そこの空いてる席にラビットも座る。


 左側に、奥からガッシリとした戦士風の男。


 そして、格好が変わっているがナナ。


 最後に、今一番会いたくない人物。


「待っていたよヤト、今日は呼び出しに――」


「久しぶり~ヤトくん元気してた~?格好変わってないね~」


 ケージェイの言葉を遮って椅子から飛び上がったそいつ、胸を強調した装備を着こなす耳障りな喋り方。俺がブロックした存在……マリシャ。


「……」

「ちょっと~無視しないでよ~」


 彼女の揺れる胸に周囲が声を上げる。


「マリシャちゃんカワイイ!俺にもそういう反応してほしかった!」


 ラビットの言葉に、彼女は顔色を変えて彼を見る。


「……私~ラビットさんには死んでもらいたい気持ちで~す」


 本当に嫌そうにマリシャはそう言う。


「ラビット」

「すみませ~ん」


 ケージェイの言葉にすぐ頭を下げるラビット。


 一先ずマリシャを無視して席に着いた俺は、少しだけ眉を顰める。それは不機嫌になったということでもあり、面倒なことになったということでもあった。


 ケージェイが今回俺を呼び出したのは、エリアボスについての情報交換だったからだ。


 第3エリアのエリアボスは、熊のような獣系のモンスターで、それについてはテスターの間で話が出回っている。


 このエリアボスを倒したのが、ケージェイ率いるオーダーの攻略組みだということも、周知の事実である。ケージェイ曰く、ボスの脅威度は現状普通で理不尽過ぎず、安易過ぎずといった感じらしい。


「エリアボスは倒せた、がしかし、ボス討伐のレアドロップはなく、ただ新エリア開放がそれの報酬だった」


「それじゃーボス攻略における利益って経験値とフィラってだけ?」


 フィラはこの世界の通貨だ。ボス攻略のメリットが経験値とフィラだけというのは、単純なモチベのダウンになる要素だが、周回できない以上、今はその方がいいのかもしれない。


 しかし、今あるこの世界ではもう一つメリットがある。


「利益はもう一つ、この世界からの帰還に一歩前進した」


 ケージェイの言葉に、「そうね」と返したナナは、また口を閉じた。


「現在は調査中だが、ボス攻略におけるレアドロップは必ず存在する、でないとゲームとしてプレイヤーに不満がでてしまう」


 そう、この世界のボス討伐にレアドロップは存在する。


 だが、ケージェイはそれを手に入れられない。入手手段も、ドロップしたという情報さえも彼が知ることはまずない。


 何故そんなことを俺が旨の内で思うのかと言うと、実際に一度それを手に入れているからであるわけだが、そのことを俺が奴に話す義理はない。


「これからも検証を試みる、それに関しては以上だ。次に、我々オーダーの攻略組みがエリアボスの攻略を来週末にはする予定だ。攻略エリアは5、参加は現在オーダーの攻略組みと、私が声をかけた他のギルドから数名だ」


 参加するギルドは知らない名ばかりで、ここにそれらしきギルドマスターが1人だけ腕組みをして座っていた。


 幻影の地平線と書いてファントムホライズンと読む、ギルドマスターはアスランといい、オーダー以外のギルドで、唯一第3エリアのエリアボス戦も参加していた。


「どうだろ諸君、ナナ、マリシャ、ヤト、キミたちも参加しないか?」


 来週末、参加メンバーも経験者でテスターばかり、楽な戦闘になるだろう。が、戦闘で得られるのは大したものではない。


 この誘いに乗るメリットが少ない。


「俺は遠慮する、俺1人いてもいなくても変わらないだろうし、それに……レアドロップもないようだからな」


 ケージェイは肯くと、他の二人の反応を見る。


「私は参加するわ、一度はボスの強さを見ておきたいし」


 ナナがそう言うと、ラビットが即〝よろしくね〟と微笑む、が、彼女が笑みを返すことはなく、代わりに鋭い棘のある視線を返した。


「私は~所属しているギルドが第6エリアの攻略に忙しいから~、今回はお断りさせてもらいます~」


 マリシャがそう言って断ると、ラビットは〝今度またの機会にね〟と片目でパチリと合図する。もちろん明らかな嫌悪が返される。


「……ラビットさんは生理的に無理~」


 彼女は両手をクロスさせて拒絶した。


 ラビットがマリシャに完全に一線を引かれたのを最後に、俺はその部屋を後にする。


 その後、オーダーの本部前でマリシャに腕を掴まれて話をすることになったのは、ある意味不運と言わざるを得ない。


 話題はもちろんブロックに関してだろう。

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