第20話


「ねぇヤト、フレンド申請していいかな?」


「……最後にもう一つ教えておくが、フレンドにもデメリットがあるんだぞ」


 フレンドに登録すると、いつでも自分の居場所が知られる。それに、戦闘中視界の隅にメッセージがチラつくことも少なくない。


「へ~そう言われればそうなのかもしれない、けど、ボクはヤトとフレンドになる方を選ぶ」


 そう言ってカイトは、俺にフレンド申請してきた。


 【KJ】:IN:ORDER:ヘイビア街中――

 【MARI】:IN:――:へイビア街中――

 【7NANA7】:IN:――:F3―A3――

 【KAITO】:申請中――


 視界に入った〝ORDER〟の文字。


「秩序……ね」


 俺の呟きにカイトは首を傾げる。この日の俺は、どういう訳か申請を断らない日だったらしく、呟いた後すぐに〝登録〟を選択した。


「ふふっこれでフレンドってわけだね、よろしく――ヤト」


「……それじゃーな、カイト」


 これで漸く俺も、第3エリアの先へと行ける。


 右手を上げて始まりし街へ帰ろうとする俺を、カイトが引き止める。


「ちょっと待ってヤト、キミの名前なんかグレーなんだけど」


 まだ教授が必要な項目があったようだ。


「それは〝他のプレイヤーに攻撃しました〟って印だ、ヘルスがその色のプレイヤーにもしも会った場合は、関わるな絶対に」


 過去のものには黄・赤へ変化して、PKをした奴をレッドプレイヤーと呼んでいたらしい。


 だが、古い事件以降はそれらは暗黙の下で禁止され、グレーから黒へ変色するよう変化し、PKした奴はブラックプレイヤーと呼ばれるようになった。


「もしPKしてたらこれが黒になるの?なるほどね、今度から気を付ける」


「言っておくが、あくまでそういう側面があるってだけだからな、グレーの奴が全員危ないって訳でもないし、緑が安全な奴って訳でもないからな」


「なるほど……って、それじゃあこの色は、あまり世間体がよくないってことなのかな?」


 1日も経たない内に元の色に戻る、ソロの俺にとっては別に大した弊害もない。


「ん、まーな」


「それなのにヤト……キミって、ボクに危険さを教えるために……やっぱり、優しいねヤトは。見てくれはアサシンみたいだけど、いつかこの借りは返すからね」


 感動の涙らしきものを流しながら、俺にそういうカイト。だが、その涙は何故か俺の旨に強く印象付いた。


「……期待はしないが、覚えてはおくよ」


 カイトは、俺が見えなくなるまで手を振り続けていた。


 俺はカイトみたいな奴は嫌いじゃない。もちろん、女というだけで人によっては苦手意識を持つことがあるが、俺に関して女男という性別は気にも留めない。


 この世界は俺の世界でもあって、カイトの世界でもある。


 世界を共有している人間が自分より後輩となれば、それなりにこの世界を嫌って欲しくないと思うものだ。こんな世界でも、それに、俺は悪人じゃないつもりではいるし。


 しかし、カイトの言った〝アサシンみたい〟ってのは、俺の誤解を一つ解いた。


 俺は、マリシャとナナが、情報屋としてフレンドになったと思い込んでいた。


 しかし、カイトの言葉から、俺は〝アサシン〟に他人に見えていると分かった。ちょうど、装備に暗殺者のストールもあるし。


 とにかく、二人は俺をアサシン――プレイヤーキラーだと疑っていて、フレンドになり居場所を確認できる状態にし、〝今どこで何しているのか〟を知りたがったのだろう。


 つまり危ない奴に見られたということだが、納得のできる解を得られたところで、俺は漸く始まりし街を出ることができた。


 俺の貴重な時間を割いたんだ、カイトには死んでほしくはない。


 〝どうか世界に殺されないように〟と祈っておくとしよう。

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