第27話 命 コネコチャン

「ごめんね。私も事故だって最初聞いてノリちゃんに慌てて電話したんだけど」

 慣れた様子で車を運転する香織ちゃんの横顔、ちょっとカッコいいんですけど。

「事故じゃなかったの!?」

「うん、足がもつれて転んだんだって」

 は?

 カオリチャン、クワシクオネガイシマス……。


 ☆ ☆ ☆


「コネコを助けた!?」

 車の中で、思わず大声が出てしまった。

「そうなのよ」

 そう言って香織ちゃんが、一瞬何かを言いよどんだんだけど……

「あのさ、ノリちゃん。お願いがあるんだけど」

 なになに?

「コネコ預かってくれない!?」

 え?


 ☆ ☆ ☆


 でも、香織ちゃんから状況を聞くと本当にリュウ危なかったんだよ!


 リュウが車を走らせていると、何だか前を走る車が次々と減速し何かを避けて走ってるいるので、妙だと思いながら同じように避けるとそこには白いコネコが一匹。

 車を路肩に寄せて、果敢にもコネコを救出に向かったらしい。

 次々とやって来る車に身動きが取れなかったコネコは、簡単に保護出来たらしんだけど。

 馬鹿だよね、リュウ。

 交通量の多い道路、急いで路肩に戻ろうとして走り出したものの数歩走ったところで足がもつれて転倒。

 そこへ、前の状況を理解できてなかった後続車が追い越しをしようとして転んだリュウに向かってやって来たらしい。

 運転手は、自分がリュウを轢いてしまったと思ったらしくパニックになって警察と救急車を呼んだ。

 と言う流れらしい。

 リュウの怪我は、転倒した時コネコを抱いていたので上手く受け身が取れず、鎖骨を骨折。

 でもリュウの骨折と引き換えにコネコは無事で、リュウ自らの手でリュウの車の中に保護されていたらしい。

「ほんとバカよね。お兄ちゃん」

 香織ちゃんはため息をついてるけど、私はリュウの勇気と優しさに心が震えてるわよ!

 とは言え、久しぶりに走ったら足がもつれて転倒って……。

 後続車にぶつからなくて本当に良かった。

「で、そのコネコなんだけど。私も元喘息だし、子供らもアレルギーがあったりするのよ」

 なるほど、ではコネコを迎え入れる前に準備をせねば、と言う事で今子猫用グッズを買いに向かっています。


 ☆ ☆ ☆


 買い物を済ませて香織ちゃんに送ってもらって、リュウが鎖骨と引き換えに救った命を迎え入れる準備を開始。

 救った主は、今頃病院のベッドで痛みに耐えてるのかな……。

 大丈夫?

 ってLINEしたいけど、少なくとも今夜はダメだよね。

 ここ数日毎晩リュウとLINEしたりしてたから、静かなスマホが凄く悲しい。

 やだ、ドライアイに潤いが……。

 泣いて何かないからっ!

 こんな事してる場合じゃない。準備を進めないと、もう直ぐ香織ちゃんが子猫を連れて来るのに。

 子ネコの状況によっては、直ぐに病院に走る必要もあるかもしれない。

 幸い、近くに深夜の動物救急があるので、そこへ駆け込む予定。


 今や主の様な顔をして部屋の中を自由にしてるシッポだけど、十年前は子猫用の小さなゲージに入って、ミィミィ鳴いてたのよね。

 確かクローゼットにあのゲージ収納したままの筈。

 シッポは何が始まるのかと、私の周りをウロウロし始めた。

 うなぁん。

「そうだね、これシッポがうんと小さい時に使ってゲージだよ」

 うん大丈夫、使える。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る