第15話 時の流れ ちゃんぽんの味 

「あのさリュウ」

 ここは私が思い切るしかない。

 と言えばなんだか聞こえは良いけど、要はこの状況を抜け出したいだけ。

「うん」

 リュウも同じなのか、空気が動いた事にほっとしたように見える。

「高校の頃のリュウとの思い出って、凄く綺麗なの。もしかしたら、二十二年の間に私の中で美化してしまっただけなのかもしれないけど。だから汚したくない」

 一気に言ってしまった。

 リュウが一瞬、下を向いて、ふぅと一つ息を吐いた。

「失礼します」

 このタイミングで店員さんが、お茶とお料理を運んできた。

 運ばれてきたお料理は本当に綺麗で美味しそう!

「御用の際は、そちらのベルを押してください」

 そう言って、店員さんは出て行った。

「とにかくさ、食おう。おれ、腹減った」

「うん。いただきます」

 せっかくだもん、ちゃんと味わいたい!!!


 ☆ ☆ ☆


 無言でガツガツ食べるのも嫌だし、と思って会話のきっかけは持って来たの。

「ね、リュウ、これ見て」

 あの頃流行っていたインスタントカメラで撮った修学旅行の時の写真。

 長崎の中華街でちゃんぽんを食べに入った店で、店員さんに頼んでみんなで撮った写真。

「うっわぁ、懐かしい」

 手を伸ばして写真を受け取ると、リュウが懐かしそうに笑った。

「この子、ヒトミちゃんだっけ? ノリ仲良かったよな。今でも連絡とか取ってる?」

 リュウがいきなり核心に触れた。

 野中仁美ちゃん。同じ中学から高校に進学して、割と仲が良かった。

 他にも写真には写ってるのに、仁美ちゃんの事聞くんだ……。

 そもそも、リュウと仲が良かったのは仁美ちゃんだった。

「今は、取ってない……。リュウは? こうちゃん、えっと小林コウジだっけ?」

「コウジとはたまに」

「そっか」

 誤魔化しちゃった。

 仁美ちゃんは五年前に癌で亡くなった。

 お見舞いに行った時は、本当に身体が辛そうで長くは居られなかったんだけど亡くなる前に手紙を貰った。

 あの頃、仁美ちゃんはリュウの事が好きだったんだって。でも、リュウは私と話してる時の方が楽しそうで、言い出せなかったけど凄く楽しい時間だったって書いてあった。

 大学は女子大の国文学部だった仁美ちゃんらしく、凄く綺麗で丁寧な字で書かれてあって、今でも大事にしてる。

 時々思うの。

 仁美ちゃんじゃなくて、私が病気になればよかったのにって。

 私にはないけれど、仁美ちゃんには家族があった。

 優しそうなご主人と、可愛い子供達。

 良い人ほど早く亡くなるのよね。

 お通夜の席で誰かが言ってた。

 じゃぁ私はきっと長生きの末孤独死だわ。

 でも……

「どうした?」

 私が急に黙っちゃったんで、リュウが動揺してる。

「仁美ちゃん、死んじゃった……」

 リュウが絶句した。

 写真の中で、ちゃんぽんを前に嬉しそうに微笑む十七歳達。

 この時のちゃんぽん、どんな味だったんだっけ。

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