第13話 不惑にしてモテ期到来 んな訳あるかっ!

『この前はごめん。ノリに会えて一人で先走ってしまった。ノリと再会できて凄く嬉しかった。香織に凄く怒られた。お詫びにメシ奢らせて欲しい』

 スタンプどころか、改行もしてないし、なんだか箇条書き。

 これがリュウからのLINE。

 んー。

 そりゃね、私だって再会出来たのは嬉しかったし、指輪の事も本心を言えば嬉しいわよ。

 だけど、そんな簡単な事じゃないもの。

「ねぇ、シッポ!」

 私のベッドのど真ん中で伸び伸び寝ているシッポに同意を求めたけど、耳すら動かさないなんて同居猫失格よ!

 リュウの取り付けてくれたエアコンは、本当に便利で快適。

 でも、ふと見上げた時に見慣れたエアコンが無い事にまだ少し慣れないのよね。

 既読付けちゃったし、返事しなきゃなんだけど、何て返事すれば良いのか……。

『とになく、ノリとこのままにはなりたくない』

 兎に角が「とになく」になってるよ、リュウ。

 私、やっぱりリュウのバツイチが気になるの。多分、それがなければ指輪は受け取らなくても、ご飯の誘いにも気軽にOKしてたと思う。

 自分だって、結婚までは行かなかったけどこの部屋で一緒に暮らしてたのにね。

 勝手だなって、自分でも思う。

 けど……。

 唯一残っていたアキとの生活の痕跡だったエアコンも、突然現れた、あ、読んだのは私か、家中のリュウの手によって取り替えられてしまった。

 あーっ!

 もぅ!!!

 悩むなんてガラじゃない。

 アキとの時だって「仕事辞められない」の一言で片付けちゃったんだし!

 お気に入りのクマのスタンプで

 OK

 って送ってしまった!

 リュウからの返事は

 投げキッス

 のスタンプ……。

 かるっ!!!


 ☆ ☆ ☆


「えーっ! そんな少女漫画みたいな事ってあるんすねっ!!」

 一緒に取引先に行った帰り、後輩のヤマシタとランチにお蕎麦屋さんに入った。

 うちの会社、一時期経営が危なくて給料が遅配になったりした事があったの。

 でも、現社長当時専務だった社長の息子が「一緒に耐えて欲しい」って頭を下げるもんだから、半年ほど未支給や遅配を乗り越えた。

 あの就職氷河期に拾って貰った恩もあるし、転職先を探すのもね、と。

 この将来社長になると宣言したヤマシタも一緒で、あの頃はプライベートな話とかもしてたんだけど、ヤマシタに彼女が出来てからしなくなった。

 多分、彼氏のいない私に気を使ったヤマシタが敢えてそうしたんだと思う。

 たまにはね。

 そう思って、ちょっと話してみたら一人で盛り上がり始めて、言わなきゃ良かったなってなっているのが今。

「オレ、このまま先輩が独りだったら老後は一緒に暮らそうと思ってタンス!」

 タンスじゃねーわっ!

「だってホラ、先輩はねーちゃんみたいなもんすからっ!」

 いや、違うし。

「何なら、お嫁さんにしてあげてもいいなって、思ってタンス!」

 いや、彼女いるでしょ。

 ってか、今なんて言った?!!!

「オレ彼女いないっすよ」

 え、あの赤いスカートの女の子はどうしたのよ?

 あの頃、どうやって告白するかって大騒ぎきてたのに。

「誰の事っすか?」

 いや、あんた通勤電車で会う毎週月曜日は赤いスカートの女の子が好きで……え?

「あぁ、あんなの半年ももたなかったっす」

 は?

「ふられたっす」

 がはは。

 ガハハじゃないわ。

 こんな奴を出世させるなんて、うちの会社大丈夫?

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る