第28話-グラルの受難⑦

「な、何ですの……アイズさん?」

「いや、別になんでも……」


 アイズの心の内に察しがついてドヤ顔をするシータと首を傾げるグラル。


「……その顔、なんかイラッとくるんだが。やめたほうがいいんじゃねぇか?」


 シータのドヤ顔に文句をつけたのはアイズではなく、グラルだった。

 グラル自身は何の意図も無かったのだが、アイズは目に見えてがっかりとしていた。

 そこへ丁度、ファンク先生が運動に長けた服装でやってきた。


「準備はできたようだなぁ~それじゃあ始めるぞ~」


──そして体育の授業が始まった。


 基本的には男女で別かれて準備体操、ストレッチ、ランニングをまずは行い、それから日替わりで様々な種目を競うことになっている。


「今回は身体能力、50メートル走の測定だぁ~」


 しかし、第一回目の体育の授業であったために各個人の身体能力を測ることになっていたようである。


「測定にはこの魔道具を使う。使い方は──」


 ファンクが天秤のようなものを持ち出すと、片方に自分の魔力を注いだ。


「このように、魔力を通しておくとゴールを通過したときに競走者と比較してくれる~」


 このとき、グラルは嫌な予感を覚えた。


(比較して能力を測定するってことは、十四回走るのか!? 勝ち抜きだったら楽なんだがな……)


「インテグラ、お前の推測の通りだぁ~」

「心を読んでんじゃねぇよ」

「あ゙あ゙!? まあ、とにかくだぁ~比較するということは、当然十四回走るから気をつけとけよ~」

「「「「「…………」」」」」


 グラルを含め、クラス一同の心が一つになったと言っても過言ではないほどに皆、嫌そうな顔をしていた。




 50メートル走の測定が終わるとシータはとても疲れきった様子を見せていた。


「はぁ、はぁ、はぁ……アイズさん、グラルさんが……」

「うん、速すぎるよね。ははは……」


 グラルは【疾風迅雷】の付与があるため移動速度がかなり強化されている。

 そのおかげで見事クラスメイトに勝利したのである。

 【物理学の勇者】アイズさえも走る速さで勝利していたが、そのアイズは多少自信をなくし、乾いた笑いを繰り返していた。


「お前ら大丈夫か?」


 噂をすれば丁度のタイミングでグラルがシータとアイズの前に現れた。


「あ、あ、あ、貴方! どうして【勇者】にも勝ってしまうんですの!? 明らかにおかしいですわよ!?」

「え、い、いや……シータ? 別に私は気にしてないから……」


 勿論嘘であるのだが、アイズはグラルの【積分魔法】について知っている。つまり、このままではグラルは“さらなる追及を免れることは難しいだろう”と考えたアイズは嘘をつくことにしたのである。


「そ、そうなんですの?」

「う、うん。っ、一回この話はやめようよ」

「? わ、分かりましたわ!」


 シータは首を傾げてから強く頷いた。そこへ授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。


「これにて体育の授業は終了だぁ~次の魔法学基礎の授業に遅れないよう早く着替えろよ~」


 ファンクもそう言って次の授業の準備へ向かった。




※※※




「魔法学基礎って一体どこでやるんだ……?」


 魔法学基礎は魔法に密接に関係する“ルーン文字”の他に魔法の発動について学ぶため、それなりの設備が必要になるとグラルは考えていた。


──そのため、“教室ではやらないだろう”とも考えていた。


「え? グラル、聞いてなかったの? 魔法学基礎は特別教室でやるんだよ?」

「特別教室?」


 グラルがアイズに尋ねると予想外の回答が返ってきた。

 特別教室とはクラスの教室とは異なり、一回り大きな教室で二クラス合同で授業が行われる。


 この場合、グラル達のクラスはA組であるからB組と合同で授業を受けることとなる。


 こうしてグラルはアイズと特別教室へ向かうこととなったのである。




──“あ……【堕ちた勇者】だ。”


──“ほんとだな……。”


──“全くすごいよな。俺ならとっくに絶望してるに決まってる。”


──“あれ? 横にいる奴は誰だ?”


──“あれでしょ? 入学首席の!”


──“ああ、数学とかいう……何だっけ?”


 廊下を歩く度に噂話をする声がグラルとアイズの耳を過ぎる。

 一部、アイズを賞賛しているようにも思える噂もあったが、噂というだけでやはりアイズは目を伏せてしまっていた。

 そのためグラルは苛立ちをこらえて、アイズは目を伏せるように廊下を歩いていた。

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