第27話-グラルの受難⑥
「ぐ、グラルさん! 何故あの武器を賭けたんですの!?」
グラルはアイズを伴ってカフェテリアから教室へ戻ると、先に戻ってきていたシータがグラルを問い詰めた。
グラルの
「いや、あれはコストは一切かかってないからな」
「コストがかかってないぃ!? 以前の勝負で貴方が言った“相応の価格”とは嘘だったんですの!?」
シータは口をぱくぱくと金魚のように動かしながら驚きの声をあげる。
「あっ……。はあ、まあいいか。それじゃあ驚いても声をあげるなよ? それを守れるなら──」
グラルが「守れるならいいぞ」と言う前にシータはものすごい勢いで頭を上下に振った。
「……“あれ”は自作だ、捕まえた盗賊団の短剣から創ったんだよ」
グラルは声を潜めつつ、シータだけに聞こえるように片手を口に当てて話した。
「え、ええっ!? あれを創っ──」
「おい、ちょっと待て! 待てっつってんだろうが!!」
グラルはとても焦ったようにシータの口元を背を伸ばして、軽く飛び跳ねて手で覆った。
「…………」
8歳の身長というものが前世では届く高さに手が届かないということにグラルは多少なりともがっかりしていた。
「は、はあ……。で、それは本当なんですの?」
「本当だ。“相応の価格”というのも嘘じゃねぇ。第一、ここで嘘をついても意味がねぇからな」
「それじゃあ何故“相応の価格”なんですの?」
「そこから先は言うことができねぇな」
「っ!」
グラルはきっぱりと断りを入れた。
シータは少し眉間に皺が寄って訝しげな様子を見せるが、“これ以上の詮索は無意味”であることに気がつくとグラルの言葉に返すことを諦めた。
「どちらにしても、絶対に勝ってくださいまし!」
「んなもん当たり前だろうが」
「私が言えたことじゃないけど……頑張ってね、グラル!!」
「ああ、もちろんだ!」
そして午後の授業の始まりを告げるチャイムが鳴った。
※※※
午後に組まれている二つの授業は先に体育、その後に魔法学基礎と呼ばれる科目が設けられている。
体育とは言葉の通り身体を動かして健康の維持などに努める内容である。
そして、魔法学基礎では魔法の発動の仕組みや使われている“ルーン文字”、またはその文法について学ぶことができる。
グラルのクラス全員が男女別の更衣室で身体を動かすことに適した服装に着替える。
因みに体操着というものは存在せず、動き易い服装は自分達で用意することとなっている。
グラルの服装はエフダッシュ伯爵領でディクスからもらった、動き易さに重きを置いた薄めの生地のTシャツとズボンであった。
ズボンの裾は膝にかかるくらいのもので、Tシャツの袖は少なくとも二の腕の先まではあった。
グラルはそれを着用すると、Tシャツが七分袖でズボンが短パンという不格好さに少し恥ずかしさを覚えるも、どうしようもないのでそのまま学院内の校庭と呼べるような広場に移動した。
「プッ……グラル、それどうしたの?」
グラルが広場に移動するなり、アイズはグラルの不格好な服装に笑いをこらえて尋ねた。
「いや、父さんが着ろって渡されたんだが……俺でもこれは、かなり変だと思う。父さんのセンスを疑いたくなるな」
グラルの噂話に
「グラル、たぶん……に、似合っているんじゃない?」
「必死に笑いを堪えられながら言われてもな」
グラルはため息をついた。
するとアイズは少しだけ、自分の身につけている服を揺らしてみせた。
そんなアイズの目には期待の色がこもっている。
アイズは白色のTシャツに紺色の長ズボン、グレーの上着を纏っていた。
その服装はさながら現代のファッションのようであった。
「ん?アイズ、お前その服は……?」
グラルがアイズの
「やっぱりグラルはグラルなのかな。はぁ……」
「? アイズ、どうしたんだ?」
「っ!? う、ううん、何でもない……」
アイズはもう一度ため息をついてから、この服装について教えた。
「これはプリアント公国から取り寄せたんだよ」
「プリアント公国?」
「そう。商人の国らしいよ? だから物の流通が凄いんだって」
「そうなのか。いつか行ってみてぇな……!」
「うん、そうだね! 私も興味があるし……」
「──何!? プリアント公国ですって!?」
グラルとアイズが話をしていると、急にシータがその輪に入った。
シータの服装は動き易いという指定があるにも関わらず、硬めの生地でできた長ズボンと半袖のTシャツだった。
シータの年齢はグラルの推定通り16歳なのであるが、年齢の割りには大きめの膨らみにアイズは目に影を落とした。
グラルは呆れた視線をシータに向けて、アイズは冷たい目をシータの身体の一点にだけ向けていた。
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