たった五文字が言えなくて……
星成和貴
愛してる
たった5文字が言えなかった。
本当に、たったの5文字。嘘なんかじゃない、俺の本当の想い。
なのに、俺はその言葉を一度も言えなかった。
彼女はよく俺に聞いてくれた。でも、その度に俺は頷くだけで、言葉としては何も言ってやれなかった。
言えばよかった。
本当にそう想っていたのだから。
でも、何か、言葉にするのは恥ずかしかったんだ。
言葉にしなくても分かってくれる。
ちゃんと、行動で示しているから大丈夫。
そんな風に思っていた。けれど、それは間違いで、彼女はそんなこと、思っていなかったんだ。望んでいなかったんだ。
百の行動より一つの言葉。
彼女が求めていたのはそれだった。
真剣に将来のことも考えていたはず、なのに俺は……。
彼女の本当の気持ちに気付いてやれなかった。
こんな風になってしまうまで気付いてやれなかった。
だから、きっと、これは俺への罰、なんだろ?
だったら、甘んじて受けるよ。
あぁ、ダメだ……。
意識が……。
こんなこと、考えている間に、せめて、最期に……
「あ、い…………」
動かなくなった男を見下ろしながら、女は悲痛の面持ちで呟いた。
「やっぱり、他に女がいたんだね。アイって誰よ?」
赤く染まった洋服。
けれども、女の頬には清らかな雫が流れていた。
大切なものをなくしました。
たった五文字が言えなくて…… 星成和貴 @Hoshinari
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