バッドエンドから逃げられない
藍原美音
第1話 転生しました
「ううっ……うえええんっ」
只今眼前で泣いている男の子。何を隠そう私の婚約者だ。
何故こんなことになっているかというと、私が男の子の大事なぬいぐるみをビリビリに引き裂いたからだ。こう聞くと私が最低最悪の女だと思われるだろうが、何も好きでこんなことやったわけではない。
―――時は少し遡る。
私は元々誰もが認める《悪い子》だった。我儘三昧で人を困らせることを生き甲斐としているような、典型的な《悪役令嬢》。
しかしそんな性格は、私の6歳の誕生日パーティーで婚約者を紹介された日に一変した。
目の前で小動物のようにビクビクと震える男の子の名は、エドウィン・ローランドというそう。
さらさらの銀髪に、こちらをうるうると見上げるルビーの瞳。普通だったら庇護欲を抱きそうな可愛らしい外見だったが、その頃立派な《悪い子》だった私は嗜虐心をそそられた。
―――しかし、その時感じた確かな違和感。
この男の子、どこかで見たことあるような……そう思った刹那、滝のように流れてきた映像。
プラチナブロンドの髪にアイスブルーの瞳と、まるで私をそのまま成長させたような風貌の女が銀髪の青年に踏みつけられ、剣を突き立てられている。
その近くには黒髪黒目の儚げな美少女が不安そうに眺めていた。
『キャンディス・バーナー、これ以上君の悪行を見過ごすわけにはいかない。その命を持って償え』
綺麗な容姿からはとても想像できない冷徹な声。そしてそのまま剣は振り下ろされ、女は断末魔と共に息絶えた。
その映像は確かに見たことがあった―――前世でやっていた乙女ゲームで。
とにかくライバル令嬢のキャンディスが極悪非道で、ヒロインを虐めに虐め抜いていた。それはもう目も当てられぬほど酷くて、ヒロインは毎日のように泣いていた。
そんな時、同じくキャンディスに虐められた過去を持ち、ヒロインに惚れていた婚約者が憎き敵を断罪するのだ。
―――やばい、どうしよう。てことは、このままだと間違いなく私は死ぬ。だって現状まさに悪役令嬢そのまんまだし、この流れでエドウィンを虐めたら同じ境遇のヒロインに恋してしまい、私は呆気なく処刑される。
さて、これをどう回避するか。―――話は簡単だ。もう今後一切誰も虐めなければいい。
幸い私はまだ6歳だ。今までの行動は若気の至りだった、で全て説明がつく。いきなり人格が変われば周りは不審がるだろうが、背に腹は変えられない。自分の命が何よりも大事だ。
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