肉眼レンズ
"HiKaRu"
第一章 私もいた
私は写真や動画には映らない。
幸い、生まれつきでこうなった訳ではない。
小学二年生の頃に急に私は映らなくなった。
原因は不明。治るかさえも分からない。
だから私は勝手に治らない症状と決めていた。
もうすぐで高校生。
周りのみんなは、スマホやプリクラで自分たちを撮って、それを共有している。
そんな現代では当たり前なことさえも、私には無縁だった。
正直しょうもないと思っていた。
でも寂しかった。
高校生活が始まった。必ず最初にあるのは、わたしの大っ嫌いな自己紹介。この事をみんなに分かってもらいたいとかではなく、後で伝えるのが怖かったからだ。
「それじゃあ、次は鈴元だな。よろしく。」
「はい。」
一度深呼吸した。自己紹介が終わったらもうなんでもいい等、後な事は考えずこう言った。
「映一中学から来ました 鈴元沙耶です。実はわたし写真や動画には映らない体質です。ご理解よろしくお願いします。」
一瞬で教室は静かになった。正直担任の先生も顔を確認したが、いまいち表情が分からなかった。すぐに席に戻り、次々と自己紹介を終えた。
「えーと、うちのクラスは合計28名。ということでよろしくな」
やっと終わった。その事で頭がいっぱいだった。するとクラスの女子が話しかけてきた。
「ねー、沙耶ちゃん」
分かってた。この事実を伝えると本当なのかと確かめたくなるということは。女子のほとんどが、私に絡んでくる。「注目の的」っていう感じであるが、「標的の的」と私は思っている。
「写真に映らないって本当?」
「うん」
じゃあ、という素振りでクラスメイトはスマホ持ち、カシャッと音を鳴らし確認した。
「え…いないよ?」
「言ったじゃん」
本当のことを知ってしまうとこうにも分かりやすい。みんなはその撮った写真を確認すべく、わたしの所に集まる。わたしはごく普通の一般人なのに、みんな写真撮り出して確認している。有名人ってこんな感じなのかって思いつつ、全て受け流していた。
それから、月日が経ち、みんな忘れたかのようにその話題は消えた。
次にやってくるのは行事だ。これも好きではなかった。集合写真や景色を背景にして撮ったりする。思い出作りって事で仕方ないって言い聞かせる。
そして、5月中旬に日帰りのバス旅行があった。休みたくて仕方なかったけど、これで単位を稼げるっていうのもあり、渋々行くことにした。
「どうしよう、何から乗ろう?」
「やっぱ、後ろから落ちるのでしょ」
「ちょっとせこいって、もう1回!」
「言い訳するなって」
バスの中は一瞬で賑やかになった。わたしもようやく友達が出来て、楽しく話していた。
写真を撮ること以外は楽しかったから、あまり気にせずにいた。
「やっと着いたなー」
「早く行こうよ」
「集合写真撮るぞー、並べ並べ」
わたしは担任の所に行き、こう言った。
「先生、私撮るんで並んでください」
「悪いな」
担任は申し訳なさそうに言い、みんなを並べた。わたしは一気に2.3枚撮って素早く終わらせた。そしてみんな一斉飛び出しいった。
とりあえず、最初の写真は終えた。すごく楽な気持ちでいれた。最後もすぐに終わらせようと思い、わたしも友達と駆け出して行った。
帰りの時間
「はい、じゃあ最後写真撮って帰るから早く並べ」
担任がこう言い、写真を撮ろうとした時
「あれ、1人足りないぞ」
「先生、澤村がまだいないっす」
「先生、わたし探してきます」
すぐに彼を探しに行った。早く終わらせたい気持ちで走り回った。
彼は近くにいた。近づいてみると、カメラらしきもので何かを撮っていた。
「澤村くん、探したよ。早く集合写真撮って帰るよ」
彼に少し強く言い放った。のんびりしてる暇なんてないとか、次から言葉が出そうになった。
「すみません。それじゃあ戻りましょう」
自由奔放かよ。なんて思いつつ後についていく。すると
「あ、くままがいる」
彼はマスコットキャラクターの所に行き、子供のようにはしゃいでいた。
「ちょっと…澤村くん!」
わたしは追いかけ、連れ戻そうとした。すると彼はスタッフの方にマスコットと一緒に撮ってもらおうとしていた。わたしは彼を引っ張って戻ろうと思い、近づいたが。
「あー、彼女さん動かないで。枠内に入ってー。そうそうじゃあ撮ります」
急すぎる展開。彼は私のことを何も言わず、写真に収めようとしていた。そしてシャッター音が全身に遮った。スタッフの方になんて言われるか、どうすれば良いか後先の事ばかり考えていた。
「はい、2枚だね。どうぞ」
「ありがとうございます」
彼はお辞儀して話しかけてきた。
「はい、鈴元さん。綺麗に映ってますよ」
皮肉すぎる。お世辞?なにがしたいの?
わたしは頭の中でいっぱい不満が募った。
無駄だけど、確認してみた。
でも、そこには、私がいた。
ちゃんと映っている。度々重なる急な展開で、頭が真っ白でいた。
けれど、何度確認しても映っていた。
「なんで…わたしもいるの?」
そう呟いた。
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