第八章:疾風の戦士と氷の妖精と/02
日没後のビル建設現場。鉄骨でビルの骨組みが組まれたその建設現場に残っていた、帰宅間際の建設作業員たち。そんな彼らは――今まさに、何処からともなく現れた異形の怪人に襲われている最中だった。
「ッ、遅かったか……!」
「……美雪」
「分かってる!」
そんな建設現場へと滑り込むのは、美雪の駆る白と青のRGB250
ヘルメットを脱ぎ捨て、即座に二人は走り出す。向かう先は当然……作業員たちを襲うバンディットの元だ。
「――――そこまでだッ!!」
リュドミラから一歩先んじて飛び出した美雪は、目の前のバンディットに――今まさに建設作業員を蹴り殺そうとしていたその怪人に対し、横から強烈な飛び蹴りを喰らわせた。
美雪の飛び蹴りを側頭部に喰らい、不意打ちを見事にお見舞いされたバンディットが錐もみしながら吹っ飛んでいく。
そうして吹っ飛んでいけば、そのバンディットは建設現場の鉄骨に……ビルの骨組みたる鉄骨に頭から激突。地面にずり落ちた後、よろよろとしながら立ち上がる。
「
起き上がったバンディットとの距離を詰め、更に美雪が連続蹴りを放って怯ませる。
そんな連続蹴りを喰らえば、バンディットは美雪から飛び退いて体勢を立て直そうとしたが。しかしリュドミラは懐からマカロフ拳銃を抜いて発砲。逃げるバンディットに追撃を喰らわせる。
急所を狙えるような距離でもないから、バンディットには毛ほどのダメージも与えられないものの……多少は気を逸らすことが出来た。
「今の内に、早く逃げてっ!!」
リュドミラが気を逸らす中、またバッと地を蹴って懐に飛び込んだ美雪は更なる追撃を仕掛けながら、逃げ遅れた建設作業員たちに向かって叫ぶ。
そんな彼女の突然の行動に、作業員たちは戸惑っていたが……しかし美雪の鬼気迫る顔と猛烈な戦いぶりを見てか、「わ、分かった……!」と頷き、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していった。
「よし……! まずはこれでいい……!」
そうして作業員たちが無事に逃げたのを見送った後、美雪とリュドミラは更なる猛攻を仕掛け、バンディットを怯ませる。
美雪の何撃目かという鋭い蹴りを喰らったローカストが怯み、何歩か後ろにたたらを踏んだのを見て……美雪はバッと飛び退いて間合いを取ると、リュドミラの隣に並び立つ。
「このバッタ……いや、イナゴか。前に師匠が倒したグラスホッパーによく似てる……!」
「
美雪たちの前に立つバンディット。その風貌は――あのバッタ怪人、グラスホッパー・バンディットを彷彿とさせるものだった。
――――ローカスト・バンディット。
それが、この建設現場に現れたバンディットの名だった。
ローカストの名の通り、イナゴの特性を有しているらしいこの個体は、美雪が呟いた通り……その容姿はかつてのバッタ怪人、グラスホッパー・バンディットと酷似している。瓜二つと言っても良いだろう。
だがその体色は、グラスホッパーの草色とは異なり茶褐色をベースとしたもので、顔つきも微妙にだが奴とは異なっている。
恐らくは中級個体だろう。スラリとした長身痩躯の体躯に、無駄なく研ぎ澄まされた、しなやかな筋肉。こちらもグラスホッパー同様、蹴りを主体とした格闘戦を主とした戦闘スタイルと思われる。グラスホッパー系の中級バンディットだということを思えば……決して油断が許される相手じゃない。
「油断は禁物……でも、此処で仕留める!」
並び立った美雪とリュドミラはそれぞれ構えを取り、各々がブレスを右手の甲に出現させた。
身体の下で両手をクロスさせた美雪には、緑と白のタイフーン・チェンジャーが。胸に手を当てたリュドミラには、純白のホワイト・チェンジャーがそれぞれ現れる。
「ふん……っ!」
そうすれば、美雪は両手をクロスさせたまま、身体ごと腕を左に軽く振り……勢いを付けて、そのまま右側にバッと振り返す。
振り返した両腕を、やはりクロスさせたまま……反時計回りに大きく回し。そうして頭上にやって来た両手を、美雪はバッと身体の左側に下ろした。立てた右腕を身体の左側に構え、肘辺りに……手のひらを前に向けた左手を、添えるようにクロスさせて。
「………………」
同時に、リュドミラもその場でくるりと舞い踊る。
右手を胸に当ててホワイト・チェンジャーを出現させれば、リュドミラはスッとつま先立ちになり、軽やかなステップを踏みながら、クルリと身体を一回転させる。
回って正面に向き直れば、リュドミラはそのまま……つま先立ちのまま、両手をスッと軽く左右に広げた。
「疾風転身……タイフーン!!」
「――――開演、
そうして各々の構えを取れば、美雪はタイフーン・チェンジャーの風車のようなエナジーコアに猛烈な風の力を集め。リュドミラは背中からバッと現れた、純白の大きな翼に身体を包み込み……二人は、戦乙女へと姿を変える。
猛烈な風が吹きすさび、その風に乗って白く綺麗な羽根が舞い落ちる中。二人の身体を包み込んだ一瞬の閃光が晴れれば――そこに立っていたのは、風と氷に愛されし二人の神姫だった。
――――疾風の戦士、神姫ジェイド・タイフーン。
――――純白の妖精、神姫スノー・ホワイト。
首に白いマフラーを靡かせる美雪と、舞い散る羽根の中で儚く目を細めるリュドミラ。そんな二人が、今まさにローカスト・バンディットの前に姿を現していた。
「貴様たちの野望は、この私が……私たちが打ち砕く!」
「…………!」
「行くぞぉっ!!」
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