第四章:開演、ベラスニェーシュカ/03
「……飛鷹、終わった」
「よくやったな、リューダ」
強敵リザード・バンディットを容易く撃破してみせたリュドミラは、戦闘終了後……とてとてと小走りで飛鷹の元に駆け寄っていた。
まるで子供のように駆け寄ってくる彼女を見下ろしながら、飛鷹はそう言ってリュドミラの頭を撫でてやる。
「飛鷹……このヒトたちは?」
そうして飛鷹に褒めて貰い、頭を撫でて貰い。満足げに薄く笑んだリュドミラは、傍らに立ち尽くす遥たち三人に視線を向けながらそう、飛鷹に向けて問いかける。
それに飛鷹は「ん? ああ……」と反応すると、遥たちのことを……リュドミラとはお互いに初対面であろう、彼女たちのことを簡潔に説明した。
「私の古い
「……複雑」
「そうだな、話し出すと長くなる。リューダにはまた別の機会に、改めて話してやろう」
二人がそんな会話を交わしている間にも、遠くから物凄い勢いで蒼の閃光が――――ガーランドが駆け抜けてきて。ギャァァっと派手なスキール音を鳴らしながら遊歩道の傍にガーランドが滑り込んできたのを見ると、飛鷹は「退き際か」と呟く。
「ではな、また会おう」
そうすれば、飛鷹はリュドミラとともにこの場を去って行ってしまった。
「伊隅飛鷹……それに、リュドミラ・ルキーニシュナ・トルスターヤ」
歩き去って行った飛鷹とリュドミラの背中を見送りながら、遥はひとりごちる。
すると、遥は圧縮した足裏のスプリング機構を解放して飛び上がり……自分もまたサッと何処かに姿を消してしまった。
「有紀、やっと到着!? って……ああもう、一歩遅かったか!」
「残念ながら、間に合わなかったようだね」
何処かに飛んでいく遥を、戒斗とアンジェが見送っていると。すると遊歩道の傍に停まったガーランドから降りてきたセラと有紀の二人が悔しげにそんな言葉を漏らす。
「ごめん、遅れた!」
「二人とも、無事……なようだね。ひとまずは何よりだ」
セラと有紀は階段を降りて遊歩道に、戒斗たちの傍にやってくると、二人に向かってそれぞれそんな言葉を投げかける。
戒斗がそれに「どうにか、な」と返していると、その傍ら……有紀は飛鷹たちの背中を、大分遠くなってしまった飛鷹とリュドミラの背中を見つめながら、ボソリとこんなことを呟いていた。
「……また、伊隅飛鷹か。それに初めて見る
首を傾げる有紀に、アンジェは「それが……」と、少し言いにくそうにしながら説明しようとしたが。しかし戒斗はそれを遮り、代わりに自分が有紀たちにこう説明した。
「話せば長くなるんだが……あっちの銀髪の女の子、人工神姫だ」
「……なんだと?」
戒斗の告げた一言を聞き、有紀がシリアスに目を細める。
――――人工神姫。
即ち、ネオ・フロンティアに囚われた彼女と……翡翠真、神姫グラファイト・フラッシュと同一の存在。改造手術を施され、人為的に神姫とさせられてしまった悲劇の存在ということになる。
だからこそ、有紀は深刻そうな面持ちで目を細めていたのだ。
「そうか……」
そうした後、有紀は遠い目をして短く呟き。とすれば、頭上の曇り空を見上げながら……こんな独り言を漏らしていた。
「状況は次の段階にシフトしつつある、のかも知れないね…………」
(第四章『開演、ベラスニェーシュカ』了)
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