第七章:青の乙女と烈火の拳、今一度羽ばたく無敵の双翼/04

 そうして飛鷹がモラクス・バンディットに手傷を負わせていた頃、遥もまたナベリウス、そしてアイムの二体と刃を交えていた。

「今度こそ……当ててみせる、ウィスタリア・セイレーン!!」

「その程度……っ!!」

 アイムの放つクロスボウでの狙撃、迫り来る光の矢を聖剣ウィスタリア・エッジで斬り払いながら、遥はナベリウスへと肉薄する。

「ハァァァッ!!」

「むぅ……っ!?」

 そうして、遥のウィスタリア・エッジとナベリウスの鉤爪とが激突した。

 弾かれても、受け流されても、何度も何度も斬りつける。遥の研ぎ澄まされた太刀筋から繰り出される一閃は正確で、それでいて重い一撃。そんな一撃に気圧けおされつつも、ナベリウスはどうにか彼女の剣を防ぎ続けていた。

(隙が見えた……!)

「そこです……ッ!!」

「ぬぅぅぅっ!?」

 だが、そんな防御がいつまでも続きはしない。

 何度も剣を交える中で、遥はナベリウスに生じた一瞬の隙を見抜き。そうすれば、その僅かな隙に遥は渾身の一撃を滑り込ませ、見事ナベリウスの本体に刃を到達させた。

 黒い身体を斬りつけられ、火花を散らすナベリウスが苦悶の声とともに後ずさる。

 そんなナベリウスに対し、遥は更なる追撃を仕掛けようとしたが……しかし、彼方から飛来するアイムの矢がその邪魔をする。

「くっ……!」

 飛んでくる光の矢を斬り払いながら、遥は数歩後ずさる。

 そうしてアイムの狙撃に対処している間にも、ナベリウスは態勢を整えていて。ともすれば、今度は逆にナベリウスの方が遥に向かって飛び掛かってきた。

「よくもやってくれたな……! さっきのお返しだぁっ!!」

「っ……!!」

 重厚な見た目に反して軽快なステップを踏みながら、急接近してきたナベリウスが両手の鉤爪を振りかぶる。

 それを遥はウィスタリア・エッジの刀身で防ぎつつ、しかしナベリウスの仕掛けてくる猛烈なラッシュを前に、反撃の隙を見出せず。さっきまでとは逆に、今度は遥の方がナベリウスのペースに乗せられてしまっていた。

(あの厄介な狙撃……まずは先にあちらをどうにかしなければ、他の対処もままならない)

 そうしてナベリウスの猛攻に耐えながらも、遥はあくまで冷静に現在の状況を分析する。

(ですが――――あちらに気を取られていれば、今度はこちらが攻めてくる)

 内心で呟きながら、鉤爪のラッシュを防ぐ傍らで遥はクッと眉をひそめる。

 ――――最優先で排除すべきは、アイム・バンディットだ。

 間違いなく、あのクロスボウでの狙撃は厄介といえる。実際今だって、ナベリウスを仕留められたはずのタイミングで邪魔をされ、折角のチャンスを潰されてしまったのだ。斬り払うのは容易といえど、あの光の矢での狙撃は面倒なことこの上ない。

 だから、普通に考えればナベリウスよりも先にアイムを仕留めるべきなのだが――――しかし、あちらにばかり気を取られていれば、今度はナベリウスに背中から襲われてしまう。

 まさに全射程対応、完璧な布陣というべきか。悔しいが……ナベリウスとアイム、二体の連携は完璧と言わざるを得ないだろう。互いが互いの隙を補い合う関係、まさに理想的なツーマンセルだ。

(しかし、このままでは……!!)

 ナベリウスの猛攻に耐え続け、時にアイムの仕掛けてくる狙撃にも対処する中。段々と押され始めていく中で、劣勢に追い込まれていく中で……遥は苦い顔を浮かべつつも、それでも諦めようとはしなかった。

 ――――諦めることだけは、絶対に出来ない。

 今の自分の胸には、仲間たちと繋いできた希望の光と……絆がある。戦っているのは自分一人じゃない。どれだけ遠くに離れていても、いつだって皆と繋がっている。皆の想いと願い、託された未来が……間宮遥に、来栖美弥に諦めるなと告げている。

 それに、戦う理由だって幾らでもあるはずだ。いなくなった皆に託された未来を繋ぐため、誰かの笑顔を守るため。そして……自分が自分で居られる居場所に、彼らの元に帰るために。

 戦う理由も、戦い抜く力もこの胸には宿っている。この胸に今も輝き続けている光が……仲間たちの絆がある限り、負けられない――――いいや、負けはしない!!

「どれだけ遠く離れたって、絆は絶対に途切れやしない! だから……美桜、瑠衣、そして母様! 行きましょう……私と、私たちと一緒に!!」

 叫び、遥は渾身の力を込めてウィスタリア・エッジを振るえば、猛攻を仕掛け続けていたナベリウスを振り払い。アイムの狙撃も斬り払いながら大きく飛び退けば、バッと右手のセイレーン・ブレスを構えてみせる。

 そうすれば、彼女の右手の甲にあるブレス……その下部、エレメント・クリスタルが凄まじい輝きを放ち始めた。

 蒼と金、赤と緑に桜色、そして紫…………。

 色鮮やかに光り輝くエレメント・クリスタルの瞬きは、気高く強く、そしてどこまでも優しさに満ち溢れた輝きで。そんな凄まじい輝きを前に四人のバンディットたちは狼狽え、そして飛鷹は「美弥……!」と歓喜の声を上げる。

 そんな輝きに身体を包み込みながら、遥は力の限り叫んだ。仲間たちと繋いできた絆を、今も途切れずに繋がっている、強く、暖かい絆を感じながら。

「もう二度と、誰かの笑顔を奪わせたりなんかしない!! 私が守る! 守り抜いて……みせる!!」

 轟く雄叫びとともに、間宮遥の身体が強烈な閃光に包まれる。

 すると、次の瞬間には――――彼女の右腕には白と金の、そして左腕には紫の神姫装甲が現れていた。

 ――――――神姫ウィスタリア・セイレーン、リナシメントフォーム。

 セイレーンフォーム、ライトニングフォーム、ブレイズフォーム。三つの力の全てを合わせ持つ究極の力。桜花戦乙女同盟の掛け替えのない仲間たちと紡いだ絆、その象徴たる奇跡のフォーム。それこそが、彼女が変身を遂げたこの姿――――リナシメントフォームなのだ。

「美桜、瑠衣、母様――――行きましょう、私たちと一緒に」

 神聖なる輝きの中より出でた究極の姿、リナシメントフォーム。

 遥は金と紫のメッシュが走る前髪の下、金色の右眼と、そして紫色の右眼で眼前の敵を見据えながら……呟き、凛とした面持ちで正対する。この地球ほしの守護者たる戦士として、神姫として。

 全ては、皆の願った明日を繋ぐために。誰も泣かない世界を、無限の可能性に満ちた未来を掴み取るために――――間宮遥は、来栖美弥は再びこの力を手にした。仲間たちと願った、明日を切り拓くために――――――。

「皆の託してくれた力、絆の力で……私は、戦い抜いてみせる――――――!!」





(第七章『蒼の乙女と烈火の拳、今一度羽ばたく不死身の双翼』了)

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