第七章:青の乙女と烈火の拳、今一度羽ばたく無敵の双翼/02

「でやぁぁぁぁぁっ!!」

「むっ……!?」

 補助スラスターを吹かして猛スピードで突撃してきた飛鷹と、彼女の構える薙刀――――ラファールグレイブ。

 その弾丸のような突撃を前に、ナベリウスは一瞬だけ反応が遅れながらも両手の鉤爪で防御。逃げ遅れたアイムを庇ってみせる。

「たぁりゃぁぁぁぁっ!!」

 叩き付けられたラファールグレイブから伝わる、とんでもない衝撃。

 鉤爪で受け止めたナベリウスがその常軌を逸した衝撃に戸惑っている間にも、飛鷹は態勢を整えていて。サッと小さく飛び退けば、振るうラファールグレイブで以て変幻自在の攻撃をナベリウスに仕掛けていく。

 ――――伊隅飛鷹は、一子相伝の暗殺拳・天竜活心拳の伝承者だ。

 そんな彼女が秀でているのは、何も拳を使った徒手格闘戦だけではない。刀剣術や棒術、槍術、弓術、更に銃火器のような近代火器に至るまで……およそ戦う術と言われる、ありとあらゆる術を彼女は極めているのだ。

 それは、薙刀術とて同じこと。故に彼女の振るうラファールグレイブは常人の肉眼では捉えきれないほどの速さで、そして達人にしか繰り出せないほどの研ぎ澄まされた一閃を、次から次へとナベリウスに叩き込んでいる。

 故にナベリウスは飛鷹と、飛鷹の振るうラファールグレイブを前にして、ただただ防戦一方を強いられていた。

「そらそらそらそらッ!! どうしたッ! ソロモンの近衛騎士がこの程度で怖じ気づくのかぁっ!!」

「舐めた真似を……! ――――やれ、アイム!!」

「心得ました……!」

 息もつかせぬ薙刀の猛攻を繰り出しながら叫ぶ飛鷹に、ナベリウスは苦い顔をしながら……相棒たる同じ特級バンディット、やはり更なる後方に下がっていた狙撃手、アイム・バンディットにそう叫ぶ。

 すると、アイムはやはりクロスボウを構えれば、今度は機関銃めいた勢いで光の矢を連続して飛鷹目掛けて放った。

 一見するとナベリウスの背中ごと射抜いてしまいそうな射線だったが……しかし、ナベリウスはアイムの射撃と息を合わせて飛び退き、射線上から離脱。故にアイムのクロスボウが放つ連射が射抜くのは、飛鷹ただ一人だ――――!!

「くっ……!!」

 そんな二人のコンビネーション・アタックには、流石の飛鷹も対応し切れず。回避も間に合わないと悟った彼女は、咄嗟にラファールグレイブを身体の前でグルグルと高速回転させ始め……回る薙刀を盾代わりに、豪雨のように降り注ぐ無数の光の矢を凌いでみせる。

「――――飛鷹っ!!」

 これでは、避けるどころか身動きすらままならない――――。

 その場に立ち尽くしながら、アイムの放つ光の矢を防ぎながら、飛鷹が苦い顔を浮かべていると……そうすれば、遥が唐突に彼女たちの戦いに割って入ってきた。

 飛鷹の危機を察知し、モラクス、フォルネウスとの交戦から一時離脱してきた彼女は、足裏のスプリング機構の瞬発力を生かした踏み込みで一気にアイム・バンディットに肉薄。その茜色の身体にウィスタリア・エッジで斬り掛かることで射撃を中断させ、飛鷹の窮地を救ってみせたのだ。

「飛鷹、無事ですか!?」

 怯んだアイムに更なる連撃を数閃叩き込んだ後、飛び退いた遥が飛鷹のすぐ傍に並び立つ。

 そんな彼女に飛鷹は「どうにか、な……」と気丈に応じつつ、スッと遥と背中合わせの位置に移動する。

 そうすれば、いつの間にか二人の周囲をナベリウスとアイム、そして合流してきたモラクスとフォルネウス、四体の特級バンディットが取り囲んでいて。それを前にした二人は背中合わせになりながら、自分たちの周囲を取り囲む敵と静かに睨み合っていた。

「お互い、苦労が絶えないな」

「ええ、そのようですね……」

「この辺りで一度、選手交代といこう。……美弥、お前はこっちの二人を頼む」

「では、飛鷹はこちらの二体を。ですが気を付けてください、どちらもかなりの強敵です」

「知っているさ、お前の戦いは見させてもらった」

 忠告する遥にニヤリとして言い返しながら、飛鷹は手にしていたラファールグレイブを投げ捨て。そうすれば、今度は両手に二つ目の武具を召喚した。

 次に彼女が召喚したのは、拳銃型の武具。やはり飛鷹の神姫装甲と同じ、赤と黒の目立つカラーリングが施されたそれを……拳銃型の武具『ラファールストライカー』の銃把を握り締めれば、飛鷹はそれを二挺拳銃の格好でグッと構える。

 そんな彼女の後方では、遥もまた聖剣ウィスタリア・エッジを握り直していて。今度は遥がアイムとナベリウスを、そして飛鷹がモラクスとフォルネウスを相手取る形で、それぞれ眼前の敵をじっと見据えていた。

「油断は禁物だぞ、美弥」

「心得ています。……飛鷹も、気を付けて」

「分かっている。勝てるさ、お前と私なら。分かるだろう? 何せお前と私は――――」

「――――無敵の双翼、でしたよね?」

 微笑む遥の気配を背中越しに感じながら、フッと小さく笑んだ飛鷹は「そうだ」と頷き返し。とすれば二人同時に飛び出して、二人は目の前の敵に飛び掛かっていった。

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