第七章:青の乙女と烈火の拳、今一度羽ばたく無敵の双翼/01

 第七章:青の乙女と烈火の拳、今一度羽ばたく無敵の双翼



「ハァッ――――!!」

 聖剣ウィスタリア・エッジを振りかぶる遥を先頭に、神姫二人が四体の特級バンディット目掛けて飛び込んでいく。

 遥がその内の一体、赤いモラクス・バンディットと斬り結び、モラクスの両刃斧と鍔迫り合いを始めたのを横目に、後を追う飛鷹もまた別の特級バンディット目掛けて強烈な飛び蹴りを放った。

「たりゃぁぁぁぁぁっ!!」

 飛鷹が狙い定めるのは、鉤爪を得物とする黒いナベリウス・バンディット。

 だが飛鷹が放った鋭い飛び蹴りに対し、ナベリウスは身体の前で両腕を交差させれば、同じくクロスさせた鉤爪で以て彼女の脚を容易く防いでしまう。

「くっ……!」

「クリムゾン・ラファール、この程度か? 噂ほどではないな……」

「ここからだぁぁぁぁっ!!」

 飛鷹の脚を容易く防いだナベリウスが嘲笑う中、飛鷹はすぐさま反対の脚でナベリウスの構えた鉤爪を蹴り、後方に宙返り。そうして着地すればすぐに踏み込み、ナベリウスとの格闘戦へと雪崩れ込む。

「フッ! ハッ! でりゃぁぁぁぁっ!!」

「この程度!」

 ストレートにアッパー、四方八方から放つ変幻自在の殴打に、時折足払いめいたローキックを挟みつつの猛攻。

 だがナベリウスは飛鷹の繰り出すその全てに対応してみせた。時に鉤爪で、時に腕の甲で受け流し。時に身体をクッと捩らせての回避も交えながら、隙を見て鉤爪での反撃を仕掛ける。

 それに対し、飛鷹もまた必要最小限の動きで対応。鋭い刺突はサッと腕ごと外側に受け流し、袈裟懸けや横薙ぎの斬撃はほんの僅かなバックステップで回避。

 伊隅飛鷹とナベリウス・バンディットは、そんな互いに一進一退の攻防、互角の戦いを繰り広げていた。

「捉えた……っ!」

「くっ……!?」

 だがそんな攻防戦の最中、飛鷹目掛けて別方向から光の矢が飛んでくる。

 少し間合いを置いた場所で構えていた、アイム・バンディットのクロスボウによる狙撃だ。

 飛鷹は飛んできたアイムの光の矢に対し、ナベリウスから飛び退いて距離を置きながら……咄嗟に左腰から抜いたビームソードで斬り払うことで応じる。

 ――――居合斬りじみた勢いで抜刀された飛鷹のビームソード、その緑色のビームの刃がアイムの矢を消滅させる。

「余所見をしている暇はないぞ、クリムゾン・ラファールッ!!」

「っ……!!」

 だが、そうして飛鷹が矢の対応に追われた一瞬の虚を突き、ナベリウスは瞬時に距離を詰めていた。

 隙を見せた飛鷹のガラ空きの懐に飛び込めば、ナベリウスは自慢の鉤爪で以て強烈な刺突を繰り出してくる。

 ――――取った。

 飛び込むナベリウスは、自身の勝利を確信していた。だが――――飛鷹の方が、何手先までも読んでいた。

「見えているさ、貴様の動きなど――――ッ!!」

 ナベリウスが刺突を繰り出す寸前、飛鷹は空いていた左手を右腰に走らせると、そこにあるもう一本のビームソードを抜刀。その刃で以てナベリウスの鉤爪を受け止めてみせたのだ。

「なに……っ!?」

 確信とともに繰り出した、必殺の刺突。

 それが緑色のビームの刃に容易く防がれてしまえば、鍔迫り合いの中でナベリウスが漏らしたのは、そんな呆然とした声だった。

「貴様は確かに優れた戦士のようだ。だが……所詮はその程度! 貴様如きにこの私の拳が、天竜活心拳が敗れるとでも思ったかぁっ!!」

 叫び、飛鷹は両手のビームソードで反撃を仕掛ける。

 ――――縦一文字、袈裟懸け、横薙ぎ、刺突。

 両手で二刀流のように振るうビームソード、その緑色のビームの刃がナベリウスの無防備な身体を斬り刻めば、ナベリウスは中世騎士の甲冑じみたその黒い身体から激しい火花を散らしつつ、苦悶の雄叫びとともに何歩も後ずさる。

「僕の仲間を……ナベリウスを、やらせはしない……っ!!」

 ナベリウスに対して、両手のビームソードで猛攻撃を仕掛ける飛鷹。

 そんな二人から離れた場所に立つアイム・バンディットは、再びクロスボウを構えると、その狙いを飛鷹へと定め直す。

 すぐさまトリガーを引き絞れば、放つ光の矢は三本。今度は三連射での攻撃を、虚を突く背後からの奇襲攻撃を飛鷹へと仕掛けた。

「甘いわッ!!」

 ――――だが、その気配さえも飛鷹は捉えていた。

 アイムがクロスボウを放つ一瞬前、ナベリウスに猛攻を仕掛ける手を止めた飛鷹は途端にクルリと背後に振り返ると、振り向きざまに両手のビームソードを振るい。とすれば、今まさに自分を射抜こうとしていた三本の光の矢を、やはり空中で叩き落としてみせたのだ。

「そんな……っ!?」

「今度は貴様が相手か……面白い!!」

 確実に仕留められていたはずの狙撃を、二度も防がれたアイムが狼狽える。

 そんな風に狼狽えるアイムに向かって突撃すべく、飛鷹は踏み込もうとしたのだが――――そんな彼女の目の前に、ナベリウスが割って入ってくる。

「くっ!?」

「貴様の相手は、この私だ……クリムゾン・ラファールッ!!」

 割って入ってきたナベリウスが振るう鉤爪をビームソードで受け止めつつ、飛鷹が小さく顔をしかめる。

 そうして、再びナベリウスとの剣戟。十数回ほど斬り結んだ後に飛鷹はバッと大きく飛び退くと、一度ナベリウスとアイムから距離を取る。

(やはり、一筋縄ではいかない……か)

 飛び退いて間合いを取れば、二体の特級バンディットと正対しつつ……飛鷹は自身の戦況をそう、冷静に分析していた。

 ――――分かっていたことだが、やはり特級バンディットは規格外の相手だ。

 全く攻撃していないアイムはともかくとして、あれだけ手痛い攻撃を喰らわせたはずのナベリウスまでもが未だに健在な辺り、奴らがどれだけ頑丈で……そして、規格外の相手かは自ずと察せられるだろう。

 何せ、飛鷹が二刀流のビームソードであれだけの斬撃を喰らわせたにも関わらず、ナベリウスはまだ少々手傷を負った程度の反応でしかないのだ。

 普通のバンディット、それこそ上級ぐらいまでなら既に瀕死になっているレベルのダメージだ。それを喰らっても尚、ナベリウスは平気な顔で飛鷹の前に立っていた。

(……美弥の方も苦戦している、か)

 そうしてナベリウスとアイム、二体の特級バンディットと睨み合いながら、同時に横目の視線を流す飛鷹は彼女の……遥の戦況も分析していた。

 聖剣ウィスタリア・エッジを振るう遥は、一見するとモラクスとフォルネウス相手に互角の戦いを繰り広げているようにも見える。

 だが、徐々に彼女の方が劣勢に追い込まれていることを、飛鷹は瞬時に見抜いていた。

 ――――数的不利。

 二対四の不利な状況下では、例えこの二人が長きに渡り戦い続けてきた歴戦の神姫といえども、苦戦を強いられるのは必定というワケだ。

 寧ろ、二人はこの強敵揃いな中で善戦していると言ってもいい。

 とにかく――――飛鷹も遥も、それぞれ次第に追い込まれていることは間違いなかった。

「どうした、クリムゾン・ラファール? 貴様の実力はその程度か?」

「くっ……!! まだまだぁっ!!」

 アイムとともに体勢を立て直し、睨み合いながらナベリウスがそう、挑発するようなことを口にする。

 とすれば飛鷹は苦い顔をしながらも叫び返し、二本のビームソードを腰のラックに戻すと……右手をバッと天高く掲げてみせた。

「来い、ラファールグレイブッ!!」

 すると、そんな飛鷹の叫び声とともに空間がぐにゃりと歪み――――次の瞬間にはもう、飛鷹の右手は長い薙刀を掴み取っていた。

 ―――――ラファールグレイブ。

 神姫クリムゾン・ラファールの武具たる、文字通りの薙刀だ。彼女によく似合う深紅のつかを握り締めれば、飛鷹はそれを頭上でグルグルと大きく回転させ……そして、その切っ先をバッと眼前のナベリウスたちに向ける。

「ここからが本番だ! ……行くぞぉっ!!」

 そんなラファールグレイブを召喚すれば、飛鷹はそれを手に再びナベリウスたちの懐目掛けて飛び込んでいった。

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