第六章:ORBITAL MEMORIES/01

 第六章:ORBITAL MEMORIES



 ――――翌日。

 アパートを出た飛鷹と遥は、それぞれプリマス・ロードランナーとZX‐10R……互いに乗り慣れた車とバイクで並走しながら、二人揃ってある場所へと――――二人にとっての始まりの地、来栖大社へと向かっていた。

 ちなみに、美雪は別行動だ。当初は彼女も来ると言っていたのだが、飛鷹が別の調査を先にしてこいと申し付けてある。だから美雪は最初から同行はせず、その調査が終わり次第、こちらに合流する手筈だ。

「…………此処だ、美弥」

 そうして二人で車とバイクを走らせ、辿り着いた先。山のふもとにある……来栖大社へと続く長い石階段の手前にそれぞれの乗機を停めれば、ロードランナーから降りてきた飛鷹が遥にそう言う。

「…………あの頃の、ままなんですね」

 遥もまた停めたバイクから降り、被っていた黒いフルフェイス・ヘルメットを脱いで。懐かしい景色を見つめながら、遠い目をして呟く。

 そんな彼女に「この辺りはな」と飛鷹は言い、続けて「とにかく、行くとしよう」と手招きをして、遥と一緒に目の前の石階段を昇り始めた。

 ――――遥と飛鷹、二人並んで長い石階段を昇っていく。

 柔らかな木漏れ日の注ぐ、長い石階段。風に吹かれた木々の奏でる、心地の良い葉擦れの音が絶え間なく聞こえる中……二人はゆっくりと、その長い長い石階段を昇っていった。

 そうして昇り切った先、半壊した鳥居が出迎える境内で、遥の目に映ったのは――――来栖大社の、見るも無残に変わり果てた廃墟だった。

 半壊した鳥居も、穴だらけになった境内も。折れてしまった桜の木も、完全に焼け落ちて瓦礫だけになり、見るも無残な様相を見せる本殿も。何もかもが……間宮遥の、いいや来栖美弥の記憶にあるままの来栖大社。一年半前の最終決戦の折、焼け落ちてしまった来栖大社のままだった。

「――――想像はしていましたが、でも……やっぱり、あの時のままなんですね」

 そんな廃墟と化した来栖大社を前にして、遥はポツリと呟く。

 彼女の顔は、やはりどこか暗い色をしていた。哀しげな瞳で来栖大社の跡地を見つめながら、遥は……ただただ、暗い表情を浮かべていた。

「一年半前の戦いで、この場所は戦場になった。お前の家……来栖大社は、ずっとあの時のまま放置されている。見ての通りに、な」

「……飛鷹は、何度も此処に?」

 横目を流して問うてくる遥に、飛鷹はコクリと頷いて肯定の意を返す。

「日本に帰る度、此処に来ている。詩音さんや美桜、瑠衣に会いに……な」

 遠い目をして呟く飛鷹の傍ら、遥は廃墟になってしまった来栖大社を見つめつつ、過去の思い出に……昔懐かしい思い出に浸る。

 学生だった頃――――仲間たちと四人で私立風守かざもり学院に通っていた頃、飛鷹は毎朝ここまで迎えに来てくれていた。遅れてしまった自分を玄関先で待っている間、飛鷹が母に、紫音に聴かせる為に吹いていたハーモニカの音色を……今でも、よく覚えている。

 境内にある桜の木の下で、皆と桜花戦乙女同盟の契りを交わし合った日のことだって、今でも昨日のことのように思い出せる。

『えっと……なんだっけ。我らウマがトキでどーたらこーたら……』

『桃園の誓い、三国志か? やりたいことは分かるがな……滅茶苦茶にも程がある。まるで違うぞ、瑠衣』

『だーっ! 良いんだよ別に! こういうのは雰囲気が大事だろ!?』

『ふふっ……では、私から改めて。

 ――――私たち四人、いいえ五人……生まれた時や場所は違っていても、目指す先は同じです。この空を、この大地を。生命溢れる、この地球ほしを守るために……共に戦いましょう。守護者として地球ほしに選ばれた私たちが、神姫として――――未来永劫、どうか共に在り続けますように』

 ――――そんな記憶も、今は遙か遠くの思い出になってしまった。

 もう美桜も、瑠衣も、そして紫音も居ない。今は飛鷹と二人だけ。桜花戦乙女同盟は――――たった二人きりになってしまった。

「…………皆、いなくなってしまいました」

「……ああ」

「今はもう、私たち二人だけ。でも……飛鷹だけでも、生きていてくれて良かった。今は本当に、そう思います」

「それはこっちの台詞だ。お前が生きていると知った時、私は心底ホッとしたよ。お前だけでも……生きていてくれて、本当に良かった」

「飛鷹……」

 境内を見つめる遥の傍ら、飛鷹はフッと小さく笑い。そうすれば「行こう、お前に見せたいものがある」と言って、遥を連れて歩き出す。

 先を行く彼女に連れられ、遥は境内の奥へ。そのまま敷地を抜け、森の奥深くへと入り……その先、山の中へと足を踏み入れていった。

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