第三章:Princess in the Labyrinth/01
第三章:Princess in the Labyrinth
「たぁぁぁぁぁっ!!」
「…………」
踏み込んできた美雪の鋭い飛び蹴りに対し、遥はほんの僅かに身を捩るだけで回避してみせる。
続くハイキックの連撃に対しても、同様に最小限の動きだけで回避。時にはサッと腕で払ってみせたりもしつつ、遥は大振り気味な美雪の攻撃を必要最小限の動きだけでいなし続けた。
(どういうこと……!? 明らかに、前より強くなっている……!?)
剣すら抜かずに、素手で軽くあしらわれてしまっている。
その事実に、尚も格闘戦を継続する美雪は激しく戸惑っていた。彼女にしては珍しく、その戸惑いが顔に出てしまっているぐらい、美雪は遥との圧倒的な実力差に驚いていた。
(だとしても……私は!!)
「とうッ!!」
――――自分と彼女との、どうしようもないぐらいの実力差。
それを痛感しつつも、しかし美雪は攻撃の手を緩めることはせず。握り締めた拳で軽くジャブを数発放って牽制した後、一度大きく飛び退いて……今度は勢いを乗せた強烈なストレートを遥に向かって放つ。
「ハッ……」
だが、それを遥はまたも容易く受け流してみせると――――突っ込んできた美雪の右手首、拳を握り締めストレートを放ったその手首をサッと握れば、足払いと同時に彼女を大きく投げ飛ばしてしまった。
「なっ!?」
――――視界が、大きくグルリと回転する。
比喩抜きに宙を舞った美雪の身体は、一回転した後にダンッと背中から地面に落下する。
「ぐっ……!?」
アスファルトの地面に強烈な勢いで背中を叩き付けられ、その衝撃に喘ぐ美雪。
すると遥は、そんな足元の美雪に――――合気道の要領で受け流し、投げ飛ばした彼女を見下ろしながら、静かな声音でそっと語り掛けた。
「これ以上争っても、無意味です」
と、ある意味では降伏勧告にも聞こえる言葉を。
「一体、どういうつもりで……!!」
そんな彼女に戸惑いながら、バッと飛ぶように起き上がった美雪は再び戦闘態勢を取るが――――そんな彼女の目の前で、遥はあろうことか自ら変身状態を解いてしまった。
「嘘……」
パッと一瞬光に包まれ、遥の身体から神姫装甲が消失。元通りの私服姿に彼女が戻れば……当然、神姫の認識阻害の能力は失われて。本当の意味で露わになった彼女の素顔、それを目の当たりにした美雪は目を見開いて驚いていた。
「嘘……遥さんが、セイレーン……!?」
――――間宮遥が、ウィスタリア・セイレーンだった。
その真実を目の当たりにして、美雪は驚きのあまり言葉を失ってしまう。思わず戦闘態勢すら解いてしまうぐらいに、彼女は目の前の真実にひどく驚き、そして激しく狼狽していた。
「知らなかったのですか? てっきり、飛鷹から聞いているとばかり思っていたのですが」
そうすれば、遥はそんな美雪の反応を見てきょとん、とした顔で首を傾げる。
今まさに彼女自身が言った通り、美雪が自分の正体について、てっきり飛鷹から――――彼女の師匠から教わっているものとばかり思っていたのだ。
だからこそ、遥はきょとんとしていたのだが……しかし美雪は、今の彼女の言葉に別の引っ掛かりを覚えていた。
――――今、彼女は確かに飛鷹の名を口にしたのか?
「……その言い方、まさか遥さん、記憶が……!?」
そうすれば、美雪が行き当たる結論はただひとつ。間宮遥の……いいや、来栖美弥の記憶が蘇っているということ。
「はい」
美雪の投げかけた確認の言葉を、遥はコクリと頷いて肯定する。
「ですが、この状態もいつまで続くか分かりません。また記憶が消えてしまう可能性も、決してゼロじゃない。……だからこそ、私は行かねばならないんです。あの場所に、私たちが生きていた場所に……もう一度」
「――――やはりか、美弥」
続けて遥が神妙な面持ちで美雪にそう言えば、直後に何処からか懐かしいハーモニカの旋律が聞こえてきて。そんなメロディが止めば、美雪とはまた別の女の声が……二人にとってはあまりに聞き慣れた声が聞こえてくる。
「師匠!」
「……飛鷹」
美雪と遥、二人揃って声のした方に振り返ってみれば。すると、いつの間にかそこに現れていたのは――――他でもない彼女、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます