第二章:願いのリナシメント/04
「はぁぁぁぁっ!!」
完全に相手の虚を突く形で飛び込んだ遥は、無防備を晒すタランチュラ・バンディットに攻撃を仕掛けた。
聖槍ブレイズ・ランスの切っ先を突き立て、タランチュラの胸を突き刺す。完全に奇襲を喰らった形になったタランチュラは胸から猛烈な火花を散らせば、痛みに喘ぎながら後ろにたたらを踏む。
「シュルルルル……ッ!?」
「ハッ……!」
だが、その程度で済ませる彼女ではない。
初撃でタランチュラが怯んだと見れば、遥は更に踏み込んで追撃を敢行。扱いの難しいであろう長槍を巧みに操れば、目にも留まらぬ早業で連撃を叩き込んでいく。
刺突の連撃から横薙ぎに払い、返す刃で更に追撃。くるりと手の中で槍を巧みに回しつつ軌道を変化させれば、袈裟斬りや縦一文字、横薙ぎに突きなどを織り交ぜた連撃を猛スピードで続けざまに叩き込む。
「シュルルルル……ッ!!」
そんな連撃をモロに喰らいつつ、そのダメージに喘ぎつつも……タランチュラは隙を見て遥から離脱。大きく飛び退いて間合いを取れば、瞬時に間合いを詰めてこようとした遥目掛けて口から何かを――――即死溶解毒を吐き出した。
「っ!!」
吐き出された即死溶解毒を、遥はサッと回避。すると彼女に当たらなかった毒液は空を切り、アスファルトの地面に落下し……周囲の地面を猛烈な速度で溶かしてしまった。
一秒も経たない内に、毒液が落ちた辺りの地面が抉れたように溶けてしまう。アスファルトも、その下にあった地面も諸共に溶かされたそこは……まるで隕石の落着跡、クレーターのような様相を見せていた。
(これは……やはり、以前に戦ったものよりも強力ですね)
やはり、タランチュラは以前に戦ったスパイダー・バンディットの正統進化系というワケか。
見た目はよく似ているが、スパイダーは口から即死溶解毒なんて吐かなかった。その威力は……この惨状を見れば分かる通り、恐ろしいほどのもの。
即死溶解毒の存在もあって、タランチュラの強さは、スパイダーの比ではない。流石は上級個体というだけはあるが……油断は禁物だ。
そんな即死溶解毒の威力を見た遥は、タランチュラの追撃を中止して一度離脱。そうすれば、手近に居たロングホーンに連撃を仕掛け……また飛び上がってロングホーンの、今度は角を踏み台にして高く飛び上がる。
「はぁぁぁっ!!」
飛び上がり、空中で攻撃態勢を整えつつあったコンドルに一撃を喰らわせ。怯んだコンドルを更に踏み台にすれば……すぐ傍に居たモスに鋭い刺突をお見舞いする。
「キュルルルル!?」
――――敵を踏み台にして、更に飛び上がる。
そんな遥の常軌を逸した戦い方に驚くモスを、遥は左手のブレイズ・ランスで貫いた。
ブレイズ・ランスの刃が貫いたのは、モスの本体――――ではなく、背中に生えた羽の方。右側の羽を容易く突き破れば、遥はそのままランスを振り下ろし、モスの右羽を大きく裂いてみせる。
「キュルゥゥ――――ッ!?」
そうすれば、バランスを失ったモスが喘ぎながらフラフラと不安定に飛び始める。
「これで……決める!!」
そんな風に羽を裂かれたモスがフラフラと弱々しく飛ぶ中、着地した遥は振り返り、頭上のモスを見上げながらブレイズ・ランスを構える。
右手は前に突き出し、左手は後ろに引き……ランスを脇に挟むような形で構えを取れば、遥はジッと気を練り始める。
自身の中で大きく、強く気を練り込み。そうすれば遥は、それを左手を通して聖槍ブレイズ・ランスに注ぎ込む。
そうすれば、やがてブレイズ・ランスの切っ先には真っ青な焔が宿り始めた。
「ハァァァァ――――ッ!!」
蒼い焔の揺れるブレイズ・ランス。遥はそれを左手の中でクルリと器用に回すと、逆手持ちの構えになり――――ダンッと強く踏み込めば、左手のブレイズ・ランスを――――鋭く、投げつけた。
遥の手を離れ、風を切って飛ぶ細身な槍、ブレイズ・ランス。その軌道上にあるのは勿論、不安定に飛ぶ蛾怪人――――モス・バンディットだ。
「キュル……?」
ダンッと、刺さるというよりは叩き付けられるといった方が正しいほどの衝撃で、ブレイズ・ランスはモス・バンディットの身体にめり込み、その胸に深々と突き刺さる。
そうすれば、最初モスは自分の身に何が起こったのか分からないようだった。きょとんと首を傾げたモスは、妙な衝撃を感じた胸の方に視線を落とし――――自分の胸に槍が突き刺さっているのを見た瞬間、モスは何が起こったのかも分からぬ内に内側から焼き尽くされてしまった。
――――『ブレイズ・ショット』。
神姫ウィスタリア・セイレーンは近距離戦形態ブレイズフォーム、その第二の必殺技だ。
同じくブレイズフォームの必殺技『ハートブレイク・ブレイズ』と同様、槍に蒼の焔を纏わせるという点は同じだが……こちらは直接刺し貫くのではなく、見ての通り投擲して敵を射抜く必殺技だ。
そんな遥の『ブレイズ・ショット』の直撃を喰らったモス・バンディットは、自分の身に何が起こったのかを自覚するより前に蒼の焔で身体を焼き尽くされ、一秒と経たぬ内に灰になり。一瞬前まで身体だったものが風の中に吹き消えていく中、残された槍だけが宙を舞い……再び遥の手の中に戻っていった。
「…………これで、二体目」
戻ってきた槍をキャッチしながら、しかし遥は撃破したモス・バンディットに一瞥もくれることなく、ただ冷静な瞳でそう呟いていた。
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