第二章:願いのリナシメント/03

「ハァッ――――!!」

 構えたライトニング・マグナムの引鉄ひきがねを、遥は躊躇いなく引き絞る。

 銃口から撃ち放たれるのは、金色の光弾。稲妻のように迸る、ブレることのない真っ直ぐな光弾。

 放たれたそんな一撃は遥の目の前、今まさに攻撃の構えを取っていたロングホーン・バンディットを撃ち抜いた。

「グルルルル……ッ!?」

 一撃では留まらず、遥は更に何発も光弾を発射する。

 そんな連続攻撃の激痛にロングホーンは喘ぎ、その巨体のあちこちから激しい火花を散らしながら後ろに大きく後ずさる。

 ライトニング・マグナムから放たれる光弾は、その一発一発がとんでもない威力を秘めている。例え相手が強力な上級バンディットだとしても……手痛い一撃であることに変わりはない。

(今だ……!!)

 ロングホーンが後ずさり、隙を晒したことで包囲網に穴が生まれた。

 それを好機と見た遥は一気に踏み出し、包囲網を突破。すれ違いざまにライトニング・マグナムでロングホーンに数発追い打ちを仕掛けつつ、一気に包囲網を脱する。

「ヒョーッ!!」

「キュルルルル……!!」

「くっ……!」

 だが包囲網を脱出したのも束の間、コンドルとモスの飛行型二体が遥に攻撃を仕掛けてくる。

 空中からコンドルが仕掛けてくる鋭い体当たりを紙一重で避けつつ、遥は空中の二体をライトニング・マグナムで迎撃。その勢いを削ぎつつ距離を取る。

 そうして距離を取りながら、先頭を飛んでいたコンドルにマグナムの連射をお見舞いして撃墜。更にモスも地上に叩き落とすべく、マグナムの照準を空中の蛾怪人に合わせたが――――。

「キュルルルル!!」

「なっ……!?」

 モスは空中で背中の羽を激しくはためかせると、粉のようなものを突然散布し始めた。

 これは――――鱗粉りんぷんだ。

 モス・バンディットの元になった蛾や、或いは蝶のような鱗翅目りんしもくの昆虫に付着しているの粉のことだ。本来は空気抵抗を大きくし、飛行を補助するためのものだが……しかし、今モスが散布したものは何かが違う。

 本能的に感じ取った悪寒と、そして長きに渡る戦闘経験から、遥はこの鱗粉を危険と判断。咄嗟に飛び退いた彼女だったが――――結果的に、この判断が彼女自身を救うことになる。

 なにせ、数秒後にはこの鱗粉が――――爆発したのだから。

「っ……!?」

 空間ごと弾け飛ぶような、突然の爆発。

 その爆風に押され、遥は軽く吹っ飛び……宙返りしつつどうにか着地する。

 そうして着地した遥が顔を上げてみれば――――ついさっきまで遥が立っていた辺り、モスが鱗粉を撒いた辺りに炎の残滓が揺れていた。

 ――――爆発。

 そう、鱗粉が突如として爆発したのだ。

 言うなれば爆発性鱗粉といったところか。原理的には粉塵爆発に近いのだろうが……詳細は分からない。

 何にしても、モスの鱗粉は可燃性の超危険物質であるということだ。もしも遥の判断が遅れ、あの爆発に巻き込まれていたとしたら……手痛いダメージを負っていたに違いない。

「これは……少々手ごわい相手のようですね」

 遥は咄嗟に回避を選択した自分自身の判断に感謝しつつ、しゃがんでいた格好から立ち上がり、再びライトニング・マグナムを構え直す。

 そんな遥の前には、体勢を立て直した他のバンディットたちが迫っていた。

(ジリ貧になる前に……一気に勝負を付ける!!)

 遥は内心で決意すると、ライトニング・マグナムの銃把を握り締め……自身の内側で強く気を練り始めれば、それを右手を通してライトニング・マグナムに送り込む。

 練りに練った気を送り込んでいけば、マグナムの銃口には次第にピリピリとした稲妻が迸り始める。

「フッ……!」

 銃口で小刻みにピリピリと稲妻の迸るライトニング・マグナム。練りに練った気が最高潮に高まった瞬間、遥はその引鉄を引き絞った。

 そうして放たれるのは、鋭い金色の一撃。雷撃を纏った矢のような一撃は真っ直ぐに飛翔し、先頭に立っていた一体を……赤黒いザリガニ怪人、クレイフィッシュ・バンディットを真っ直ぐに射抜いた。

「ホロ、ロロロ……!?」

 金色の光弾に胸を射抜かれれば、それとほぼ同時にクレイフィッシュの身体に無数の稲妻が這い始める。

 まるで茨のようにクレイフィッシュの身体中、赤黒い堅牢な甲殻を這い回る稲妻は、一秒も経たぬうちにクレイフィッシュの全身を覆い尽くし……拘束。完全に身動きを取れなくさせてしまう。

「悔いなさい、貴方自身の行いを――――!!」

 そんな身動きの取れなくなったクレイフィッシュ目掛けて、遥は二撃目を……最大火力の魔弾を撃ち放った。

 限界までエネルギーチャージされたライトニング・マグナムの銃口から放たれるのは、文字通り最大火力の魔弾。銃口から迸る金色の柱は、強烈なエネルギーの奔流……まさにビームと呼ぶべきもので。そんな必殺の一撃を、遥は拘束したクレイフィッシュへと放っていた。

 ――――『ライトニング・バスター』。

 神姫ウィスタリア・セイレーン、遠距離戦形態ライトニングフォームの必殺技だ。一撃目で拘束し、身動きが取れなくなったところにフルパワーの二撃目を撃ち放ち、標的を粉砕する一撃必殺の技。それこそが遥が放った、この『ライトニング・バスター』だった。

「ホロロロロ――――ッ!?」

 そんな必殺の一撃を前に、しかし拘束されて身動きひとつ取れないクレイフィッシュは為す術もなく。その堅牢な身体も、断末魔の叫び声も。何もかもが金色のエネルギーの奔流に焼き尽くされ、その中に消えていった。

 ――――爆風は、ほんの一瞬。

 遥の『ライトニング・バスター』で他のバンディットたちの視界が遮られたのは、ほんの一瞬のことだ。

 やがて、そんな爆風が晴れると。すると舞い上がった土煙の中、それを振り払いながら――――踏み込んできた遥が、バンディットたちの前に姿を現す。

 ――――その左手に、細身な槍を携えながら。

「ハァッ!!」

 左手に握るのは、聖槍ブレイズ・ランス。左腕を包み込むのは、紫の鋭角な神姫装甲。左眼は紫に変色し、左前髪には紫のメッシュが入った姿で、遥は土煙の中から姿を現した。

 ――――ブレイズフォーム。

 神姫ウィスタリア・セイレーン、近距離戦形態。槍を振るい戦場を駆けるその姿、第三の姿にフォームチェンジを遂げながら――――遥は、次なる標的の懐に飛び込んでいく。

「貴方たちの罪を今、その身を以てあがなわせる――――!!」

 そう、気高き深紅の乙女の言葉を借りながら。

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