第十一章:強襲、白き流星/03

「ハッ……!」

「はははっ、当たらないよ!」

「当たらないのなら、当てるまでのこと……!!」

 一方、遥は篠崎潤一郎と……アルビオン・システム、いいやプロトアルビオンと熾烈な戦いを繰り広げていた。

 近距離特化形態・ブレイズフォーム。左腕を紫の鋭角な神姫装甲で包み込み、左の瞳は紫に変色。それに合わせるように左前髪には紫のメッシュが入り、左手には細い長槍……聖槍ブレイズ・ランスを握り締めた姿。その姿で、遥は潤一郎に槍を振るっていた。

 一歩踏み込む度に足裏のスプリング機構を圧縮させ、解放した勢いで一気に距離を詰めていく。

 勢いを付けながら懐に飛び込み、聖槍ブレイズ・ランスの切っ先を潤一郎に……プロトアルビオンの滑らかで艶のある装甲、純白のボディに突き立てる。

 だが、潤一郎はそんな遥の研ぎ澄まされた槍術にも臆することはなく。ひょいひょいっと身軽な身体捌きで左右に飛んでみせ、遥の繰り出す槍の一撃を次から次へと回避してみせる。

 そうしながら、隙を見てアルビオンシューターを構え、遥目掛けて光弾を発射。大半が避けられてしまう中、時に遥の神姫装甲を掠め……小さな火花と装甲の細かな破片を散らしながら、少しずつダメージを与えていく。

 ――――熾烈。

 間宮遥と篠崎潤一郎、神姫ウィスタリア・セイレーンとプロトアルビオンの戦いは、まさに熾烈の一言に尽きる熱戦だった。

 遥も潤一郎も、どちらも一歩も引かぬ猛攻。遥は元より、潤一郎も……普段の態度こそあんな軽薄なものだが、しかし戦闘センスという面に於いては、彼もまた遥同様に本物のセンスの持ち主のようだ。

 現にこうして、互いに五分五分の戦いを繰り広げていることが何よりの証拠だ。

 そんな猛攻の中……遥の繰り出す熾烈な刺突のラッシュを避けつつ、時にアルビオンシューター本体で受け流しながら、潤一郎は遥に話しかけていた。至極上機嫌な、心の底から楽しんでいるような声で。

「ふふっ、良いね! フェニックスにミラージュ、神姫と一対一で戦うのはこれで三度目だけれど……君とのバトルが一番楽しいよ!!」

「楽しむ余裕など、これ以上与えません!!」

「良いね良いね、その意気だ! ああ、とっても楽しいよ! 君との戦いは、まるで彼との……戦部戒斗との戦いのように楽しくて仕方ないんだ!!」

「この……っ!!」

 鋭い刺突の後、クッと槍を返して放つ横薙ぎの一閃。

 それに対し、潤一郎は飛び退くことで対応してみせるが……しかし避け切れず。ブレイズ・ランスの切っ先が僅かに右の脇腹を掠め、白く綺麗な装甲から僅かな火花がパッと散る。

「ウィスタリア・セイレーン! 折角だから君の名を聞かせておくれよ! こんなに楽しく戦える相手……僕の胸にその名を刻みたいんだ! 彼のように、戦部戒斗のようにっ!!」

「貴方のようなヒトに名乗る名前など……!!」

 言いながら遥は更に刃を返し、また横薙ぎに返す一閃を放とうとするが……しかし潤一郎がシューターを構えたのを見て、咄嗟に防御態勢に移行。その場に立ち止まれば、後ろっ飛びになりながら潤一郎が撃ってきた光弾をブレイズ・ランスで巧みに斬り払う。

「ところでさセイレーン、確か君は銃も使えたよね? 折角だから、僕と一対一の撃ち合いと洒落込まないかな?」

「お断りしますっ!!」

「連れないねえ……っ!!」

 スプリング機構を圧縮解放し、バンッと踏み込んで距離を詰めてきた遥。彼女が振るうブレイズ・ランスの研ぎ澄まされた一撃を、潤一郎はアルビオンシューターの下部……折り畳まれた銃剣をバチンと起こせば、そのブレードで受け止めてみせる。

「くっ……!!」

「良い突きだ……! 流石はお爺ちゃんたちを苦戦させただけのことはあるみたいだね……!!」

「貴方は……貴方の言う正義とは、一体何なのです!?」

 聖槍ブレイズ・ランスとアルビオンシューターの銃剣、互いの刃で斬り結び、鍔迫り合いの状況下で至近距離から睨み合いながら、遥は潤一郎に叫ぶ。

 それに潤一郎は「正義さ!」と笑顔で叫び返し、

「安心してくれ、すぐに君たちも解放してみせる! 悪の秘密結社の企みは……この僕が、アルビオンが叩き潰してみせる!!」

「っ!? 貴方、そんなことを本気で言っているのですか……!?」

「本気も本気! 何てたって僕は正義の味方だからね!!」

「篠崎潤一郎……貴方の眼は、決して悪人のものではない! なのに……なのに、何故貴方はっ!?」

 冗談や世迷言などではなく、完全に本気で自らのことを『正義の味方』とうそぶいてみせる潤一郎。

 そんな彼の言葉に、態度に……遥は戸惑いながらそう叫んでいた。

 ――――篠崎潤一郎の眼は、その瞳の色は……決して、悪人のものではない。

 初めて彼の姿を目の当たりにした時から、遥は内心でそう感じていたのだ。彼の姉である篠崎香菜に感じていた、あの瞳の奥にある影の色が……底知れない悪意の気配が、潤一郎の瞳には欠片も感じられない。

 だからこそ、遥は潤一郎が秘密結社ネオ・フロンティアの一味として自分たちと敵対し、バンディットを従え……そしてあまつさえ自らのことを正義の味方、などと言うことが本気で理解出来なかったのだ。

「何にしても、嬉しいよ……! 彼以外にも、こんなに楽しく戦える相手が居たなんてね……!」

「くっ……!!」

「なればこそ、君には最大の礼を以て応じよう!!」

 だが、そんな遥の困惑も当の潤一郎には届かない。

 潤一郎は戸惑う遥にそう言うと、彼女の構えたブレイズ・ランスと鍔迫り合いをしたまま……シューターのローディングゲートを解放。白いアルビオン・カートリッジを取り出せば、代わりに別のBカートリッジを……濃緑色のカートリッジを装填した。

『MANTIS ACTIVATE』

 そのカートリッジが装填され、シューターから無機質な電子音声が鳴り響いた瞬間。遥が刃を交わしていたシューターの銃剣、そのブレードに金色のエネルギーフィールドが覆う。

 そうすれば、遥は途端に力負けし……鍔迫り合いの格好から、そのまま押し切られるように軽く吹っ飛ばされてしまう。

「くっ……!?」

 突然の力負けに戸惑いながらも、数メートル後方に着地する遥。

 ――――『マンティス・カートリッジ』。

 それこそが、潤一郎が鍔迫り合いの最中に装填したBカートリッジの正体だった。

 下級個体、カマキリ怪人マンティス・バンディットの力を閉じ込めたカートリッジ。その効果は今まさに見た通りで、アルビオンシューターの銃剣にエネルギーフィールドを纏わせ、斬撃能力を強化することだ。

 遥はそのせいで力負けを起こし、こうして僅かながらに吹っ飛ばされてしまった……というワケだ。

「さあ、ここからが本番だ! 付いてきてくれよ、セイレーン!!」

「っ……!! 戦うというのなら、容赦は無用ですか……!!」

 金色のエネルギーフィールドが銃剣を覆うアルビオンシューター。それをクルクルと手元でガンスピンさせながら、潤一郎は至極楽しげな声で告げる。

 それに対し、遥は左手で聖槍ブレイズ・ランスを握り直しながら、鋭い視線とともに彼と相対する。

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