第十一章:タイフーン・アクション/02
「行くぞぉっ!」
ジェイド・タイフーンに変身した美雪は欄干から飛び降りると、その勢いのまま真に飛び蹴りを敢行。鋭い蹴りを喰らった真が小さくよろめく中、しかし容赦なく美雪は二撃、三撃と更なる追撃を彼女へと喰らわせる。
――――圧倒的。
美雪の戦いぶりは、その一言に尽きた。
回し蹴りの三連撃をお見舞いし、隙をついて更に素早い拳を叩き込む。真もグラファイトソードの刀身や、或いは腕の甲なんかである程度は受け流していたが……それでも、美雪の攻撃を全て防ぎ切れてはいない。
断言できる。ジェイド・タイフーンは徒手格闘戦に於いて彼女を、グラファイト・フラッシュを圧倒していた。
「……殲滅」
「貴様のような正義なき拳! 確固たる意志のない拳に……私が負けるものかぁっ!!」
「……撃滅」
そうして格闘戦で圧倒される中、真は戦闘方針を変更。明らかな強敵である美雪よりも先に、まずは死に
距離を取ると、真はグラファイトソードを右腕装甲に格納。とすれば今度は左腕の装甲を開き……今度は洋弓型の武具『グラファイト・ボウ』を左腕装甲に展開する。
右手は虚空より召喚した矢を掴み、それを左手の弓に
項垂れたまま動かない戒斗に狙いを定め、彼を射抜かんと真は迷いなく弓を射った。
だが――――――。
「させるかぁっ!!」
彼女の放った矢が、戒斗を射抜くことはなく。放たれた矢は半ばまで飛翔したところで美雪に、飛び上がって鋭い蹴りを放ってきた彼女に弾き飛ばされてしまった。
バンッと音がするぐらいの勢いで矢に蹴りを叩き込み、美雪は真の射った矢を空中で叩き落してみせたのだ。
そうして矢を叩き落せば、美雪は着地し……再び格闘戦の構えを取りながら彼女を、二本目の矢を番えようとする神姫グラファイト・フラッシュを鋭く睨み付ける。
「…………」
「貴様が師匠の仰っていた人工神姫だとするのなら……可哀想だが、此処で仕留めるッ!!」
叫び、ダンッと踏み込んだ美雪は鋭い蹴りを喰らわせ、真を大きく吹っ飛ばす。
後ろ向きに吹っ飛びつつも空中で態勢を整え、ガリガリと地面を削りながら……どうにか着地する真。
そんな真を見据えつつ、美雪は彼女から大きくバック宙で距離を取ると……再び、両手を身体の下でクロスさせる構えを取る。
「サイクロン・コンバート……!!」
風車のようなエナジーコアに集めた風の力、それを限界まで右脚に凝縮させ……そうすれば美雪は一気に踏み込んで真の懐へと潜り込み、強烈な回し蹴りを彼女の腹に叩き込む。
「これで終わりだ! 喰らえ、タイフーンシュートッ!!」
「…………!!」
風の力を脚に凝縮させて放つ強烈な蹴り、美雪の……神姫ジェイド・タイフーンの必殺技『タイフーンシュート』。
それの直撃を喰らった真は凄まじい勢いで後方に吹っ飛び、ゴロゴロと地面を何度も転がった末……高みの見物を決め込んでいた篠崎香菜、その足元へと倒れた。
すると、真は……タイフーンシュートを喰らった際のダメージがあまりに大きかったらしく、よろよろと立ち上がりはしたものの……そのまま変身を解除されてしまっていた。
「……引き際、ですわね」
そんな真の様子を見た香菜はボソリとそう呟くと、
「今日はこの辺りでお
と言って、真を自分の車に……紫のマクラーレンに乗せると、交戦中の潤一郎にも「後はグラスホッパーとコフィンに任せて、私たちは退きますわよ」と言い、自分もマクラーレンの運転席に乗り込んでいく。
「ああ、そうだね姉さん……! 流石に僕も限界だ……!!」
そんな姉の言葉に頷くと、潤一郎は刃を交えていたアンジェを押し退けて高く飛び、先んじてマクラーレンで走り去っていった姉とともにこの場から姿を消してしまった。
「逃がすかぁっ!!」
美雪はそのままバイクに跨り、逃げる香菜たちを追撃しようとしたが…………。
「っ……」
しかし、傍らで項垂れる戒斗の姿を。意識を失ったまま動かない彼の姿を目の当たりにして、追撃に打って出ることを躊躇した。
「……仕方ない、貴方は私にとっての恩人ですからね」
美雪はそう呟きながらバイクを降りると、欄干にもたれかかったまま動かない戒斗の身体をよっこいしょ、と片腕で抱え。するとそのまま大きく飛び、後方のウェズたちSTFヴァイパー・チームの元まで一気に運んでみせる。
「戒斗さんのこと、任せましたよ」
「……! ああ、恩に着るぜ嬢ちゃん!!」
「礼には及びません」
運んできた戒斗を地面に横たわらせる美雪と、それに感謝の言葉を口にするウェズ。
二人がそんな言葉を交わし合っている間にも、アンジェたち三人の神姫は未だグラスホッパー・バンディット、そして量産型のコフィン・バンディットの大群と戦い続けていて。そんな三人の戦いに美雪も加勢しようと構えたのだが――――そうした瞬間、何処からか猛スピードで突っ込んでくる車の気配を彼女は感じていた。
「アレは……まさか!?」
ギャアアッと派手に横滑りしながら、大橋の上に颯爽と現れたのは……古いアメ車だった。
…………一九七〇年式、プリマス・ロードランナー。
赤いボディの鼻先から尻までを太い黒のストライプが走る、大柄なボディの古いアメ車。426
「…………」
現れたそんなロードランナーの運転席から、一人の女が颯爽と降りてくる。
燃える焔のように真っ赤な髪を、長いポニーテールに纏めた女だ。髪の結び目には黒い紐があしらってある。
そんな女の瞳は切れ長で、サファイアのように綺麗な紫色をしていたが……右の目元には薄くだが、縦に走る刀傷のようなものが窺える。そんな右眼の傷跡が、彼女が只者ではないことを暗に示していた。
右眼に刀傷のあるその女、背丈は一八二センチと……セラに迫る勢いの長身だ。
ちなみに、スリーサイズは上から八九・五六・八七と、体格に見合うだけの贅沢なプロポーションなのだが……この切迫した状況下、そんな部分にまで注目する余裕は誰にもない。
また、女の格好は黒いTシャツの上から真っ赤な革ジャケットを羽織り、下は履き古しのジーンズに、軍払い下げ品のコンバットブーツといった格好だった。手には黒革の指ぬきグローブを嵌め、目元には細身なサングラスを掛けている。まるで、右眼の傷跡を隠すかのように。
「一体以外、残りは全てコフィンか……なら、問題はあるまい」
女はそう呟くと、車の助手席から大きな単発式のグレネード・ランチャーを……古いコルト・M79のグレネード・ランチャーを引っ張り出してくる。
右腕一本で構えたそれをブッ放せば、炸裂するグレネード弾で以て数体のコフィンを一度に撃破してみせる。
そんな風にコフィン数体を丸ごと吹き飛ばせば、女は弾切れのランチャーをそのまま車の中に放り捨て。すると運転席のドアを閉じながら、コツコツと軍靴で足音を鳴らしながら……悠々とした足取りで、遥たち神姫三人の方へと歩み寄っていく。
「情けないな、
そうして歩きながら、彼女は――――
(第十一章『タイフーン・アクション』了)
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