第十二章:赤き拳を持つ女/01
第十二章:赤き拳を持つ女
「だ、だれ……?」
「アンジェ、アンタは無理せず下がりなさい! っていうか……ちょっと、今度は何よ……!?」
「一体……?」
現れた謎の女、伊隅飛鷹に困惑するアンジェとセラ、そして遥の三人。
そんな三人の様子をよそに、歩いてくる飛鷹は遥を見つめながら「美弥!」と叫ぶ。
「貴女は……?」
「美弥、私が分からないのか?」
「っ……」
「そうか……やはりあの時の衝撃で、記憶を失ってしまっていたか……」
戸惑う遥を前に、飛鷹は残念そうに肩を落としつつ。自身に襲い掛かってくるコフィン・バンエィット数体を軽くいなすと、そのままの流れで……研ぎ澄まされた拳法で瞬時にコフィン数体を叩きのめしてしまう。
そうして叩きのめせば、飛鷹は懐から……赤い革ジャケットの下に吊るしたショルダーホルスターからベルギー製の自動拳銃、ファイブセブンを右手で抜いた。
サッと抜いたファイブセブンを飛鷹は手近なコフィンの首元、灰色のヘルメットとコンバットアーマーとの隙間に突っ込む。
「量産型か、コイツらの弱点なら熟知している」
呟きながら、飛鷹はそのままガンガンガン、とファイブセブンを三連射。隙間に滑り込ませた拳銃が火を噴けば、飛び出した五・七ミリ弾が中枢神経をズタズタに引き裂き……コフィンの生命活動を即座に停止させる。
そうしてコフィンが絶命したのを見ると、飛鷹は同じ要領で二体、三体と手早く撃破していく。何の変哲もない、ただの拳銃だけで。
「シューッ……!!」
「むっ……!」
そんな風にコフィンを次から次へと仕留めていくと、そんな飛鷹に向かってあのバッタ怪人、グラスホッパー・バンディットが飛び掛かってくる。
飛鷹は襲い来るグラスホッパーの飛び蹴りを軽く身を捩るだけで避けると、続く回し蹴りのラッシュも片腕だけで軽く受け流してみせる。
受け流すと、逆に鋭い掌底をグラスホッパーの
「下級……いいや、中級バンディットか。ならば……この辺りを撃てばいいか」
そんな具合にグラスホッパーを素手の格闘戦で怯ませると、飛鷹は素早くグラスホッパーの弱点を……構造上どうしても弱い個所を瞬時に見極め、その場所に右手のファイブセブン自動拳銃を素早く捻じ込んでしまう。
捻じ込んだのは、グラスホッパーの口の中だ。そこにファイブセブンの銃口を突っ込むと、飛鷹は容赦なしに引鉄を絞って連射する。
細身なスライドが激しく前後し、金色の熱い空薬莢が吐き出される度に、グラスホッパーの口内から喉の内側へと五・七ミリ拳銃弾が叩き込まれる。
そうして弾倉に残った全弾を叩き込んだ頃、飛鷹はグラスホッパーを蹴っ飛ばして距離を取り……弾切れのファイブセブンを再び懐に収める。
口内を撃たれまくったグラスホッパーは苦しみに喘ぎながら、空いたままの口より白い煙を吹き出している。
喉の内側をあれだけ撃たれても死なない辺り、流石はバンディットといったところだが……それでも、あの連射でかなりのダメージを飛鷹に負わされたことは、誰の目から見ても明らかだった。
「シューッ、シューッ……!!」
「さあ、来い!」
とすれば、手痛いダメージを貰ったグラスホッパーは激昂し。口から潰れた五・七ミリ弾の弾頭を幾つも吐き捨てながら、怒りに任せて飛鷹に突進してくる。
飛鷹はそれに対し、熱く叫び返すものの……しかし手捌きはあくまで冷静なまま、グラスホッパーの繰り出す鋭い蹴りを全て受け流してみせる。
そうしてグラスホッパーの蹴りを流しながら、逆に飛鷹の方が胸や腹に何発も殴打を喰らわせていく。
銃を使わない徒手空拳でも、伊隅飛鷹はグラスホッパー・バンディットを圧倒していた。彼女の戦いぶりはあまりに一方的で、最早グラスホッパーの方が可哀想に思えるぐらいの……そんな戦いを彼女は繰り広げていた。
「…………何なのアイツ、通常兵器でバンディットと渡り合ってるどころか……生身で互角以上に戦うなんて、冗談でしょう…………?」
そんな飛鷹の圧倒的な戦いぶりを目の当たりにして、セラはただただ困惑しきっていた。
――――生身の人間が、バンディットを圧倒する。
常識的に考えれば、そんなことは天地がひっくり返ってもあり得ないはずのことだ。
何せ彼女の拳銃は……ほぼ間違いなく普通のフルメタル・ジャケット弾、ごく普通の通常弾だろう。間違いなくP.C.C.Sの特殊徹甲弾、対バンディット戦用に開発されたNXハイパーチタニウム弾芯の徹甲弾ではない。
そんな普通の拳銃で渡り合っているだけでも驚きだというのに、あろうことか彼女は……伊隅飛鷹は、素手ですらあのグラスホッパーを圧倒していた。
グラスホッパー・バンディット、嘗てセラたちが苦戦を強いられた相手だ。
一度は戒斗が倒した相手だが、今は更に強化された形で復活している。歴戦の神姫であるはずのセラや、そして遥でさえもが苦戦するような相手を……彼女は素手で、生身での格闘戦で圧倒しているのだ。
だからこそ、セラが困惑するのも決して無理もない話だった。グラスホッパーの強さを、厄介さを身をもって味わっているが故に、今目の前にある光景が意味不明で仕方なかったのだ。
「あの方は……」
そんな、困惑しきるセラの傍ら、遥も残ったコフィンと戦いながらそう呟いていた。
「良いだろう、美弥! お前が私のことを忘れていたとしても……私は決して忘れはしない!!」
飛鷹はそんな遥に言いながら、グラスホッパーに強烈なハイキックを喰らわせてド派手に吹っ飛ばし。グラスホッパーがゴロゴロと激しく地面を転がりながら遠ざかっていく中、バッとその場で拳法の構えを取ってみせた。
「ならば見せてやろう! そして教えてやる! 私の名は伊隅飛鷹!
チラリと一瞬だけ遥に視線を流し、すぐさま目の前のグラスホッパーを見据え……飛鷹が、叫ぶ。
「行くぞぉっ!!」
そうして叫べば、飛鷹は腰の位置に両の拳を引き……その流れのまま、両腕を大きく上に伸ばした。
伸ばした両腕を、そのまま大の字になるように左右に広げ。すると飛鷹は広げた両腕を翻せば、右の拳と左の拳、二つの拳を胸の前で勢いよく叩きつけてみせた。
ガァンっと激しく激突する拳と拳、その間で強烈な火花が散り……同時に、彼女の両手の甲にガントレットが出現する。赤と黒の、神姫の証たる一対のガントレット……『ラファール・チェンジャー』が。
「剛烈転身……ラファール!!」
ぶつけた拳と拳を放し、勢いをつけて腕ごと上半身を大きく左に振り、その勢いのまま身体を右に振り返し……拳を握り締めた左腕を、身体の前で斜めに構える。
そうした構えを取りながら、飛鷹は腹の底からの雄叫びを上げ。とすれば、彼女の身体は途端に紅蓮の焔に包まれた。
彼女の周りに巻き起こった真っ赤な焔は腕を、肩を、脚を、胸を……全身を包み込み。そうして紅蓮の焔が身体に渦巻けば、伊隅飛鷹の姿は全く別のものへと変化する。赤と黒の流線形の神姫装甲を身に纏った……気高き神姫の姿へと。
――――神姫クリムゾン・ラファール。
紅蓮の焔をその身に宿したまま、燃え盛る炎の中から姿を現した彼女の出で立ちは、まさしく神姫と呼ぶに相応しいほどに気高く……そして、何処までも雄々しいものだった。
身に纏うのは、赤と黒の神姫装甲。色合いこそセラと同じだが、しかし飛鷹のものは流線形を描いていて……そんな軽装寄りな見た目は、重装甲なセラとは対照的にスマートな印象。前腕と脚部の装甲に施された派手な放熱スリットや、背部に足裏、肘にある補助スラスターの存在もあってか、同一のカラーリングながらセラとは全く異なる雰囲気だった。
それこそが、伊隅飛鷹が変身した姿。燃え盛る烈火の焔が如き熱い心をその身に宿した、気高く雄々しき剛烈の神姫――――クリムゾン・ラファール。
「クリムゾン・ラファール! 天竜活心拳、この伊隅飛鷹が相手だ! ……行くぞぉっ!!」
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